経済小説は「仕事」や「お金」をテーマにした小説全般を指す。様々な職業、業界、社会的なテーマを扱っており、読んで勉強になることはもちろん、人間ドラマとして楽しめる作品も多い。現役の社会人に加えて、これから社会に出る大学生や定年を迎えたリタイア世代もそれぞれの視点で楽しめるはずだ。そこで本記事では、経済小説のメリットや選び方、おすすめの経済小説、作家を紹介する。
【目次】
経済小説とは
経済小説とは、経済をテーマにした小説の総称。さまざまな職業や業界、企業、経済事件、人物(経営者・サラリーマン等)などにスポットを当ててストーリーが展開する。近接のジャンルとしては、特定の仕事に就く主人公を通してその職業の仕事内容や働く人々の姿を描く「お仕事小説」、時事問題や社会問題を取り上げる「社会小説」などがある。
経済小説のメリットその1:経済のイマ・ココを楽しみながら勉強できる
経済小説は旬のトピックスやその時代に花形とされる業界・職業を取り上げた作品が多い。同時代のビジネスパーソンに親しみやすい上、登場人物に感情移入してストーリーを追うことで、新聞や雑誌・ビジネス書を読むよりも臨場感にあふれるかたちで経済やビジネスの知識を吸収できる。
池井戸潤『半沢直樹 1 オレたちバブル入行組』
TBS『日曜劇場』で放映され大ヒットした『半沢直樹』の原作。バブル期に大手都市銀行「東京中央銀行」に入行し、現在は大阪西支店で融資課長を務める半沢直樹。支店長・浅野の命令で五億円の融資を行った会社が倒産し、融資ミスの責任を負わされた半沢は、支店長への憤りを胸に五億円の債権回収に奔走する。本作は「半沢直樹シリーズ」の第一作。20年9月発売の『アルルカンと道化師』がシリーズ第五作目となる。
楡周平『プラチナタウン』
経済小説の人気作家が描く地方創生の物語。出世街道を外れた商社マンの山崎鉄郎は、泥酔したはずみで中学時代の同級生・熊沢健二から頼まれた故郷の町の町長職を引き受けてしまう。帰郷した緑原町は、人口の半数以上が60歳を越え、めぼしい財政基盤もなく、150億円の借金を抱える破綻寸前の自治体となっていた。2012年大泉洋主演で映画化。
経済小説のメリットその2:仕事のモチベーションアップや人間関係の参考になる
経済小説のもう一つのメリットは、登場人物の成長やビジネス上の勝利・経営的な問題解決などポジティブな要素が盛り込まれている点。リーダーシップやガバナンス、出世競争、社内政治などをテーマとする作品も多く、ビジネスにおいて重要な「人」と「仕事」への向き合い方の参考になる。
小島俊一『会社を潰すな!』
倒産寸前の書店チェーンに出向を命じられた銀行員・鏑木健一が、経営に無知な女性経営者と鏑木を敵視する6人の店長とともに書店経営を立て直すビジネス・エンターテイメント。著者はコンサルタントとして実際に赤字の書店チェーンをV字回復させた実績を持ち、経営改善のストーリーにはリアリティがある。物語を追いながら自然と決算書・マーケティング・マネジメントの基礎を学べる点も秀逸。
川田修『僕は明日もお客さまに会いに行く。』
外資系生命保険会社に務める入社五年目の「僕」こと三井総一郎は、伝説の営業マン・山野井に指名され、31日間、営業の仕事をともに行う。同行する中で「僕」が山野井から教えてもらったものは、単なる営業テクニックを越えた人間として本当に大切なことだった。プルデンシャル生命保険全国2000人のセールスマン中、営業トップの成績を収めた著者による、すべての営業職に役立つ心得。
経済小説の選び方
経済小説を読み慣れていない場合は、ジャンルを代表する人気作家の作品から選ぶか、興味のあるテーマから選ぶ方法がおすすめ。経済小説といえば金融業界や大企業・国家をテーマとしたスケールの大きな作品が多いが、世間に知られていないニッチな職業にスポットを当てたお仕事小説も人気がある。
作家で選ぶ
経済小説の書き手は、ジャーナリストや経済界出身などのビジネス分野に明るい作家が多い。知名度の高い人気作家は、綿密な取材・調査に基づくリアリティと巧みなストーリーテリングを併せ持ち、骨太ながらエンターテイメント性の高い作品を書いている。映像化作品も多いため、映画・ドラマで聞いたことのある作品から入ってみるのも良いだろう。
真山仁『ハゲタカ』
凄腕ファンドマネージャーとして頭角を現した鷲津政彦は、外資系投資ファンド「ホライズン・キャピタル」の日本法人代表として日本に帰国する。大手都市銀行の不良債権処理(バルクセール)で成功を収めた鷲津だが、本来の目的は別のところにあった。潰れかけた会社を安く買い、企業価値を高めて成功報酬を得る。外資をしたたかに利用して日本経済の再生を目論む鷲津の試みは成功するか。07年2~3月にNHKでドラマ化、続編が09年に映画化された。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
日本のフラッグ・キャリアである国民航空を舞台に航空業界の腐敗と社会倫理を問う長編小説。「アフリカ篇」「御巣鷹山篇」「会長室篇」の三部から成る。国民航空の労働組合委員長・恩地元は、社内の労働環境改善を目指す過程で経営陣と対立し、海外の僻地へ左遷される。やがて御巣鷹山で国民航空の大型旅客機が墜落する大事故が発生。恩地は社内調査のために呼び戻され、失墜した国民航空の再生を信じて奔走する。09年渡辺謙主演で映画化。16年には上川隆也主演でドラマ化された。
城山三郎『官僚たちの夏』
「高度成長期」を舞台に実在の通産省官僚・佐橋滋をモデルにした主人公・風越信吾の活躍を描く。物語は高度成長政策が始まった60年代初め、国内産業の保護を訴える「産業派」と、国際化を目指して自由貿易を理想とする「国際派」の攻防を軸に展開する。敗戦後の日本に誇りを取り戻そうとする官僚たちの熱い思いと政界・財界を巻き込んだ闘争が見どころ。96年1月にNHK『土曜ドラマ』、09年7月から9月までTBS『日曜劇場』でドラマ化された。
興味のあるテーマ・仕事から選ぶ
経済小説には実話をベースとした作品も多く、歴史小説が好きであればより楽しめる。また、様々な業界で働く人々を描くお仕事小説や、社会問題(格差、新型コロナウイルス)など生活に密着したテーマを扱う作品も豊富にあるため、興味がを引かれたテーマ・職業を軸に選んでも良いだろう。
百田尚樹『海賊とよばれた男』
出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした主人公・国岡鐡造の一生を描く。敗戦直後の日本、国岡商店の創業者・国岡は、商品である石油が手に入らない状況に悩みつつも、社員を一人も解雇することなく国岡商店の再建に挑む。社員の創意工夫で資金を集め、石油タンカーを建造した国岡商店は、欧米の石油資本の妨害にも負けず、大企業への道を進んでいく。16年12月に岡田准一主演で映画化。
三浦しをん『舟を編む』
玄武書房に勤める主人公・馬締光也は、ベテラン編集者・荒木の誘いで新しい辞書『大渡海』の編纂メンバーに加わる。馬締と個性豊かな辞書編集部の面々を通して一般にはなじみのない辞書編纂の仕事を丁寧に解説するとともに、言葉への愛情、新しい辞書にかける編纂部員たちの情熱を描く。13年、松田龍平主演で映画化。16年にはフジテレビ系でアニメ化された。
他者の高評価作品を読んでみる
Amazonレビューや新聞の書評、映像化された作品などを参考に評価の高い作品を読んで見るのもおすすめだ。また、経済小説を網羅したレビュー本も出版されている。より幅広く経済小説を楽しみたい場合はチェックしてみよう。なお、もっとライトに経済小説を楽しみたい場合は、Web小説に注目するのも一つの方法。プロ・アマを問わず小説を投稿できる小説投稿サイトには「経済」がテーマの小説も多数投稿されており、ランキングや読者評価によって人気度がわかりやすくなっている。代表的なサイトは「小説を読もう!」。
堺憲一『この経済小説がおもしろい!』
経済史学者の著者が1,000冊以上の経済小説の中からおすすめ作品を紹介。単なるブックレビューやランキングに留まらず、経済小説の歴史を高度経済成長期からグローバル化が進んだ90年代後半以降に分けて解説している。経済小説のテーマ別分類(経済編、ビジネス編、人生編、定番編)や、「銀行」「商社」「建築・土木」といった業種別分類、有名企業をモデルにした経済小説一覧など多彩な切り口が楽しい。
文/oki