■連載/Licaxxxの読書×鑑賞文【第5回】Googleを訴えた芸術家とハッカーのドラマ『ビリオンダラー・コード』から知的財産について学ぶ
ドキュメンタリーとドラマのいいとこ取り!90年代のベルリンの空気を感じる
今回紹介したい作品は、Netflixが実話に基づいて制作したミニシリーズであるドラマ『ビリオンダラー・コード』だ。
1990年代に“テラ・ビジョン”という地球上のどこでもいきたいところにデジタル上でいけるというシステムを作った2人のドイツ人が、Google Earthが特許侵害をしているとしてGoogleを相手取り訴える話だ。話の展開は、2010年あたりに行われた裁判の準備から裁判までの道筋を軸に、過去が回想される形で話が進んでいく。
東西ドイツ統一後の1990年代におけるベルリンの若者の勢いと合わせてアートの成長も著しく、そんな中ハッカーであるプログラマーとデジタルアートを作りたいがプログラムがかけない学生が出会い、“テラ・ビジョン”を完成させる。世界的にもアート作品として注目され、ヒッピー的な思想を持ちインターネット事業を拡大させようとエンジニアから起業家までが集まるシリコンバレーに行ったりもしながら、ドイツで“テラ・ビジョン”をアート作品から社会における実用化とさらなる拡張を目指し会社としても奮闘していく。しかしある日、そのアイディアがそのままGoogle Earthとして使用されていることに気づく。最初から共同開発や買収の話をGoogleがしてくるも、実際はそのような和解や合意などは一切なく数百万ドルにのぼる訴訟の容赦ない現実が突きつけられるのだった。
まずドラマとして面白いポイントは、実話に基づいていながらも時間軸を現代に合わせて回想させることにより、先の読めないスリリングな展開になっていること。その中には友情や、アートをビジネスにしていく苦労なども描かれる。更に90年代当時の空気もドキュメントされており、ベルリンのクラブ、アメリカでのバーニングマンの前身となるイベントなど、音楽面が生きるシーンやBGMも多用されている。私は学生時代はメディアアートを作っていたし、90年代のテクノが多様される作風も非常に反応してしまったし(笑)、とにかくドキュメンタリーとドラマのいいとこ取りなのでぜひいろんな人にオススメしたいなと思った。
Netflixドラマ『ビリオンダラー・コード』と稲穂健市著『楽しく学べる「知財」入門』
これは何かを作っている人には誰にでもありえる話だ。作ることに夢中になり、憧れの世界で奮闘しみんなに知れ渡ったとしても、大きい会社相手にアイディアが勝手に使われている上に多額の費用を要する訴訟なんてたまったもんじゃない。そんな私も慌ててもう一度、知的財産について学べる本を読もうと手に取った本は稲穂健市著の『楽しく学べる「知財」入門』だ。この本自体は、国内における色々な実際にあった事例を用いながら、その権利をどう行使するのか、どうやったら権利を侵害していると裁判所が判断するのか否か、などが載っている。パクリとしての吊し上げや、強硬な姿勢での金銭の要求などがあったとしても実は裁判では侵害とは判断されないこともある。このようにたくさんの事例を見ながら、自分の生み出したものを守るためのスキルが身につくという仕組みらしい。
知的財産権には主なものだけで、著作権、商標権、特許権、実用新案権、意匠権という5つの権利があり、それらが絡んで権利を主張できる期間や、どのように侵害しているのかを判断する。今回ドラマで主張されていたGoogle Earthのアルゴリズムは発明にあたるので特許権の侵害を訴える。日本と海外とで特許の細かい定めは違うと思うのだが、著作物としての側面と特許権の侵害としての訴えいずれも論点にしていたと思う。
まず特許に関しては、発明が新規であるかどうかが論点となっていた。使っているプログラムやPC自体はすでに存在していたもので、実際に考えた部分はプログラムの作り方の部分。ある意味あるものの組み合わせや並べ替え、使い方である。そこに「新規性」があるのかどうかが見られていた。そして更に、進歩性があるか。簡単に思いつくようなものじゃないか、ということらしい。しかし、アメリカの裁判はショー的なところもあり、陪審員の判断によって裁判の行方が決まる。プログラム上の類似点を洗い出して説明してもなかなかプログラマー以外が完全に理解するのは難しいポイントだ。こちらでは足元をすくわれそうにそうになるシーンが多い。
更に著作物としての部分は、「依拠性」と「類似性」が論点だ。「依拠性」はオリジナルを観たり聞いたりして利用して作ったか。これに関してGoogle側は明らかに聞いていたのに、聞いたこともないと勿論主張してくる。「類似性」に関しては、実際にテラ・ビジョンとGoogle Earthを動かした時の映像が見られていた。圧倒的に昔から同じような映像を映すことができていたのが大きな証拠と主張する。
しかしこれだけの論点を突かれてもビクともしないGoogle。というのはGoogleの検索エンジンで「テラ・ビジョン」と検索をかけてみれば分かる。過去の話が一個もヒットしないのだ。(現状はこのドラマの説明とかだけが出てくる。)本当に実話なの?と疑うほど過去の話は検索でヒットしないように、抹殺されているようだ。そんな中でドラマに加えてこのドラマの制作の裏側として、実際のART+COMのメンバーによるインタビュー動画も公開。Netflix気合い入ってます。
このように実際の闇を見せられると、より自分の守る術を知らないとと思いますね。
今回の映像×本
『ビリオンダラー・コード』
・作品ぺージ:https://www.netflix.com/jp/title/81074012
『楽しく学べる「知財」入門』
・作品ぺージ:https://gendai.ismedia.jp/list/books/gendai-shinsho/9784062884129
文/Licaxxx
Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は50万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、近年ではChika Kisadaのミラノコレクションに使用されている。
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編集/福アニー