秋から冬にかけ出回る柑橘類の代表といえば「温州みかん」。昭和の時代は箱買いする家庭も多く、1975(昭和50)年には全国で366万5000トンの収穫量を誇っていた。それが時代と共に減っていき、2020(令和2)年には76万5800トンにまで下がっている。
同じことは温州みかん以外の柑橘類(中晩柑)にもいえるが、「デコポン」や「はるみ」など、高糖度で食味のよい品種は増加傾向にあり、今までにない、ほかとは違う個性に注目が集まっているようだ。
中でもひときわ異彩を放つのは「晩白柚」だろう。読み方は「ばんぺいゆ」だ。
熊本県八代市が生産地
晩白柚の原産地はマレー半島といわれ、大正時代に熊本県出身の植物学者、島田弥市によって台湾に輸入された。そして、昭和7年、熊本県果実試験場において試作され、栽培に適した場所として昭和25年頃に熊本県八代市で栽培が始まり、増殖が行われていくうち八代地域の特産になった。
ほかの地域ではほとんど生産されておらず、県別のシェアでは熊本県が96%(2018年)であり、そのほとんどが八代市産だ。
JAやつしろによると、晩白柚農家はおよそ100軒あるそうだ。
ギネス公認の大きさ
晩白柚の最大の特長はズバリ、巨大なこと。文旦(ザボン)の一種ながら、直径20センチ、重さ2㎏ほどになり、世界一の果実としてギネスに認定されている。*2021年には八代市の農家が生産したものが5386gという記録を打ち立てている。
ここまでの大きさになるのに、スイカのように地面に這う形で生育するのではなく、木の枝にぶら下がっていることにも驚かされる。
11月中旬から収穫が始まり、市中に出回るのは12月初旬~2月くらい。ハウス栽培ものが先、少し遅れて露地ものが出てくる。
長い間手元において楽しむもの
晩白柚はそのままの状態でも香りがとても良く、日持ちすることでも知られている。買ってきてもしばらく部屋の中で熟成させ、香りと見た目を数日楽しんだ後に食すのがお約束だ。
剥き方は、まず果皮上部を横に切るのが第一歩。そこから果肉を傷つけないよう、縦に6~8等分ほど切りこみを入れてから、手で剥いていく。
果皮は一番外側が黄色。香りが強いので、少し乾燥させお風呂に浮かべるのがオススメ。その下のやわらかな白い果皮は、砂糖漬けなどにしてお菓子を作る家庭も多い。
肝心の果肉は、ぎゅっと詰まっていて、ほどよい爽やかでほどよい甘さを堪能できる。
温泉+晩白柚の組み合わせも
参考までに、八代市の日奈久温泉センターのお風呂の愛称は「ばんぺい湯」といい、冬になると晩白柚を丸ごと浮かべることでも知られている。温泉の効能と晩白柚の香りでリラックスできることうけあい!
また、阿蘇くまもと空港と八代市を約1時間で結ぶ神園交通のバスは、「すーぱーばんぺいゆ」と名付けられているなど、いかに八代市が晩白柚と縁が深いかおわかりいただけよう。
取材協力:八代市/JAやつしろ
取材・文/西内義雄
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員