新型コロナウイルスの世界的流行によって、今まで馴染みがなかった感染症疫学の用語を耳にする機会が増えた。「クラスター」「濃厚接触者」「パンデミック」などは、すでに理解している人も多いだろうが、コロナの感染状況が変化するにつれて新たに登場頻度が増えてきた言葉も多い。
「エンデミック」は、語感の似た「パンデミック」からも連想されるように、感染症の流行レベルを説明する言葉の一つだ。新型コロナウイルスの今後の感染状況によって重視される可能性が高いため、意味や定義を正しく理解しておこう。
「エンデミック」とは?
「エンデミック(endemic)」は、英語で「ある地域に固有のもの」を表す形容詞だ。語源はギリシャ語の「endemos(土着の)」とそれに基づく近代ラテン語「endemicus(自生の、特産の)」から来ている。医学用語では特定の地域に繰り返し発生する風土病などを指し、新型コロナウイルスの流行によって、現在ではこちらの意味も広く知られている。
ある地域で普段から発生している感染症を指す「エンデミック」
感染症疫学における「エンデミック」は、特定の地域内で繰り返し発生が見られる感染症を指す。患者の罹患率や発生時期が安定しており、一年中もしくは周期的に確認できる点が特徴だ。「風土病」「地方病」と呼ばれることもあり、比較的狭い地域で発生すること、感染者数が予測の範囲を越えない(流行とは呼べない)規模であることと定義される。エンデミックの代表的な例としては、イギリスの水ぼうそう、アフリカのマラリア熱などが知られている。
「パンデミック」と「エンデミック」の違いは?
「パンデミック」と「エンデミック」は、ともに感染症の流行段階を説明する言葉だ。米国疾病予防管理センター(CDC)の『公衆衛生の実践における疫学原則(Principles of Epidemiology in Public Health Practice)』では、感染症の流行レベルを「エンデミック」「エピデミック」「パンデミック」の3段階に分けている。
世界規模の感染症流行である「パンデミック」は、特定の地域内で起こる周期的な感染(エンデミック)が段階を踏んで広がっていったもの。日常的に発生する「エンデミック」が感染規模を拡大し、ある地域で予測を越えた感染数が発生することを「エピデミック」と呼ぶ。「パンデミック」はこの「エピデミック」が世界各地で起きている状態と言える。
エンデミックに似た意味の言葉
感染症の流行段階を表す用語は、感染症の発生場所や頻度によって細かく定義されている。他にも聞いたことのある言葉があれば「エンデミック」「エピデミック」「パンデミック」との違いを意識したうえで正しく使えるようにしておこう。
アウトブレイク
映画のタイトルにもなったことから、感染症の流行を示す言葉として記憶している人も多いだろう。「アウトブレイク」は、ある地域や医療施設内で突発的に感染症が発生することを指す。感染症の流行段階においては「エピデミック」に相当するが、「限定された地理的区域(医療施設内など)で発生している」もしくは「公共のパニックを引き起こしにくい」という意味で「エピデミック」とは区別して使われる。
ハイパーエンデミック
エンデミックの中でも、持続的で高レベルの感染症の発生が認められる場合を「ハイパーエンデミック」という。感染症の発生数や頻度は高レベルであるものの、明確な流行が確認できない場合などが該当する。感染症の流行が拡大(あるいは縮小)段階にある場合は、「エンデミック」と「エピデミック」の中間で「ハイパーエンデミック」が起きるケースもある。
新型コロナウイルスの流行で注目される「エンデミック」
新型コロナウイルスの流行で「パンデミック」と合わせて知られるようになった「エンデミック」。2021年5月28日に3回目の緊急事態宣言が延長された際、新型コロナウイルス感染症対策分科会・尾身茂会長が発言した言葉によって初めて「エンデミック」を知った人も多いだろう。
「エンデミック」を目指す新型コロナウイルス感染症対策
新型コロナウイルスは、本格的な流行が終息した後もウイルスそのものは消滅することなく存在する。そのため、専門家のあいだでは、現在の「パンデミック」から「エンデミック」に移行していくことが望ましいとする意見が有力だ。ただし、デルタ株をはじめとする複数の変異株の存在により新型コロナウイルスの感染状況は読みにくく、エンデミックへの移行はまだ先になると言われている。
2021年9月30日をもって国内の4回目の緊急事態宣言は解除となるが、日本も含めた世界の感染レベルは依然として「パンデミック」であり、世界保健機関(WHO)は終息宣言を出していない。予断を許さない感染状況を正しく理解するためにも「エンデミック」「エピデミック」「パンデミック」の意味や定義を知り、感染レベルを意識しながら新型コロナウイルスの動向を見守っていくことが大切だろう。
文/oki