「彼は事なかれ主義だから仕方がない」「事なかれ主義な対応に腹が立つ」などという表現を耳にしたことはあるだろうか。事なかれ主義とは、何よりも平穏に済ますことを優先する思考のこと。一見、悪くない考え方に思えるが、「うざい」「無責任」などと言われてしまうことも少なくないようだ。
本記事では、事なかれ主義の正しい意味や身近な例、関連表現を紹介する。何事も無難に済ませようとしてしまう自覚がある人は、事なかれ主義の何が悪いのか、どのようなデメリットがあるのかを意識しながら読み進めてほしい。
「事なかれ主義」とは?
「事なかれ主義」の読み方は「ことなかれしゅぎ」。はじめに、この言葉が持つ正しい意味を確認しておこう。
できる限り穏便に取り計らおうとする、消極的な態度や考え方のこと
事なかれ主義とは、なるべく穏便に取り計らおうとする、消極的な態度や考え方のこと。仕事やプライベートにおいて、事を荒立てることを嫌い、何事も平穏無事に済ませようとすることを指す。
一見、平和的な解決を望む穏やかな人のように感じられるが、事なかれ主義の場合、とにかく面倒な問題を避けてトラブルを起こさないことが最優先。争いを避ける温厚な性格に見える反面、課題から目を背けるような無責任なイメージを持たれやすい傾向にある。問題があると分かっているのに、見て見ぬふりをして解決を先延ばしにするケースも少なくない。
ちなみに、事なかれ主義は漢字で「事勿れ主義」とも表現する。「無し」の命令形である「勿れ(なかれ)」を用いており、「事勿れ」には「何も問題がなく、無事であれ」という意味がある。
「事なかれ主義」の具体例
では、具体的にどのような人が「事なかれ主義」と言われるのだろうか。ここでは、職場や恋愛の観点から見る、日本人らしい「事なかれ主義」の一例を見てみよう。
保身的な上司
事なかれ主義の一例として、保身的な上司が挙げられる。日本企業では、「責任は上司がとるもの」という考え方が根強い。そのため、部下が起こしたトラブルや、社内での人間関係のいざこざなどの対応は、上司に一任されていることも少なくない。そんな中、事なかれ主義タイプの上司は、後々責任を問われることを避けるために、形式的な対応をとることが少なくないようだ。
当事者意識が低い部下
当事者意識の低い部下は、事なかれ主義と言われやすい。主体性に欠ける人は、何かトラブルが起きた時に、「誰かが解決してくれるはず」と考え、上司や先輩に対応をゆだねてしまう。これ以上、事を荒立てないために、特別な行動をしないで嵐が過ぎ去るのを待っているようにも見えるため、平和主義的な対応だと捉えられることもあるが、無責任な対応だと思われてしまうケースが多い。
行動力に欠けるパートナー
事なかれ主義タイプの人は、自己主張するのを避ける傾向にある。そのため、常にパートナーの意見に賛同し、相手に言われるがまま生きていることも少なくない。加えて、トラブルになりそうなことはなるべく避けて通りたいため、新しい事柄にチャレンジしてストレスを感じるくらいなら、自分のテリトリーの中で過ごしたいという気持ちが強い。安定している点はメリットだが、デートの内容がいつも同じで、相手を飽きさせてしまうこともあるようだ。
「事なかれ主義」の関連表現
最後に、事なかれ主義の関連表現も確認しておこう。ニュアンスの違いを理解しておけば、どこかで役に立つはず。
類語は「当たらず触らず」
「当たらず触らず」とは、差し障りがないように、あいまいな態度をとるさま。何事も無難に済ませた方が良いというニュアンスの言葉で、無難にやり過ごすためにただ見守っている様子を表現する言葉だ。
対義語は「剛毅果断」
「剛毅果断(ごうきかだん)」とは、強い意志を持って行動すること。意志が強いことを表す「剛毅」という言葉と、思い切って行動することを指す「果断」を掛け合わせた四字熟語だ。しっかりと自分の気持ちを主張して行動を起こす様子から、「事なかれ主義」とは対義語の関係と言える。
英語ではどう表現する?
事なかれ主義を英語で表現する場合、「Avoid conflicts and troubles/対立や揉め事を避ける」を用いると良い。具体的には、「She has a personality to avoid conflicts and troubles./彼女は対立や揉め事を避ける性格だ」と表現する。その他にも、「Play it safe/安全策をとる」「Pretend not to see/見て見ぬふりをする」なども、事なかれ主義と似たニュアンスで使われる英語表現として挙げられる。
文/oki