「過払い金返還請求」という言葉は、多くの方がCMやネット広告などで目にしたことがあると思います。
「過払い金」とは「返しすぎた借金」のことですが、CMやネット広告のとおり、金融機関は本当に過払い金を返してくれるのでしょうか?
今回は「過払い金」に関する法律上のルールと、返還を受けるための方法について解説します。
1. 「過払い金」とは?
「過払い金」とは、借金をした人(債務者)がお金を貸した人(債権者)に対して、返しすぎた借金のことです。
より正確に言えば、「利息制限法の上限金利を超えて支払った金利」が過払い金に当たります。
1-1. 利息制限法の上限金利について
利息制限法1条により、金銭消費貸借(借金)の金利には、以下の上限が設けられています。
ところが、金銭消費貸借契約の中では、上限金利を超過した金利が定められていることがあります。
この場合、超過分は「過払い金」となり、債権者(金融機関など)に対して返還を請求できるのです。
1-2. なぜ「過払い金」が発生したのか?
過払い金が発生している場合、金銭消費貸借契約で設定されている金利は、いわば「違法金利」です。
しかし、大手の消費者金融などが債権者となっている借金についても、過払い金が軒並み発生し、数多の過払い金返還請求訴訟が提起されました。
このような事態は、いったいなぜ発生したのでしょうか?
実は、上限金利規制が現在の形となったのは、2010年6月18日に改正出資法・貸金業法に施行されてからです。
それ以前は、以下の理由から「グレーゾーン金利」が存在していました。
<グレーゾーン金利が発生した背景事情>
①出資法の上限金利は年29.2%だった|それ以下であれば刑事罰・行政処分なし
利息制限法の上限金利が15~20%であるのに対して、法改正以前の出資法の上限金利は年29.2%とされており、両者の間にズレが生じていました。
このズレている部分が「グレーゾーン金利」です。
出資法の上限金利を超えた場合は刑事罰の対象になりますが、それ以下であれば刑事罰の対象ではなく、さらに行政処分が行われることもありませんでした。
つまり、グレーゾーン金利を設定することに対するペナルティは存在しなかったのです。
②みなし弁済制度が存在した
利息制限法上、グレーゾーン金利は原則無効であったものの、債務者が納得して支払っているなど、一定の条件を満たす場合にはグレーゾーン金利の支払いを有効とする「みなし弁済」が認められていました。
上記の法令内容を根拠として、各金融機関はこぞってグレーゾーン金利での貸付けを行い、消費者を搾取する状態が続いていたのです。
しかし、最高裁はこうした事態を問題視し、グレーゾーン金利を無効とする判例法理を確立していきました。
そして最終的には、2010年6月18日に施行された改正出資法・貸金業法によって、以下のルール変更が行われ、グレーゾーン金利は撤廃されました。
<改正出資法・貸金業法による変更点>
・出資法の上限金利を20%に引き下げ
・利息制限法の上限金利を超える金利設定を行政処分の対象化
・みなし弁済制度の廃止
グレーゾーン金利の撤廃後は、健全な金融機関がグレーゾーン金利での貸付けを行うことはなくなりました。
その一方で、法改正以前に貸し出された借金については、グレーゾーン金利が支払われていたケースもあります。
この場合、利息制限法の上限金利の超過分については、債権者に対して返還を請求できるという判例法理が確立されています。
そのため、2010年6月17日以前に貸し出された借金について、過払い金請求が続出する事態となったのです。
2. 過払い金を返してもらう方法は?
債権者(金融機関など)から過払い金を返してもらう方法は、主に「交渉」か「訴訟」に大別されます。
2-1. 債権者(金融機関)と交渉する
まずは、利息制限法に従って過払い金額を計算したうえで、計算の結果・根拠を債権者に連絡し、過払い金の返還について交渉を行いましょう。
債権者としても、グレーゾーン金利を返還する義務があることは、おそらく認識しています。
そのため、迅速な解決を目指す観点から、債権者が任意に過払い金の返還に応じる可能性は、それなりにあると考えられます。
2-2. 訴訟を起こす
債権者が過払い金の返還に応じない場合には、裁判所に訴訟を提起しましょう。
訴訟では、過払い金が発生している事実や、その金額などを立証しなければなりません。
金銭消費貸借契約書や、過去の返済履歴などを証拠提出し、早期に過払い金の返還を命ずる判決を得られるように対応してください。
3. 過払い金返還請求の依頼先|弁護士or認定司法書士
交渉・訴訟のいずれの場合であっても、過払い金返還請求を行う際には、専門家に依頼するのがスムーズです。
過払い金返還請求の依頼先としては、「弁護士」または「認定司法書士※」の2つがあります。
※認定司法書士:法務大臣指定の検収を修了し、簡易裁判所における手続きの代理などを取り扱うことのできる司法書士。
弁護士と認定司法書士では、取り扱うことのできる請求額に違いがあります。
弁護士に依頼する場合、請求額に上限はありません。
これに対して認定司法書士に依頼する場合、請求額は1社あたり140万円以下に限定されます。
過払い金返還請求の依頼先は、
・請求額(1社あたり140万円超の場合は、必ず弁護士に依頼)
・アクセスの良さ
・対応の丁寧さ
・レスポンスの速さ
・費用
などを総合的に考慮して選ぶとよいでしょう。
いずれにしても、手間なくスムーズに過払い金返還請求を行うことができますので、過払い金に心当たりのある方は、お近くの専門家にご相談ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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