小学生の6割が日常生活でLGBTQへの差別的言動を見聞き
LGBTQの68%が学齢期にいじめを経験する。
また、トランスジェンダー58%が自殺念慮を経験し、そのピークは小学校高学年からの二次性徴期であるという。
今回認定NPO法人ReBitは、「小学校高学年における多様な性に関する授業がもたらす教育効果調査」を実施した。小学5・6年生849名が授業前後に回答したアンケートやワークシートを分析し、日常的なLGBTQを取り巻く実態と、多様な性に関する授業による知識・意識の変化を、データと具体性がある自由回答に寄せられた小学生たちの声をもとに発表した。
小学校高学年児童の多様な性に関する実態について
小学校高学年の約6割が、日常生活のなかで差別的な言葉に接し、約2割が自身でも発した経験が>
授業前に「今までに、家や学校、テレビやマンガなどで、オカマ・ホモ・オネエなどと言ってバカにしたり笑ったりしているところを、見たり聞いたりしたことがありますか?」と聞いたところ、59.2%が「ある」、21.5%が「わからない」と回答し、「ない」と回答したのは19.1%。このことから、小学校高学年の約6割が、日常生活の中で差別的な言葉に接していることがわかる。
なお、授業前に「今までに、家や学校で、だれかに対してオカマ・ホモ・オネエなどと言って笑ったことがありますか?」と聞いたところ、19.9%が「ある」、20.2%が「わからない」と回答し、「ない」と回答したのは59.8%。このことから、約2割の子どもが自身でも差別的な言葉を発した経験があることがわかる。
授業後、約9割の子どもが、LGBTQへ差別的な言葉を「言わないようにしたい」と回答
授業後は「これからは、誰かに対してオカマ・ホモ・オネエなどと言わないようにしたい。」との設問に91.8%が「はい」と回答。約9割の子どもが、オカマ・ホモ・オネエなどが差別的な言葉であることを学習し、使わないようにしたいと考えたことがわかる。
これらのことから、オカマ・ホモ・オネエといった言葉を、意識的に口にする子どもは一部であるものの、周囲から“学習”している子どもが多数いることがわかる。
その背景には、周囲の人による直接的な影響のほか、正しい言葉づかいがわからない(それが正しいと思い込んでいる)可能性があり、適切な情報があれば、授業後のように差別的な言葉を使用しなくなる子どもが大多数であろうことが予想される。
小学校高学年児童の多様な性に関する知識について
授業前後の回答から、多様な性の授業は、多様な性に関する知識的側面において教育効果を発揮することが明らかに。以下、3つの設問の授業前後を比較した。
性別二元論に関する設問「性別は、男か女の2つしかない」では、授業前は34.3%だった「正解」が、授業後には91.7%と、57.4ポイント上昇した。
性的指向に関する設問「男の子は女の子を好きになり、女の子は男の子を好きになるのがあたりまえだ」では、授業前は49.3%だった「正解」が、授業後には92.6%と、43.3ポイント上昇した。
性自認に関する設問「男の子のからだで生まれた人はみんな自分のことを男の子だと思っていて、女の子のからだで生まれた人はみんな自分のことを女の子だと思っている」では、授業前は43.2%だった「正解」が授業後には90.8%と、47.6ポイント上昇した。
小学校高学年児童の多様な性に関する価値・態度について
「いろいろなちがいを大事にするために、あなたができる工夫はどんなことですか?」という設問への、授業後の自由記述を、以下の5つに大別し分析した。自由記述とともに、記載する。
自分らしさを大切にする、自分の「すき」や「得意」を大切にする:89%
・今日の授業で心に残ったことは、「女の子らしく」「男の子らしく」ではなく「自分らしく」というじゅんさんの言葉が心に残りました。
・男女関係なく生きていくことはかっこいいなと思えるようになれた。次は、本当に直接そういう人に会ってみてくわしく話を聞きたいと思った。次から自分は自分らしく生きたいと思った。
・人と人のふつうはちがうから、あの人がこうならわたしもこうではなく自分じしんをだいじにする意識していきたい。自分と、ほかの人は、ちがうから、自分らしくしてもいいし、男の人が男の人を好きになってもいいし、女の人が女の人を好きになってもいいと思いました。自分は自分らしく生きればいいんだなと思いました。
・いろいろな性があってもこれが自分だよって言うのがよかったかなと思いました。
・人の悪口とかをいわないようにする。自分らしさを大切にすることだと思いました。もしもそういうことをいわれたら笑わなければいいと思いました。
その人らしさを大切にする、尊重する:88%
・そのいろいろな性を持っている人のことを、大切にして、その人と楽しく、交流や生活をすればいいと思う。
・いろいろな違いを当たり前だと感じる。そして、その人達がどう思うかを考える。
・もし、友達がなったとして相談して来たら、「いろいろな性があって私は良いと思うよ」と声をかけてあげて、その子が、私は私でいいんだと思えるように接してあげたり、前みたいに気持ち悪いとか思わずに逆に良いなと思えるようにしたいです。
・ふつうはみんなちがうからその人がやりたいとかすきになったらその人がやりたいようにすすめたい。
・女の子でも男でも一人一人好きなもの、好きなことはちがうし女の子なんだからとか男の子何だからと決めつけないとが大事だと思います。また相手と関わって相手に寄り添い相手の立場になって考えることも大事だと思いました。もし社会に出てそういう人、心が苦しくて自殺だとかそういうさべつも起こらないためにもこの今日学んだことを心に入れて接してあげようと思いました。
「普通」や「あたりまえ」を決め付けない、押し付けない:80%
・あたりまえというのをつくらず、人それぞれのことを大切にすること。また、少数派の気持ちも考え、それぞれの気持ちを尊重すること。
・自分の中のふつうを周りの人(多数派)のふつうにあわせようとせずみんなが違うふつうをもって人々と接することができれば、自分は多数派と違うと思っている人が生活しやすくなる。
・人をバカににしない、じょうしきにとらわれないで、人の気持ちをかんがえる。みんなが同じ考えではない。
・性を男・女とどちらかにきめつけるのでなく自分じしんの気持ちとして考えてあげたい。
・体が男だからこの人は男、体が女だからこの人は女とかってにその人の性別をきめつけないように、きちんとその人のことを理解するように工夫したい。
「ちがい」を受け入れる、優しくする:63%
・性がちがっても同じ性別の人が好きでもそれが自分できめたことだし、そう思ったのは自分なんだから自信を持って生きればいいよ、と言ってあげたいです。
・その、友達になやんでいるのなら、見たえい像のように、「自分なりに~」「自分自身~」というかんじで、なぐさめてあげたいし、自分だったら、「もし、そういうことがあったらすぐに、相談してね!」っていって、気を楽にさせてあげたい。「見ためなんかかんけいないよ!自分を大切にして!」って安心させてもあげたい。
・自分の「あたりまえ」や「ふつう」を人に押し付けないようにする。人の「考え」や「思い」を受け入れてあげる。
・ちがいがある人とかがこまっていたらたすける。
・もし、そういう人がいても責めたりせず、共感したり、やさしい言葉をかけてあげたいです。「ふつう」は1人1人ちがって自分のふつうと相手のふつうがちがうのが当たり前という気持ちを持って接したいです。
否定的な言動をしないようにする(悪口をいわない、差別しない、排除しない、等):57%
・私は、どんな性をもっている人にもやさしくして、傷つく言葉はいわないようにしたらいいと思います。そして、相手を見た目だけではんだんしないことと、いろいろな性があることをわすれないで自分とちがう性をもっていても、悪口をいわないように気をつける。
・こころの性とからだの性がちがうからといって、からかったり、ばかにしたり気持ち悪いなど、しないようにすること。心の性とからだの性がちがうひとなどがいたとしたら、その人が生きにくい環きょうを作らないように気を付けること。
・まわりとちがうからとばかにしないで、自由にはつげんできる場をつくりたい。
・できるだけ人の悪口を言わないようにする。「あたりまえ」を意識しすぎない。
・もし、心が女性で体が男性でも、笑ったりバカにしたりしないようにしたいと思いました。性は男と女2つだけじゃないんだなと思いました。
結果・考察(今後に向けて)
多様な性の授業は、小学校高学年においても、知識的側面において教育効果を発揮する。また、価値的・態度的側面についても変容が見られる。「相互理解・寛容」については、相手のことを理解したい、受け止めたいという感想だけでなく、自分のことも受け入れたいという感想があり、他者受容のみならず自己受容にもつながっている。また、「公正・公平・社会正義」については、悪口をいわない、馬鹿にしないという決意があらためて言語化されている。
このように、多様な性に関する授業は、知識的側面だけでなく価値的・態度的側面についても変容が見られることから、授業後の行動変容につながり、子どもたちがアライ(LGBTQの理解者)となっていくことが期待できる。また、セクシュアリティのちがいのみならず、全般的な「ふつう」 「あたりまえ」 などに言及していることから、「多様な性」はもちろんのこと、「多様性」に対する意識を高める教育効果があると考えられる。
小学校において、多様な性に関する教育が、これからも広がっていくことを願う。
構成/ino.