連載/石川真禧照のラグジュアリーカーワールド
レクサスブランドが日本での販売を正式に開始したのは2005年のこと。当時の車種で2ドアモデルには、「ソアラ」から名称を変更した「SC」がラインアップしていた。「SC」は旧ソアラ。車名を変更し、内外装に手を加えたモデルで2010年まで販売されていた。2009年には「IS」をベースに開閉できるハードトップを備えた2ドアの「IS-C」がデビューしたが2014年に、新たに2ドアクーペの「RC」が登場。「RC」をベースにスポーツ志向を強めた「RC F」も2014年10月に発売された。
開発テーマは「走りを楽しみたい人なら誰でも、運転スキルに関係なく笑顔になれるスポーツカー」。これを実現するためにレクサスはほとんど毎年のように「RC F」を年次改良して最良のスポーツカー実現に努力している。レースを戦うために生まれたような「RC F」は、最初からトヨタが培ってきたサーキットでのノウハウが投入されていた。
駆動系では走行状態に応じて左右後輪の駆動力を最適に電子制御し、コーナリング時の挙動を理想的なものにする駆動力制御システム(TVD)。これはFR車では世界初の実用化だった。スポーツモード付きの8速ATはモード設定にサーキット走行用の「EXPERT」モードを設定している。
パワーユニットは、新型のV型8気筒、5.0ℓの自然給気エンジンに8速ATを組み合わせた。このエンジンは、シリンダーヘッドやコンロッドを新しく設計し、最新技術を採り入れている。低燃費の実現では低負荷走行時にはアトキンソンサイクルでの燃料に切り替えるという小ワザも使っている。
エクステリアは、空力パーツに常に最新のテクノロジーを採り入れたパーツを装着している。残念なのは「RC F」としてのワークス活動は2019年で終了していること。国内では「GRスープラ」にその座を譲った。プライベートチームもその動きは見られない。しかし、市販車では2021年もマイナーチェンジを実施し、レーシーなイメージを高めている。
V8、5ℓエンジンはデビュー当初の477PS/7100rpm、530Nm/4800~5600回転から481PS/7100rpm、535Nm/4800rpmに変わっている。試乗、撮影車は2019年の年次改良で加わった「パフォーマンパッケージ」装着車。モータースポーツで培った技術を応用し、カーボンファイバーでの軽量化で加速性能や空力抵抗を減少させている。
メーター盤の左右に位置しているのは走行モードを選択するダイヤル。「ノーマル」の状態でスタートする。Nモードはスタートからの動きは一瞬タイムラグがある。と思った瞬間に全開加速に移行する。9000回転までのエンジン回転計の針は7700回転のレッドゾーン入口を目指して一気に上昇する。すかさず2速へとシフトアップ。エンジン回転計のバーチャルな赤い針は7000回転まで上昇するとシフトアップする。
5000回転をオーバーしてからの爆音系の響きは室内でも聞こえる。0→100km/h加速は公道上でも5秒。かなり速い。一方、100km/h巡行では8速1600回転、7速2000回転、6速2400回転なので、高速走行の燃費は実走で15km/L台を出したほど。まったく「羊の革を被った狼」という表現がピッタリ、と思ったが、外観は「パフォーマンスパッケージ」が組みこまれているので、かなり迫力だ。
ハンドリングは各モードでメリハリのあるセッティングを体感した。ノーマルモードではやや重め操舵力も、「スポーツ」にシフトすると上下動がキツくなり、ハンドル操作に力が必要になってくる。ラグジュアリーな雰囲気も感じられた室内が、ややスパルタンな方向にいくのだ。
ブレーキもノーマルはフロントにアルミ対向6ピストン、リアもアルミ対向4ピストンモノブロックキャリパーを採用しているが、「パフォーマンスパッケージ」のブレーキはカーボンセラミックブレーキが標準装備されている。カーボンセラミックブレーキの性能は、低速時や冷えているときは重い踏力で、思ったほど効かずにヒヤッとさせられるが、暖まってしまえばツマ先の動きでも、その場で停まるぐらいに効く。コーナーでは自分のイメージの半分ぐらいの距離で減速が完了してしまうぐらいに効き味が強力なのだ。加速も楽しいが、次のコーナーでの減速も楽しくなってしまうスポーツクーペだ。
室内は2021年9月の最新モデルでは人工皮革のアルカンターラをハンドル、シフトノブにも採用し、グリップ感を向上させている。メカニカルな大きな改良は見られなかった。すでにこのクルマとしては完熟期を迎えているのかもしれない。
デビューしたのが2014年10月なので、今年で7年を迎えた「RC F」。スタイリングや動力性能での見劣りはないし、操っていて十分に楽しいハイパフォーマンスカーだ。しかし、パーキングブレーキは足踏み式だし、やや時代を感じさせる装備も見えてきた。可能ならばV8、5ℓのパワーユニットを残して、次世代RCFの出現を望みたいが、昨今の時代の流れの中で、それが許されるのか気になる。
◆ 関連情報
https://lexus.jp/models/rcf/
文/石川真禧照(自動車生活探検家)
雑誌「DIME」の連載「カー・オブ・ザ・ダイム」を長年にわたり執筆。取材で北米、欧州、中東、アジアをクルマで走破するなど、世界のクルマ事情に詳しい。国内外で年間に試乗するクルマは軽からスーパーカーまで200台以上。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)副会長。日本モータースポーツ記者会(JMS)監事。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。
撮影/萩原文博(静止画)、吉田海夕(動画)