ゴミ捨て場に大量の漫画が捨てられている光景は、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。
中には、捨てられている漫画を持って帰って読みたい、あるいは古本屋に持ち込んで売却したいと考えた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ゴミ捨て場の漫画を勝手に持ち去ったり、売ったりする行為は、犯罪に該当するケースがあるので注意が必要です。
今回は、ゴミ捨て場の漫画の持ち去り・売却が、犯罪に当たる場合と当たらない場合の区別について解説します。
1. ゴミ捨て場に捨てられた漫画は、誰かの所有物(占有物)なのか?
ゴミ捨て場の漫画を持ち去る行為が犯罪に当たるかどうかを判断するに当たっては、漫画の「所有権」または「占有」が誰かに認められるのか、というポイントが重要になります。
所有権:漫画を自由に読んだり、売ったり、捨てたりできる権利。
占有:漫画を適法に保管している状態。
1-1. 所有権は放棄されたと考えられる
漫画がゴミ捨て場に存在するのは、所有者によって捨てられたためである可能性がきわめて高いです。
所有者が漫画を捨てた場合、それ以降は漫画を読んだり、売ったり(さらにもう一度捨てたり)する意思はないでしょうから、漫画の所有権を放棄したものと解されます。
ただし、
・所有者の同居人が、漫画を勝手にゴミ捨て場に置いた場合
・漫画を盗んだ犯人が、読み終わった後に漫画をゴミ捨て場に置いた場合
などには、所有権の放棄は認められず、依然として漫画は所有者に帰属していると考えられます。
1-2. マンションのゴミ捨て場の場合、管理者に占有が認められる可能性がある
マンションのゴミ捨て場に漫画が捨てられた場合、所有者が漫画の所有権を放棄したとしても、マンションの管理者に漫画の「占有」が認められる可能性があります。
特に、管理規約等で「ゴミの持ち出し禁止」が定められている場合、漫画に対する管理者の占有が認められる可能性が高いので注意しましょう。
2. ゴミ捨て場の漫画を勝手に持ち去ったり、売ったりしたら犯罪?
それでは本題ですが、ゴミ捨て場にある漫画を勝手に持ち去ったり、古本屋に持ち込んだりする行為は、何らかの犯罪に該当するのでしょうか。
2-1. 所有・占有が認められなければ、窃盗罪等は成立しない
他人の財物を領得する(自分の物にする)行為としては、以下の犯罪が問題になり得ます。
①窃盗罪(刑法235条)
他人の占有物を、占有者の意思に反して盗んだ場合に成立します。
法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
②遺失物等横領罪(刑法254条)
占有を離脱した他人の所有物を領得した場合に成立します。
法定刑は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」です。
上記のとおり、窃盗罪と遺失物等横領罪は、漫画について他人の「所有権」または「占有」が認められる場合に限り成立します。
したがって、漫画の所有権が放棄されていて、かつゴミ捨て場管理者の占有も認められない場合には、漫画を持ち去っても窃盗罪や遺失物等横領罪は成立しません。
問題は、以下に挙げる場合のように、漫画について、他人の所有権または占有が残っているケースです。
①所有者の同居人が、漫画を勝手にゴミ捨て場に置いた(所有権あり)
②漫画を盗んだ犯人が、読み終わった後に漫画をゴミ捨て場に置いた(所有権あり)
③管理規約でゴミの持ち出し禁止が定められていた(管理者の占有あり)
これらの場合でも、所有権や占有の存在について知らなかったときは、犯罪の「故意」が認められず、窃盗罪や遺失物等横領罪は不成立となります。
この点、①や②の場合は、漫画がゴミ捨て場に置かれた経緯を知るきっかけはないのが普通ですので、「知らなかった」ことを主張しやすいでしょう。
これに対して③の場合は、「管理規約の規定を知らなかった」という主張がすんなり通るとは限りません。
そのため、マンションのゴミ捨て場の漫画を持ち去る場合には、事前に管理者に問い合わせを行うのが確実でしょう。
2-2. 資源ゴミの不正持ち出しとして、条例違反に当たる場合がある
一部の自治体では、漫画を含む資源ゴミをゴミ捨て場から持ち出す行為を、条例によって禁止しています。
条例違反を犯した場合、刑事罰が科されるおそれがあるので注意が必要です。
ご自身が居住する自治体において、上記のような条例が存在するかどうかは、弁護士または各自治体に確認しましょう。
2-3. 無許可営業として売却を行う場合は、古物営業法違反
ゴミ捨て場の漫画を持ち去って売却する場合に、もう1つ注意しなければならない法律として「古物営業法」があります。
古物営業法では、営業として古物を売買する場合、都道府県公安委員会の許可を受けることを義務付けています(古物営業法3条)。
無許可での古物営業については、「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されるので注意が必要です(同法31条1号)。
売却が1回限りであれば、「営業」には当たらないと主張する余地があります。
しかし、何度も漫画を拾っては売る行為を繰り返している場合は、無許可での古物営業に当たる可能性が高いので気を付けましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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