
「英雄色を好む」という言葉をご存知だろうか。歴史上の人物を形容する際に用いられることの多い言葉だが、現代の時代感覚には少しそぐわない意味を持つ。そのため、使い方を誤ると、思わぬ非難を浴びることにもなりかねない。
本記事では、「英雄色を好む」の意味や例文、関連語について紹介する。正しい意味と使い方をチェックしてほしい。
英雄色を好むとは?
はじめに、「英雄色を好む」の正しい意味を解説する。読み方は「えいゆういろをこのむ」。「えいゆうしょくをこのむ」ではない点に注意しよう。「英雄色を、好む」ではなく「英雄、色を好む」と区切って読む。同語を使った例文や関連語も併せて理解しておきたい。
意味は「傑出した男は、きまって女好き」
「英雄」は、才知・武勇に優れ、偉業を成し遂げた人や、仕事で高い実力や成果をあげる人物を表すこともある。「雄」という漢字が使われていることから、男性に対して使われる言葉だ。「英雄色を好む」の意味は「英雄は活力にあふれ、何事にも精力的に活動するため、女性関係も積極的で派手」というもの。そして「英雄なら女好きでも許される」というニュアンスも含んでいる。
しかし、現代社会においては、どんな立場の人間であっても「英雄色を好む」生き方は容認されないのが実情だ。また、浮気や不倫などでバッシングを受けている人を「英雄色を好む」と言ってかばうことも、顰蹙(ひんしゅく)を買う原因になる。また、「英雄」は自称するものではなく、周囲から呼称されるもののため、自分の好色さを「英雄色を好む」と表現するのは誤りだ。
語源は?
「英雄色を好む」の正確な語源や出典は不明だが、福沢諭吉が『福沢先生浮世談(1898年出版)』の中で「英雄色を好む」を使用している。少なくとも明治時代後期には、一般的に認知されていた言葉のようだ。
例文
続いて「英雄色を好む」を使った例文を紹介する。同語は、歴史上の偉人を形容する際は、主に「英雄には女好きな面もある」という事実を述べるために用いられる。しかし、現代人を形容する場合は、「成功者は何にでも精力的なので、(本当は良くないことだが)女好きでも仕方がない」という風に、そこに否定的なニュアンスが含まれることが多い。
【例文】
「豊臣秀吉に代表的されるように、歴史上の偉人には「英雄色を好む」を体現した者も多い」
「あの大物社長には、いつも女性の噂が絶えない。「英雄色を好む」を地で行く人だ」
「浮気を繰り返しているだけの人間が、自らを「英雄色を好む」と豪語するなど片腹痛い」
昔は、英雄が自身の後継者を立てることは大切な義務で、「英雄色を好む」ことが是認されていた。一方、現代では重婚が禁じられており、ハラスメントの概念も広く浸透しているため、派手な女性関係は歓迎されない。同じ「英雄色を好む」という言葉でも、その時代背景によってニュアンスが変わっている点には注意が必要だ。
「英雄色を好む」の関連語
次に、「英雄色を好む」の類語、対義語、英語表現を紹介する。「英雄色を好む」と同じく、現代には不適な価値観が出てくるため、正確な意味を理解して、慎重に扱ってほしい。
類語
まず「英雄色を好む」の類語を見てみよう。いずれも、女性関係の派手さを容認する言葉だ。
・英傑色を好む
才知の優れた者は女好きである傾向もある、という意味。英傑は英雄と同義なので、「英傑色を好む」は「英雄色を好む」と置き換えて使える。
・浮気は男の甲斐性
財力も権力も、周囲からの信望もある男なら、浮気をしても愛人が何人いようと許容される、という意味。明治時代以前の日本では、妾(めかけ/本妻以外の妻のこと)が容認されていた。男性が女性を妾にする際は、その女性の生活を保障するなど経済的援助を行っていたことから「男の甲斐性」の象徴として認められていた。
・女遊びは芸の肥やし
歌舞伎など女形の演じ方の「芸」は、女遊びをして、女性の仕草や表情に触れることで身につくという意味。世襲が多く、閉鎖的な環境で継がれてきた古典芸能の世界では、異性を知る機会がほとんどなかった。そこで、現在の風俗や芸者遊びを「芸の肥やし」としていたことから生まれたのがこの言葉。
対義語
「英雄色を好む」の明確な対義語はないが、同語が持つ「好色さ」と対をなす言葉を紹介する。
・一途(いちず)
脇目も振らず、一つの物や人だけをまっすぐに見るという意味。浮気をしないで、1人の相手をひたむきに愛する様子を表現できる。「彼女を一途に想い続けて、もう10年になる」などのように用いる。
英語ではどう表現する?
最後に、「英雄色を好む」の英語表現について見ていこう。いずれもまったく同じ意味ではないが、表現が異なるだけで意味合いは近い。
「All great men are also great lovers./すべての偉大な男は好色漢でもある」
「Heroes are amorous./英雄は多情だ」
「Who loves not wine,women,and song he is a fool his whole life./酒も女性も歌も好まない男は一生馬鹿げた人生を送る」
文/oki