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〝いい年して〟って言われても乗り続けたいヤマハの傑作「SR400 Final Edition」

2021.10.25

単気筒エンジンの独特の鼓動感とスポーティでスリムな車体が最大の魅力。多くの支持を受け、デビューから半世紀近くも愛され続けてきたヤマハSR400がついに生産を終了する。今回はそのファイナルエディションに跨がり、その秘密を探ってみた。

50代に突入した知人がオリンピックに刺激されてか、かつてやっていたロングボードをリスタートした。また還暦を迎えたある友人は、ロードバイクに凝り出し、すでに3台体制だという。これはほんの一例だが、周りをよく見れば、なぜかいい年をした男たちが、青春を取り戻すかのように、色々なことに挑戦したり、再始動したりと、なんとも賑やかである。

だが、そうした挑戦者たちにそのわけを聞くと、別に“若き日の憧れ”を実現したり、単に郷愁に駆られての行動だったり、老いの意地からだったりという理由ではないようなのだ。ではなぜ?

30年ほど前になる。テレビの対談番組だったと記憶しているが、斯界のレジェンド、吉田拓郎(以下は敢えて拓郎と呼ばせて貰う)が出ていた事を思い出した。40代半ばを迎え、まさに音楽プロデューサーとしても脂がのりきっていた頃だったが、そこで拓郎は「そろそろ落ち着けとか、言う人がいるが、それが出来ない。むしろ“いい年をして”って言われたい」と話していた。ミドル後半からシニア世代に入った男たちの冒険心を支えているのはひょっとして、ここにあるのではないだろうか。そう考えると、前出の男たちの行動が、ストンと納得できたのである。青春なんて取り戻せやしないし、若き日の憧れを手にしたところで、昔のような高揚感などを味わえるはずもない。あるのは “現実を直視する”事なのであり、その上で「年甲斐もなく」と言われたくて、敢えてやっているのではなのだろうか。

それを確認するべく50代に入り、ヤマハのSR400という名車を最近手に入れ、オートバイ生活に復帰した友人を誘ってツーリングの出てみた。彼は若き頃にオートバイと乗用車の6輪ライフを満喫していたが、仕事などの都合で2輪を一時休止(本人談)していた。ところが「ヤマハSR400生産終了」というニュースが流れた途端、いても立ってもいられなくなり、ファイナルエディションをすぐに予約した。

SR400といえば1978年の登場以来、基本的な形状を変えることなく、実に43年にわたるロングセラーを続けてきた人気のマシン。それが2021年をもって生産を終えるとなれば、まさにアラフィフにとっては、心をざわつかせるに十分なニュースだった。当然のように最終の「SR400 Final Edition Limited/SR400 Final Edition」には注文が殺到し、すでに新車での入手は困難か、あるいはかなりのウエイティングを覚悟しなければいけない状況と聞く。一部には投機目的もあるとも言われるが、それをも上回る憧れや、過去のユーザーたちの熱気や思いに支えられてこその人気であろう。

乗りやすさの先にある別次元の楽しさとは。

友人が「ジャケットやヘルメットも、多少こだわって選んだつもり」という出で立ちで、届いたばかりのSR400に跨がりやって来た。ネイビーに薄いブラウンのシートのカラーリングが晴れ渡った秋の空に良く映える。それにしてもスマートで軽快感のある車体である。400ccという排気量でありながらも、単気筒エンジンと言う利点を生かし、細身に仕上がっている。これもビッグシングルならではの魅力であり、軽やかなスポーツバイクとしての佇まいなのである。さらに車体の各所に散りばめられたクロームのパーツ類が、色を添える。メーターを中心にしたハンドル回りや前後フェンダー、さらにはステーやウインカー、チェーンカバーなど、艶やかで煌びやかなクロームの輝きが、現代のバイクが忘れかけているエレガンスを自然な形で演出している。基本デザインが43年前であり、クラシカルな雰囲気を漂わせてはいるのだが、決して古さを感じさせないのは、このエレガンスがあるからであろう。

そしてもう一点、ボディのサイズ感が、何とも心地いい。比較対象として適当とはいえないだろうが、シート高はホンダのハンターカブCT125 よりも10mm低く、車体幅は55mm細いのである。さすがに排気量が3倍以上あるかため、SR400の車両重量は55kgと重くなるが、足つき性のよさと細身ゆえの良好なホールド感で、久し振りにバイクに跨がる場合でも、不安感を感じなくて済む。つまりバイクが手の内(股の間!)にあるという感覚が、バイクに乗るという,それなりに緊張感が必要な、シリアスな場面でのストレスを軽減してくれるのである。

一方で走り出してみると、見た目の安心感とは裏腹に、これがなかなかにハードだ。ビッグシングルならではの魅力であるエンジンの鼓動は、速度が上がるほどに強烈になってくる。単気筒のギャロップ感を心地よく感じられるのは時速60キロぐらいまで。それ以上になると、大きな振動が両手に容赦なく襲いかかってくる。友人の話によれば高速道路で1時間以上の高速走行を続けると、「指先がちりちりと痛み、血行不良を感じるほど」だというのである。

だが、そのわずかな我慢の先にこそ、幸福感がある。そんな風に思いながら、友人から借り受けたSR400を走らせてた。その魅力を感じ取るには十分なライディングだったが、信号待ちで少しばかり油断をした。クラッチ操作をミスってしまいエンストしたのである。なんと恥ずかしい失態なのだが、すぐに再スタートを、と思ったときにはせるスタートの機能がないことに気が付いた。すぐにバイクを降り、後続の車両に詫びながら、バイクを端に寄せて再スタート。ところがこれもSRならではの“キックスタート”のうえに、さらにチョットした技を要する。ハンドル左側に装備されたデコンプレバーを使って、エンジンシリンダー内の圧縮空気を抜き、力強くキックを踏み込む、という人力によるアクションが必須である。人によっては、この動作さえも、SR乗りの儀式でありカッコ良さの基本、と言う人も多い。この独自性が、バイクに乗っていることをもっとも強く感じ取れる演出であり、自己満足を支えるポイントだと言うことは、個人的にはもちろん理解できる。

だが、人に言わせれば「今時、そこまでして乗るの?」なのかもしれない。なんとかエンジンを再スタートさせ、友人にSRを返却した。キックスタートで慌てた話をすると彼は、少しだけ自慢げに、一発でエンジンに火を入れてみせてくれた。そして愛車に跨がると「これから冬用のライダースジャケットを選びに行く」と、楽しそうにいうのである。寒空でのライディングは真夏とは比べものにならないほどの覚悟がいる。とくに我々世代にとっては……。それでも彼は「いい年をして」と、言われることを、まるで誇りに感じるかのようにして、愛車と共に走り去っていったのである。

いかにも乗り慣れた感じを漂わせた友人の後ろ姿を見送りながら、私は乗ってきた最新のホンダGB350に跨がると、クラッチを握り、セルスタートのボタンを押した。現代のビッグシングルエンジンは難なく、軽やかに回り出し、軽やかに鼓動感を刻みだした。このGB350で見つけたストーリィは次回でお話ししよう。

ガソリンタンクからシートへ、そしてリアフェンダーへとなだらかに連続するラインの美しさは不変。このヤマハ伝統の美しいデザインも、半世紀ちかく、変わらずに愛されたポイント。

デザインだけでなく、ビッグシングルならではの心地良い鼓動感で、後方や周囲にいる数多のライダーたちを魅了してきた。

足つき性と幅の狭い車体による乗りやすさが、ライディングの際のストレスを軽減してくれる。

クロームメッキのフェンダーにシルバーのスポークホイールなど、エレガントなデザイン要素が随所に見られる。

白地に繊細なラインと数字で構成された丸型メーター。クラシカルであると同時に針の動きすら美しく、エレガントな味わい。

キックスタートのみと言うことで躊躇する人も多い。しかし、シリンダーヘッドにある丸型の窓で上死点を確認しながら、デコンプ機構を使用すれば意外と簡単にエンジンスタートできる。

クロームのステーに囲まれるようにメーカーエンブレムが貼り付けられ、上質感を演出。

新デザインのサイドカバーが貼られたファイナルエディションのSRロゴ。その先にあるキックスーターターとビッグシングルとの美しい対比がSRならではの魅力。

スペック

価格:605,000円(税込み)

ボディサイズ:全長×全幅×全高:2,085×750×1,100mm
車重:175kg
駆動方式:チェーン駆動
トランスミッション:5速MT
エンジン:空冷単気筒OHC 399cc
最高出力:18kw(24PS)/6,500rpm
最大トルク:28Nm(2.9kgm)/3,000rpm
問い合わせ先:ヤマハ TEL:0570-050814

TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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