連日ニュースに大々的に取り上げられ、国民の関心や注目を集めていた「自民党総裁選」。立候補者達が論戦を繰り広げる場面は目にしていても、「そもそも総裁とは何か」「自民党の総裁が決まることが、なぜここまで注目されたのか」など、疑問に思う点も多いだろう。そこで本記事では、総裁の役割や総理との違い、そして自民党総裁選について解説する。
そもそも総裁とは?
はじめに「総裁」の正確な意味や、その役割について見ていこう。「総裁」と字面が似ている「総理」との違いも解説するので、ぜひ参考にしてほしい。
「総裁」は組織の長の名称
総裁とは政党や銀行・公社などの、ある団体や機関において最終決裁権を持つ長の名称。また、組織全体を取りまとめる職務を表す場合もある。例えば「日銀総裁」は”日本銀行を統括する最高責任者”を指す。
ちなみに、総裁を英語にすると「president/大統領、総裁、学長、会長、頭取」「governor/知事、総裁、長官、所長、理事」「director general/総裁、長官、会長、事務総長」などと表現される。
総理、首相とは何が違う?
2021年9月現在、党首を「総裁」と呼ぶのは自由民主党のみ。総裁は、元々江戸時代末期から役職名として使われ、明治時代には新政府の長の名称として用いられるようになった歴史のある言葉。政党トップの呼称として総裁を使い始めたのは、初代首相の伊藤博文が中心となって立ち上げた立憲政友会だ。これ以降、多くの保守政党が「総裁」を使い、現在の自民党もその流れを汲んでいる。ちなみに、自民党以外の政党は、党首を「代表」と呼ぶことが多い。
一方「総理」は、内閣総理大臣の略称で、行政府のトップのことを指す。総理は国会議員の中から選ばれるが、多数の議席を占める政党の国会議員から指名されるのが原則だ。2021年9月現在は、この原則通り、最多議席を占める自民党の総裁が総理に指名されている。自民党の歴代総裁のほとんどが在任中に総理を兼任していることから、総理と総裁を合わせた「総理総裁」という呼び方をされることもある。自民党の総裁を選ぶことが、総理を選ぶことに直結しているため、自民党総裁選への高い注目度にも合点がいくはず。
ちなみに「首相」は、「首席宰相(しゅせきさいしょう)」の略で、国の行政機関のトップのこと。日本の行政のトップは総理のため、日本の「首相」は「総理」を指す。両者の使い分けは明確で、新聞記事など文字でニュースを伝える時は「首相」、アナウンサーの読み上げなど音声でニュースを伝える時は「総理」が使われる。
自民党総裁の役割
自民党総裁の役割は、同党の最高責任者として党を代表し党務を司ることだ。しかし、自民党総裁は、内閣総理大臣を兼任することが多い。その場合、総裁は行政のトップとしての仕事に専念し、幹事長が総裁の代行として党務を執行することになる。総裁は、安心して党務を任せられるよう、幹事長を含む党の重要ポストの人事を担う。2017年以降、総裁の任期は3年、連続で3期まで務めることが可能だ。
総裁選とは?
自民党総裁選とは、自民党の代表となる総裁を選ぶ選挙のこと。総裁選に立候補するためには、2つの条件がある。まず、立候補者自身が自民党所属の国会議員(衆議院議員・参議院議員)であること。そして、自民党所属国会議員20名の推薦人を確保することだ。
推薦人制度は、候補者の乱立を防ぐために昭和47年より設けられたもの。一時期は50名まで引き上げられたが、議員定数削減等もあり、現在は20名に落ち着いている。推薦人になるメリットは、推薦した候補者が総裁に当選すれば、内閣や自民党内での役職を得やすくなることだ。候補者が多くなればなるほど、どの候補の推薦人になるか決断に迷う議員も出るという。
総裁選はいつ行われるもの?
直近の自民党総裁選は9月17日(金)に告示され、9月29日(水)に投開票が行われた。総裁選が行われるタイミングは、現行総裁の任期満了や、任期途中での辞任など、現行総裁に代わる新しい総裁が必要になった時だ。任期満了による総裁選は、投票が任期満了前の10日以内、告示は投票日の12日前までと定められている。
総裁選の仕組み
自民党総裁選は、自民党所属の国会議員の投票(議員投票)と、全国の自民党員、党友の投票(党員投票)によって行われる。議員票は1人1票で、2021年9月の選挙では衆参合計で382票が投じられた。党員票は、全国約110万人の自民党員・党友からの投票を党本部にて合算し、議員票と同じ382票に調整のうえ、各候補者へ比例配分する仕組み。議員投票の有効票数と、比例配分した党員票を合計した764票の過半数を獲得した候補者が総裁となる。
過半数を獲得した候補者がいない場合は、上位2名による決選投票を行う。その場合は、議員票382票に加え、各都道府県に割り振られた47票の計429票で投票を行い、得票数が多かった者が総裁となる。今回の総裁選は、この決戦投票が行われたケースだ。
文/oki