なかなか他人には相談しづらい、不倫問題。
不倫された側はもちろん、している本人も苦しんでいることが多い。
そこで今回は、既婚男性のケースに絞り、あざぶ法律事務所代表弁護士・川口洸太朗さんに法律的な見解を伺った。
不倫を“している側”と“された側”の両方の立場から、Q&A形式で素朴な疑問に答えていく。
【取材協力】
川口洸太朗(かわぐちこうたろう)……あざぶ法律事務所代表弁護士。2014年中央大学法学部国際企業関係法学科卒、2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。不倫・離婚のほか、薬機法・景表法、不動産案件等を重点的に取り扱っている。不倫・離婚トラブルの対処法について解説するYouTubeチャンネル『川口洸太朗の恋愛法律相談所』運営。。https://youtube.com/channel/UCrBMg1geQy2l2CuFk1cpdNg
既婚男性が不倫しているケース
Q.風俗やキャバクラなど夜の店に通っているだけでも、不倫の責任を追及されることはあるのか?
A.「サービスの内容によります。キャバクラでお酒を飲んで楽しく会話するだけなら、法律上の不倫には当たらないのが原則。法律上の不倫の定義は、既婚者が配偶者以外の人と性交渉を行うこと。性交そのものだけでなく、性交類似行為(いわゆる前戯)も含まれています。
一方、デリヘルなどの風俗を利用した場合、法的にも不倫と判断されます。
このようなケースで不倫夫は妻に対して慰謝料の支払義務を負います。しかし,風俗店の女性に対して妻が慰謝料請求できるかどうかは別途問題になります。
過去の裁判例には“枕営業判決”と呼ばれるものがあり、風俗店勤務の女性にとっては既婚男性との肉体関係があくまでもビジネス目的のものであり、不倫の責任は負わないと判示されました。
風俗店の女性にとってビジネス目的の肉体関係だったのか、それとも気持ちが入っている不倫だったのかを判断する指標としては、“店内接客よりもプライベートな時間をたくさん一緒に過ごしていたのか”、“太客だったのか(店の売上に沢山貢献していたのか)”などが挙げられます」
Q.10年ほど前、妻が妊娠中に不倫してしまったが妻は「今回だけ許す」と再構築を選んでくれた。しっかり反省して、それ以降不倫していない。しかし事あるごとに蒸し返されネチネチと嫌味を言われたり、情緒不安定になってヒステリックに怒鳴られたりしている。もとはと言えば自分が悪いのだが、離婚できるだろうか。
A.「離婚は、夫婦双方の合意があればいつでもできます。妻が離婚に応じてくれない場合、民法770条1項に記されている法定離婚事由(不貞行為、悪意の遺棄、3年間の生死不明、回復の見込みのない重度の精神病、婚姻を継続し難い重大な事由)が妻側になければ夫からの離婚請求は裁判所では認められません。
このケースにようにヒステリックに怒鳴るとかネチネチ嫌味を言うという程度では、法定離婚事由にはあたらない可能性大。一概には言えませんが、もし妻によるDVの証拠などがあれば、裁判所に“婚姻を継続し難い重大な事由”を立証できるかもしれません。
ただし、仮に離婚事由がなかったとしても、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟と時間をかけて粘り強く離婚の意思が固い旨を妻側に伝えて、かつ離婚条件についても譲歩をすれば、妻側も離婚に応じてくれる可能性が出てきます。なので、諦める必要はありません。」
Q.たしかに自分は今不倫しているが、妻に対してもかなり不満が溜まっている。妻側にモラハラ、働かない、家事育児放棄、浪費、セックスレスなどの落ち度がある場合、こちらの不倫の責任を軽減できるのか?
A.「これについては、ケース・バイ・ケースであると言わざるを得ません。不倫慰謝料にも、過去の判例に基づく相場があります。あくまでもその相場の範囲内ではありますが、裁判官の道徳的価値観によっても微妙に金額が左右されます。
これと対照的なのは、交通事故の慰謝料です。交通事故の場合は、通院日数や通院期間などをベースに慰謝料の金額が導き出されるので、発生した損害が客観的な数値としてわかりやすいのです。不倫の場合は、そうではありませんからね……。
今回のケースでは、 “もともと夫婦関係が円満でなかったこと”が証明できれば、慰謝料を少し減額できる可能性があります。
夫婦が完全に別居していれば既に夫婦関係が破たんしていたと判断され、不倫をしても責任を問われないと聞いたことがある方は多いでしょう。ただし、夫婦関係の「破たん」まで認められるにはハードルが高めです。裁判所では、「破たん」までは認められないがもともと「円満を欠いていた」「破たんの危機にあった」等と認定されるケースがあり、その場合には慰謝料は0にはなりませんが、減額要素にはなります。
Q.職場にいる後輩の独身女性と定期的に手つなぎデートしたり、記念日に食事したり、軽くキスをしたり、甘いメールのやり取りをしている。しかし肉体関係は一切なし。このような“清い交際”でも、慰謝料支払いが命じられる基準とは?
A.「前述の通り法律上の不倫の定義は性交または性交類似行為なので、プラトニックな関係の場合は原則として責任を問われません。
しかし例外的に、キスやメールなどの軽い行為だけでも、数十万円程度の少額ですが慰謝料の支払いが命じられるケースもあります。
プラトニックで慰謝料支払いが命じられるかどうかの基準は、“夫婦間の円満な共同生活を侵害する可能性がある行為”かどうか。裁判官によっても道徳的な価値観は異なりますので、若干のバラツキがあります。
たとえば、ある裁判例では「会いたい」「大好きだよ」などのメールを頻繫に送っていたことについて、夫婦の円満な共同生活を壊す行為として慰謝料約30万円の支払いが認められました。逆に、同様の例でも不法行為の成立を否定している事案もあります」
Q.どうしても妻と離婚して不倫相手と再婚したい場合の秘策とは?
A.「よく“有責配偶者からの離婚請求は法律上できない”“何年間も別居してようやく離婚が認められる”と耳にするかもしれませんね。
たしかに、有責配偶者からの離婚請求は裁判所では原則として認められず、ハードルの高い例外的要件を充たさなければ、裁判では負け筋だと言えます。しかしこれは、あくまでも裁判での話です。
一般的な離婚の手続きは、まず直接交渉、次に家庭裁判所での離婚調停、最後に離婚裁判という3ステップになっています。離婚裁判に至るまでの直接交渉・離婚調停の段階で弁護士に依頼して妻を説得すれば、離婚に応じてくれる可能性もあります。交渉や調停の場で旦那さんの気持ちを聞いているうちに、だんだんと疲れて折れる妻も多いです。離婚の法的手続きは、ほとんどが長丁場。人間の怒りの感情は、一般的には長時間続かないものです。
ただし、この場合は相当金額面で譲歩する必要があるでしょう。最初は“絶対に離婚しない”と言い張っていた妻も、「条件次第」「金銭的補償を十分にしてくれるのであれば」と離婚に合意することがよくあります。
不倫をしていた有責配偶者側の立場からどうしても離婚したいのであれば、出し渋りをせずに、相応の犠牲を払う覚悟と経済力が必要だということです」
既婚男性が不倫されているケース
Q.既婚男性と既婚女性の不倫の大きな違いとは?最近の不倫のトレンドは?
A.「一般的に、不倫=既婚男性がするもの、というイメージがあるようです。しかし実際に相談を受けている立場からすると、既婚男性の方が著しく多いということは決してなく、既婚女性による不倫も同程度あるという体感があります。
両者の違いとしては、証拠隠滅は既婚女性の方がマメな気がします。既婚男性はLINEなどをウッカリ残してしまう人も多いですね。
最近の傾向としては、やはりマッチングアプリで不倫に至るケース多い。独身だと嘘つく人もいるが、初めから既婚者だと伝えている人も少なくありません。
余談ですが,独身だと偽ってマッチングアプリを利用した既婚者が、貞操権の侵害として独身者から訴えられるケースも増えています。でもこれは、独身女性から既婚男性に対するものが大半。独身男性が既婚女性を訴えるケースは極めて稀ですね」
Q.証拠の上手な押さえ方、探偵費用を節約するコツとは?
A.「最近多いのが、LINEメッセージを証拠として提出するケース。裁判所も最近は、LINEを有力な証拠として重視する傾向にあります。
ご自分のスマホで妻のスマホ画面を撮影するという方法もありますが、私がお勧めしたいのは、“トーク履歴の送信”の機能を活用して、テキストベースに変換したものをデータ保存すること。
意外とドライブレコーダーも証拠になることがあります。ドライブレコーダーがOFFになっていると勘違いしたまま、社内で赤裸々な会話をしたり性行為をしたりする不倫カップルも多いので、念のためチェックしてみてください。
探偵費用はとても高額ですが、日時を絞って依頼すると、かなり節約できます。たとえば、妻の出張先・出張予定日などを伝えておくと、探偵側もピンポイントで狙いやすくなります。
報酬体系もしっかり確認を。稼働時間につき“1時間いくら”という風に細分化されていて報酬体系が明確なところが良い探偵です。パッケージになっているものはお勧めできません」
Q.不倫妻にモラハラ・DVをでっち上げられて突然子連れで家を出ていかれたら、どうすればいいのか?
A.「早急に弁護士に依頼をして、裁判所に “子の引き渡しを求める仮処分”を申立ててください。力ずくで子どもを連れ戻そうとすると、暴行や未成年者略取等の罪に問われることがあります。実親でも未成年略取罪は成立してしまうので、自力救済はおすすめできません。
なぜ速やかに対処しなければならないのかというと、親権者を決めるにあたって、裁判所は別居期間中の監護実績を重視するからです。この状況を放置すると、妻の監護実績が積み重ねられてしまい、夫側が親権を獲得しにくくなる可能性があります。親権獲得を希望する場合は、一刻も早く弁護士に相談しましょう」
Q.20代の頃、妻が妊娠中に不倫してしまったが、妻は「生まれてくる子どものため」と許してくれた。しかし40代の今になって妻が不倫し始めた。許してくれたと思っていたが、ずっと根に持っていたらしい。こちらも反省して仕事など色々頑張ってきたのに、納得いかない。私の不倫はもう時効ということで、妻の不倫のみ責任追及することは可能か?
A.「やや細かいですが、パターン分けして考える必要があります。
そもそも、不倫を原因とする離婚の際に支払い義務が生じる慰謝料には、2種類あります。
一つ目が、不貞慰謝料。不貞行為(不倫)を原因とする慰謝料です。不倫の事実を知ったときから3年で請求権が時効消滅します。妻の不倫は直近ですから、まだ時効消滅はしていません。よって、妻に対してこの不貞慰謝料を請求することは可能。逆に、夫側の不倫は20年以上も前なので消滅時効にかかっていますので,妻から夫に対する不貞慰謝料請求は時効により認められません。この不貞慰謝料に関しては、妻の不倫のみ責任を追及することが可能です。
二つ目は離婚慰謝料。婚姻関係が破たんする原因を作った側が支払うべき慰謝料です。離婚慰謝料の場合は、破たん原因が生じた時からではなく、離婚成立時から3年で時効消滅します。
仮に離婚に至った場合にはこの離婚慰謝料も問題になりますが,今回のケースで妻は、形式的とはいえ一度夫の不倫を許しているということが重要な点になります。また,夫の不貞行為時から20年もの期間が経過しているという点からも,婚姻関係破たんの原因を夫の不貞行為と考えるのは難しいです。よって、離婚慰謝料についても妻から夫に対する請求は難しいでしょう。ただし、慰謝料とは別に財産分与の問題もあるので、結局は財産分与の問題と一体的な解決を図ることになります」
Q.専業主婦の妻が不倫していた場合、慰謝料請求はできるのだろうか?
A.「原則として、慰謝料の支払い義務と資力には、直接の関係がありません。たとえ週数回のパート勤務だったとしても、妻は不倫慰謝料の支払い義務を負うことになります。しかし実際には、“ない袖は振れない”ものなので、実際の慰謝料の回収で難航する可能性があります。なので,この実際にこの場合には,財産分与で工夫することが大事です。
財産分与とは、結婚生活を送る中で夫婦が協力して作った共有財産を、貢献度に応じて分け合う手続きのことです。通常、妻が専業主婦の場合は、夫が共有財産の2分の1を妻に渡すことになります。
専業主婦の妻に慰謝料を請求したいが収入がないというケースでは、離婚協議書に“清算条項”を入れて、不倫妻から夫に対して財産分与の請求をできなくしたり,又は限りなく低くする等の方法が考えられます。清算条項とは、離婚協議書で取り決めた金額以外にはお互いに一切金銭を請求しない、という約束の文言です。これにより、不倫された夫が財産分与で妻に渡す金額を、かなり低く抑えることができます」
最後に、離婚の法律トラブル全般において必ず確認すべきポイントを、川口先生から伺った。
「まず一つ目は、自分はお金を受け取る権利者側なのか、それとも義務者側なのかをしっかり理解しておくことです。権利者側なのであれば交渉を有利に進めていけますが、一般的には男性側が義務者になる傾向があります。その場合、しっかりと対策を練ることが重要です。
二つ目は、法定離婚事由を立証できるのかということ。相手方にそもそも法定離婚事由があるのか、そして有力な証拠が手元にあるのかということを事前に確認するべきです。ご自分で判断が難しい場合は、弁護士に相談されることをお勧めします」
文/吉野潤子