小型家電の中で最も小さな部類に入るのがシェーバー。故障などで使えなくなったものや新しいものを購入し使わなくなったものはどう処分するべきなのだろうか?
シェーバーは2012年8月10日に制定された「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律(小型家電リサイクル法)」の対象品目であり、処分するときはまず、バッテリーを本体から外し、それぞれを専用の回収ボックスに投入する。バッテリーはプラスとマイナスの端子にテープを貼り絶縁処理することが不可欠だ。大まかに言うとこのようになるが、自治体によってルールが異なるので、詳しいことは住んでいる市区町村の規則を一度確認した方がいい。
名称からわかるように、リサイクルを積極的に推進し資源の有効活用を図りたいという意思が法律から窺えるが、シェーバーのリサイクル率は低い。ブラウンを展開するP&Gジャパンが実施した消費者調査によれば、使用済みシェーバーの処分で最も多かったのが「家庭ゴミとして捨てている」(44.7%)で、「小型家電リサイクル回収に出している」(23.5%)よりはるかに多いことがわかった。
使わなくなった電気シェーバーの扱い方
(複数選択可/電気シェーバーを現在持っている、あるいは過去に持っていた方のみ回答/男性のみ)n=510
こうした状況を受け、P&Gは2021年11月1日から、メーカー主導としては日本で初めて、使用済みの電気シェーバーを回収しリサイクルを行なう「ブラウン、使用済みシェーバーリサイクルプログラム」を開始する。全国の家電量販店に回収ボックスを置いて使わなくなったシェーバーを回収。集めたものをプラスチック、金属、バッテリーに分けリサイクルするが、半分以上を占めるプラスチックに関しては植木鉢に再生する。そして、再生した植木鉢にネコノヒゲという植物の種を植え、全国の児童館に寄付することを予定している。
浸透していないシェーバーの処分方法
P&Gが「ブラウン、使用済みシェーバーリサイクルプログラム」の構築・運用することにしたのは、使用済みシェーバーのリサイクル率が低いことにあるが、リサイクルより家庭ゴミとして捨てられる方が多い理由の1つが、処分の仕方がわからないことにある。同じく同社が実施した消費者調査では、シェーバーの正しい捨て方を知っているかについては、過半数を超える64.3%が「知らない」と回答している。法律で適正な処分が求められていても、そのやり方が浸透していない実態が浮き彫りになった。
電気シェーバーの正しい捨て方を知っている割合
(男性のみ)n=805
「家庭ゴミとして捨てている」と回答した人の理由を見ても、「処理方法がよくわからない」「リサイクルができるとは知らなかった」「捨てるしか思いつかなかった」などと、処理方法を知らないがゆえの理由が目立つ。中には「良くないとは思いつつ、小さいし捨ててしまった」というものも見られた。
法律で適切に処分するよう求めているのには理由がある。安易に捨てると危険だからだ。シェーバーに使われているリチウムイオン電池を可燃ゴミとして捨ててしまうと、ゴミ収集車に投入したときの圧力で発火事故が起きることなどがあり得る。不燃ゴミとして捨てたとしても埋め立てに回ってしまい、地球環境にとって好ましいことではない。
こうした現状から、P&Gは電気シェーバーのリサイクルについて広く知ってもらう機会を創出することが急務と判断。リサイクル率を高めるべく「ブラウン、使用済みシェーバーリサイクルプログラム」の構築・運用することにした。
全国約2400店舗に回収ボックスを設置
使用済みシェーバーの回収は、全国の家電量販店の店頭で行なう。ヨドバシカメラやビックカメラ、ケーズデンキなど大手家電量販店7社の協力を得て、約2400店舗に専用の回収ボックスを設置する。
回収の対象になるシェーバーは男性用。ブラウン以外のブランドも回収するが、ブラウンに関しては替刃も回収対象になる。ただ、女性用シェーバーやT字カミソリは回収対象外となる。
回収ボックスには投入口が2個設けられている。大きな投入口には本体や替刃、小さな投入口にはバッテリーを投入する。バッテリーは本体から外し絶縁処理した状態で投入する。
右側の小さい投入口に本体から取り外し絶縁処理をしたバッテリー、左側の大きな投入口にそれ以外を投入する
回収を促進するためのイセンティブも用意されている。ブラウンのシェーバーもしくは替刃を購入した人にキャッシュバックを実施。キャッシュバック額は購入製品に応じて決まる。まず第1弾として11月1日から2022年2月28日まで実施し、3月から第2弾を実施する予定だ。
キャッシュバックに応募するには、回収ボックスに投入する使用済みシェーバーや替刃の画像と、キャンペーン対象商品を購入した際のレシートの画像を用意。これらを専用サイトにアップすれば応募が完了する。ネット環境がない場合は、応募用紙を使って応募することもできる。
業界全体に広げられないだろうか?
全国で回収したシェーバーは1か所に集められて解体される。プラスチックは粉砕されて小さな粒になり、ふるいに掛けて大きさを揃えた後、金型に入れ熱を加えて加圧。冷却を経て最後にバリを手作業で落としたら、植木鉢は完成する。
この植木鉢にネコノヒゲの種を植えたものを全国の児童館に寄付するわけだが、ヒゲを剃るもの(シェーバー)が植木鉢に生まれ変わり、ヒゲ(ネコノヒゲ)を育てる。こうしたストーリーを子どもたちに楽しんでもらうことでリサイクルについて少しでも興味を持ってもらいたいことから、再生プラスチックでつくった植木鉢にネコノヒゲを植えたものを寄付することにした。
シェーバーのリサイクルに関しては認知が低いことから、P&Gでは今後、テレビCMやデジタルメディアの広告の最後で、リサイクルプログラムを始めることとキャッシュバックキャンペーンを実施することを告知する。年間10万台の回収を目標にしているが、目標台数を回収できるかどうか、リサイクルプログラムが浸透・定着するかどうかは、多くの人に知ってもらえることにかかっている。
「ブラウン、使用済みシェーバーリサイクルプログラム」は回収対象にブラウン以外のシェーバーも含まれることが評価すべきところだろう。ブラウンだけならインパクトが弱いので他ブランドも対象とするのは当然のことに思えるが、今後はもう一歩踏み込み、このリサイクルプログラムを他社も共同で推進できないだろうか? 今回協力を得た家電量販店以外の場所に回収ボックスを設置しなければならないという課題はあるが、今回のスキームを生かしキャッシュバックプログラムを各社ごとにアレンジすれば実現できそうに思える。社会的意義が高い取り組みなので、ぜひ業界各社で検討していただいたいものだ。
ブランドサイト
https://www.braun.jp/ja-jp
取材・文/大沢裕司