入院中の子どもの家族の生活と支援に関する実態調査
子どもが入院すると、子どもだけでなく家族にも様々な影響を与える。子どもが幼ければ幼いほど入院に付き添い、病室に泊まり込んで看護せざるを得ない親たち(特に母親)も多く存在する。
また、一方で子どもに付き添いたいと思っていても、さまざまな事情から付き添えないことも。
今回、NPO法人キープ・ママ・スマイリングでは、2019年4月に子どもの入院付き添いにおける食生活・睡眠・経済的不安などの実態を把握するために独自にインターネット調査を実施した。
1)入院している(していた)子どもと家族の状況
対象者のうち最も多かったのは母親で全体の93.9%を占めた(図1)。病児の年齢は未就学児が全体の69%を占め、そのうち2歳未満が最も多かった(図2)。
調査対象となった入院の時期は、1年以内に入院していた人が566人(短期入院446人、長期入院120人)と最も多かった。1~2年以内に入院していた人170人(短期入院143人、短期入院27人)、3~5年以内に入院していた人126人(短期入院102人、長期入院24人)と合わせると、全体の8割を超えている。
病児のほかにも子ども(きょうだい)がいた対象者は全体の58.4%(616人/短期入院498人、長期入院118人)だった。
疾患別に入院期間を分類できたのは864人(短期入院600人、長期入院264人)だった。短期入院の場合は呼吸器疾患で入院している子どもが173人(呼吸器疾患全体の95.6%)と最も多く、長期入院の場合は新生物(血液がんを含む小児がん)が83人(新生物全体の88.3%)、循環器疾患が59人(循環器疾患全体の61.5%)と多かった。
対象者の子どもが入院していた病院の種類は大学病院が35.2%と最も多かったが、公的医療機関(22.5%)や小児専門病院(20.7%)など、さまざまな病院で入院していた。
※(パーセンテージは、欠損がある場合は有効回答に占める割合で示す)
2) 子どもに付き添っていた家族の状況
対象者のうち泊まり込んで付き添っていた人は短期入院で85.0%、長期入院で88.7%と入院期間にかかわらず、泊まり込んで付き添っていた人が圧倒的に多かった(図3)。また、交代者がいなかったと回答した人は全体で28.8%(317人)いた。
付き添った経験がある対象者のうち、個室での泊まり込み経験割合は48.7%、大部屋での泊まり込み経験割合は53.5%であった(複数回答。重複、不明あり)。
対象者の自宅から病院までの所要時間は、全体では30分未満が42.4%と最も多く、1時間未満と合わせると約8割近くを占めた(図4)。入院期間別にみると、長期入院では所要時間が1時間未満は70.5%、短期入院では79.4%という結果となり、長期入院の子どものほうが自宅から病院までの所要時間がかかっていたことがわかった。
※(パーセンテージは、欠損がある場合は有効回答に占める割合で示す)
3)付き添い者への影響:付き添い中の食事・睡眠・体調
付き添った経験がある人の食事バランスの乱れ、睡眠不足、付き添い中の体調不良について尋ねたところ、「食事バランスの乱れ」は8割以上、「睡眠不足」は9割以上が良好ではないと回答した。また、「体調不良」では付き添いを経験した対象者全体の半数以上が「あった」と回答し、入院が長期の場合のほうが、有意に頻度が高い結果となった(図5)。
4)子どもの入院による親の就業への影響
対象者のうち就業していたのは44.6%で、そのうち、子どもの入院に伴って、退職、休職、時短勤務、介護/看護休暇の取得、有給取得を行っていた対象者の割合は70.0%に上った(図6)。併せて、対象者全体の半数が経済的不安を感じたと回答した。
※(パーセンテージは、欠損がある場合は有効回答に占める割合で示す)
5)付き添い家族が行っているケアの内容と看護師の支援に対する満足度
子どもの入院中に家族が実際に行っていたケアの上位5項目は、見守り、排泄介助、食事介助、寝かしつけ、遊びだった。一方、看護師にまかせたいケアの上位5項目は、清潔介助、服薬介助、見守り、排泄介助、食事介助の順だった(表1)。
ケアへの満足度については、子どもに対する満足度は5段階評価で3以上と答えた人は全体の83%だった。一方、付き添い者(自身)に対する満足度のそれは68%だった。また、短期入院と長期入院で比較してみると、子どもに対する満足度は同程度だが、付き添い者に対する満足度は長期入院のほうが有意に高かった。
<まとめ>
今回の調査にご協力くださった人の大多数が母親であった。これは子どもの入院生活の直接的な支援の役割を母親が担っていることと関係があると思われた。
また、1歳未満の子どもの入院を体験した対象者が多く、家事分担として育児休業中の母親が付き添いを担っていたことも影響していると考えられた。
本調査では明らかになっていないが、今後は男性の付き添いを許可しない施設の割合など、施設側の要因も併せて検討する必要がある。
対象者の8割以上が泊まり込んで付き添いを経験していたという結果は、原則付き添いを許可しない現在の制度と、実際の医療の実情との合わなさを明らかにしている。
実情に合致しない制度の中で、家族も医療スタッフも、設備を整備できない、人員が不足するなどの課題に向き合っていることが推測される。
例えば、大部屋での付き添いを経験した人の割合は高いが、付き添うスペースなどが整っていない中での付き添いとならざるを得ないと思われる。
実情に合わせて環境を整備するか、あるいは付き添いのない形で子どもの療養に対応できる適切な人員配置などが求められる。
また、長期療養を必要とする小児がん、循環器疾患などでは、専門医療機関での治療となるため、遠方からの入院割合も高い。
病院での寝泊まりを不可とした場合、家族の宿泊施設の整備などを進めなければ、家族は安心して子どもの療養生活を支えることができず、子どもとの分断も生じてしまうおそれがある。
付き添いの環境整備は、単に1病院だけの取り組みではなく、病気の子どもとその家族の生活を中心に考えたトータルな療養のための仕組みづくりが必要である。
さらに、本調査では就労していた対象者のうちの70%が子どもの入院に伴い、就労状況の変更を余儀なくされており、子どもの入院が家族の仕事に与える影響の大きさも示された。
付き添い終了後の仕事復帰がスムーズになされなかった場合、家計に及ぼす経済的損失は長期にわたるおそれもあり、子どもの療養に対する職場の理解と、制度の整備、制度の活用のしやすさに取り組むことも重要であることが明らかになった。
実施期間: 2019年12月23日~2020年2月29日
調査方法:ウェブアンケートフォーム(NPO法人キープ・ママ・スマイリングのウェブサイト・SNS・メールマガジンにて広報、全国のファミリーハウス102施設、患者団体128団体にチラシを郵送し広報の協力依頼)
調査対象:子どもの入院を経験した家族(母親・父親など)
対象者数(有効回答数):1,054人
構成/ino.