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【私たちの選択肢】カッコわるいと言われても構わない。僕がゲイとして女性差別を語る理由

2021.10.05

【私たちの選択肢】アラサーイケメンゲイを自称するライター・富岡すばる 後編

人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を知ると、すこし気持ちが楽になったりします。人はいくつもの選択肢をもっている。そして自由に生きることができる。このインタビューは、同じ世界に生きている”誰か”の人生にフォーカスをあてていきます。

整形手術で人生が変わらなかったら死ぬしかない

同性へのときめきをごまかし続け、心に蓋をしていた富岡すばるさん。このままでは生きていても意味がないと思う日々。死ぬ前に最後の砦として足を運んだゲイバーで生まれて初めて好きな男性のタイプを話した日から、第二の人生が始まりました。しかし、今度は新しい苦しみが生まれてしまいます。

 「ゲイバーに行って確かに救われたのですが、今度はルッキズムの戦いが始まったんです。」 

もともと自分に自信がなかった富岡さんは、自分の外見が子どものころから嫌いだったそうです。それには自分のセクシュアリティが深く関係していると感じていました。

「もしも自分の外見が美しかったらゲイでもばかにされなかったんじゃないだろうか、って思ってしまったんです。自分はゲイなんだと認識をしたらその傾向が余計に強まってしまいました。ナヨナヨしてるとかオカマっぽいと言われるたびに、自分がきれいだったら言い返せたのに……と歪んだ気持ちが膨らんでしまったんです。」

自分をばかにしてくる人を蹴ちらすには、自分が美しくなることがいちばん近道。そう思った富岡さんは23歳のときに整形手術を受けました。ことごとく失われた自尊心が満たされたわけではありませんでしたが、「合計3回の整形手術は自分にとって必要なことだった」といいます。

 「自分みたいな醜い者はなにをするのもおこがましいって思うようになっていました。ゲイとしてはゲイバーに行くことで救われたんですけど、人間としては救われなかったんです。整形は人間としての僕を救ってくれました。顔を変えてから、生きているのが楽しいって思えるようになったんです。」

明るい声でそう話す富岡さんは少しの沈黙のあと付け加えました。 

「でも、ほんとうは整形なんてしないですむならしないほうがいいと思うんです。だけど僕が今のマインドに達するまでには整形が必要だったし、夜遊びをしまくって自分を見失うという過程が必要でした。」

夜な夜なゲイバーに通うこと、莫大なお金と時間をかけて整形手術をすること。それは死んでいた自分の自尊心を生き返らせる手段でした。他のやり方をしていたら間に合わなくて死んでいたかもしれない。荒治療かもしれませんが、富岡さんにとっては必要な手順だったのです。

ロールモデルとして30歳をすぎたゲイの人生を伝えたい 

20代後半になった富岡さんは、自分の経験を発信したいと考えるようになりました。これまでにためこんでいた自分の苦しさを言葉にしたい。それには大きな理由がありました。

「僕はゲイなので結婚ができないし、子どもを持つという選択肢を考えたことがありません。まわりの人が経験しているライフステージが、自分の人生には最初からなにもないんです。それが急にこわくなったと同時に、僕は自殺をせずに生きながらえたけれど、語るべきことをなにも語っていないと気づきました。」 

自分の経験を残しておきたい。誰も言う人がいなかった苦しさを書き残しておきたい。その気持ちから、富岡すばるが生まれました。やがてTwitterアカウント等も開設して発信をしようと決意したものの、実際にそこからアカウントを作って発言をするまでには3年ほどかかったそうです。

「言葉にするのはとてもこわかったです。だけど思い切って発信をしたら、自分に似た人が読んでくれるようになりました。自分の気持ちは間違っていなかったんだなって自分で自分に答え合わせができた気持ちです。」 

そして発信をするうちに、富岡さんは自分の願いに気がつきました。これまでずっと苦しかったのは、ゲイでも幸せに暮らせる想像ができなかったから。ロールモデルがどこにもなかったからです。それならば、自分自身がそれを体現できないだろうか。 

1020代のころは、30歳をすぎたゲイがどんな人生を過ごしているのか想像もつきませんでした。みんなひとりぼっちで孤独に死んでいくのだと思っていた。だから、「あ、全然そんなことないよ〜!」って言っていたい。年齢を重ねても元気に生きているゲイの人がいるんだよって思ってほしい。僕が生きている姿を見て安心をしてもらいたいです。僕を目標になんてしてくれなくていい、反面教師でもいい。セクシュアルマイノリティでも社会のなかで生きることができる雰囲気作りをしたい。生きるのがこわくないって思ってもらいたいんです。」

ゲイとして女性差別を語る理由

富岡さんは今、ゲイ蔑視だけでなく女性蔑視についても声をあげています。書くことで自身が傷つく可能性も増えるのに、自分の負担を増やしてまでなぜ声を上げ続けようと思えるのかを尋ねると、「女のオタクはホモのセックスを見て喜ぶ」という話題を投げられたことがある、と教えてくれました。 

「僕がゲイ当事者として受ける差別や蔑視は、女性差別と密接につながっているんです。男性が男性を好きになる感情について、ナヨナヨしているとか女っぽいと嘲笑われることがあるんです。男性は男性らしくいないと見下される物言いをされるそれって、女性的であることは男性よりランクが下のように聞こえるし、ゲイ差別と女性差別の両方が入っているんですよね。だから、自分がゲイとして受けたゲイ差別を語る上で女性差別について語ることは避けて通れませんでした。女のオタクはホモのセックスを見て喜ぶ……その言葉を思い出すたびに胸が苦しくなります。」

自分の気持ちに蓋をしていた10代、そして20代。意見を発さずにいい子を装っていると、まわりからの評価はあがりました。あの子はおとなしくて真面目。富岡さんは一生懸命にいい子の自分でいようとしました。けれどいい子でいようとするほど、死にたいと思う気持ちが増えていく。それならばいっそまわりの評価を気にすることはやめたい。富岡すばるとして思ったことを言語化するようになり、やっとそう思えるようになったそうです。

一人のセクシャルマイノリティとして声をあげることを、「カッコ悪い」とか「感情的」などと言われても正直構わない。これは富岡さんが最近ツイートされていた言葉です。 

「自分が思ったこと感じたことを言葉にしてもいいのは、こんなにも自由になれるんだと気づきました。たとえ大多数の人から評価が悪くなったとしても、自分で自分を肯定できたり、頑張ってるなとか思えたらそれでいいんです。自分の心の声を誰かに話したり発信をするのは勇気がいることだけど、いつか自分で自分の言葉に救われることがあると思う。だから、どうか誰もが自分の気持ちをかき消さずに、どこかに残しておいてほしいです。」

街に掲げられるレインボーフラッグ。それはちゃんと目に見えてはいるけれど、その後ろにひとりひとりの人生があることをわたしたちは忘れがちです。同じクラス、同じマンション、同じ会社、同じライブ会場、同じ電車、同じ国、同じ世界。死のうとしていた19歳の富岡さんに似た人はきっとどこにでもいます。

「ゲイが幸せに生きられると想像できなかったから、僕がロールモデルになりたい。」そう願う富岡さんのお話しを聞いていて強く感じたことがあります。もしかして、わたしたちは自分の意見を声にすることをこわがりすぎているかもしれない。世界は思っているよりも広い。そしてその広さは、きっとあらゆる場所に自分と同じ気持ちの人がいるのだ、という希望に値する気がしてなりません。

前編「自分が「ゲイ」だと確信したのは中学を卒業した後でした」

https://dime.jp/genre/1230927/

富岡すばる

ライター。10代の頃は自分がゲイであることを受け入れられず、陰鬱とした日々を過ごす。その反動で20代はゲイバーやSMバーで遊びまくり、やがて数度の整形を経験。その後ゲイ向けデートクラブを経て、ゲイ向け風俗店に勤務。30代の現在はそれらの経験を元にライターとして活動している。ゲイとして感じた生きづらさと、男性として感じた特権性を二本柱に、今日も“性”と向き合う。

文・成宮アイコ

朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校・リストカット・社会不安障害を経験、ADHD当事者。「生きづらさ」「社会問題」「アイドル」をメインテーマにインタビューやコラムを執筆。トークイベントへの出演、アイドルへの作詞提供、ポエトリーリーディングのライブも行なっている。EP「伝説にならないで」発売。表題曲のMV公開中。著書『伝説にならないで』(皓星社)『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)。好きな詩人はつんくさん、好きな文学は風俗サイト写メ日記。

写真/しらたま あんず

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編集/inox.

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