■連載/Londonトレンド通信
10月6日にロンドン映画祭でお披露目されたジェイムス・サミュエル監督『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:報復の荒野』が、11月3日、Netflixから世界配信される。
開幕映画となったロンドン映画祭では、キャスト、スタッフの会見とレッドカーペットが開催された。コロナ禍の昨年、オンライン上映が主体となった同映画祭では大掛かりな対面イベントが控えられたため、華やかなイベントは2年ぶりだ。
レッドカーペットにはプロデューサーを務めたラッパーのジェイ・Zが登場。
スーパースターである妻ビヨンセもサプライズゲストとなった。
映画は、悲劇の青年ナット・ラヴ(ジョナサン・メザース)による、大悪党ルーファス・バック(イドリス・エルバ)への復讐劇。幼い日、目の前でバックに両親を殺されたラヴが、腕の立つ若者となり、仲間を集め、バックと手下たちに挑む。
血しぶき飛び散る派手なアクションや、くっきりと性格付けされたキャラクターなど、劇画チックだ。そこに軽快なラップがかぶさる。映画監督としては新人だが、音楽家ザ・ブリッツとして活動してきたサミュエル監督がジェイ・Zとともに音楽も手掛けた。
わかりやすいどんでん返しなど、ストーリーにも楽しめる要素が詰め込まれた娯楽西部劇になっている。
だが、制作過程は、楽しく軽快に、とはいかなかった。コロナ禍による撮影延期、それに伴いスケジュールが合わなくなったキャストの交代などを経て、ようやく完成、公開にこぎつけた。
会見には、サミュエル監督、プロデューサーのジェームズ・ラシター、キャストからエルバ、レジーナ・キング、メザースが参加した。
サミュエル監督とエルバはともにロンドン生まれで古くからの知り合いという。
「一緒に育って、バカなこともして、こうして西部劇も作ったよ」と冗談めかしたエルバだが、自身がコロナ感染を経験したこともあってか、パンデミックについてはシリアスになった。「パンデミックは私たちがみんな人間で、人種に関連したことなどくだらないと示しました」とし、「それは私に人生を変えるような視点を与えてくれました。キャラクターにもそういった成熟を加えることができたと思います」と語った。
キャラクターに関しては、キングも「この映画のユニークなところは、彼女たちがかなり違っていることです。彼女たちは、彼女自身がどんな人間であるかに基づいて存在している。男性や子供や親、または何かのストーリーに基づいて存在しているのではないのです」と説明した。
これまでの定型を破ろうとしたサミュエル監督が、意識的にメインキャラクターを黒人俳優で固めていることも特徴の西部劇だ。
文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com