緊急事態宣言が発令されていた期間中にも、音楽イベント(フェス)やナイトクラブでのイベントなど、人が密集してコロナ感染のリスクが高そうなイベントが、しばしば開催されていました。
このようなイベントに対しては、コロナ禍による開催自粛要請などが行われていた時期もありましたが、自粛要請下でイベントを開催することは、法的には問題ないのでしょうか。
今回は、法律に基づくコロナ規制の概要や、コロナ禍で開催されるイベントに参加する際の注意点などを解説します。
1. 行政による「人数制限」や「開催自粛要請」、従う必要はある?
緊急事態措置(緊急事態宣言)やまん延防止等重点措置が実施されている期間中も、そうでない期間中も、行政による「自粛要請」は、内容や形を変えながら継続して行われてきました。
イベント開催との関係では、人数制限や開催自粛などの要請が行われましたが、これらの要請に従う必要はあるのでしょうか?
1-1. 「要請」に法的拘束力はない
大前提として、日本の国民(住民)には、行政による「要請」に従う法的な義務はありません。
「要請」とは、単なる行政による「お願い」であって、国民(住民)に何かを義務付けるものではないのです。
コロナ関連で行政から行われるアナウンスについても、「要請」という表現がされている限りは、法的拘束力を伴わないと認識しておきましょう。
1-2. 特定の者に対する「要請」は公表されるケースがある
ただし、緊急事態措置(緊急事態宣言)の状況下では、イベント開催等に関し、特定の施設の管理者または主催者に対して、ピンポイントで開催制限・停止などの要請が行われるケースがあります(新型インフルエンザ等対策特別措置法45条2項)。
法律上は、広く一般に対する要請は「協力要請」、ピンポイントでの要請は「要請」と整理されています。
この場合、
「○○に対して、前から開催停止への協力要請を行っていましたが、従わなかったので、改めて(ピンポイントで)開催停止要請を行いました」
といった内容で、要請を行った旨が公表される可能性があります(同条5項)。
「要請」にとどまる段階では、依然として法的拘束力はないものの、公表措置をとられてしまうことは、事業者にとっては評判の観点から痛手でしょう。
1-3. 「要請」に従わない場合、「命令」に発展する可能性がある
さらに緊急事態宣言下では、正当な理由なく開催制限・停止等の要請に従わない事業者に対して、行政が開催制限・停止の「命令」を発する可能性があります(新型インフルエンザ等対策特別措置法45条3項)。
「命令」に違反した場合には、「要請」同様に公表措置の対象となるほか(同条5項)、「30万円以下の過料」に処されます(同法79条)。
1-4. 世間の評判を考えると、従わざるを得ないのが実情
「命令」は「要請」とは異なり、国民(住民)に対して義務を課すものなので、上記のように厳しい制裁が設けられています。
一方、「要請」に従う法的な義務はありませんが、事業者はむしろ、要請に従わないことによる世間からの批判を気にすべきところでしょう。
緊急事態宣言下では、感染対策が不十分なイベントの開催は控えるべきという「常識」が広まっています。
そんな状況下で、安易にイベントを開催すると、たとえコロナ感染が発生しなかったとしても、世間から大きな批判を浴びてしまうことは想像に難くありません。
そのため、大部分の事業者にとっては、「法律に違反していなければ良いじゃないか」という態度は社会的に許されず、行政からの自粛要請に従わざるを得ないのが実情です。
2. コロナ禍で開催されるイベントに参加する際の注意点は?
緊急事態宣言等が発出されているかどうかにかかわらず、今後しばらくコロナ禍の影響は続くと思われます。
その中で、イベント参加を検討する機会もあるかと思いますが、その際には以下のポイントに十分ご留意ください。
2-1. 会場における人の密集度を具体的にイメージする
コロナ感染のリスクは、人の密集度に比例すると考えられています。
そのため、会場に足を運んだ際に、人がどの程度密集するのかについて、具体的なイメージをもっておくことが大切です。
・会場の広さ
・参加が見込まれる人数
・会場にたどり着くまでの公共交通機関や待機場所の状況
などを考慮し、イベント参加中・移動中を通じて、密集によるコロナ感染のリスクを許容できるかどうかをよく考えましょう。
2-2. 感染防止対策の内容をホームページ等で確認する
イベントによっては、マスク着用・消毒・ソーシャル・ディスタンスの確保などのコロナ対策が不十分なケースも見受けられます。
イベント全体の感染防止対策が不十分な場合、ご自身が気を付けていても、周りの感染対策が疎かであるために、感染リスクが上がってしまいます。
ご自身が参加するイベントの感染防止対策の内容を、必ず事前に公式ホームページなどで確認しておきましょう。
2-3. 同居の家族とよく話し合う
同居の家族がいる方は、イベントでご自身がコロナに感染した場合、家族にまで甚大な影響を及ぼすことを理解しなければなりません。
コロナ感染者の濃厚接触者は、出勤停止や外出自粛を強いられるほか、実際に新型コロナウイルスに感染し、重篤な肺炎を発症してしまうリスクを負います。
同居の家族をこのようなリスクに晒してまで、イベントに参加する必要があるのかをよく考え、参加する場合には家族の理解を十分に得ることが大切です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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