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何と読む?「何処」の言葉の由来と正しい使い方

2024.06.09

古くから存在する日本語が、時代とともに読み方を変えていくことは珍しくない。「何処」は万葉集にも登場する歴史の古い言葉の一つ。一般的な読み方は、場所を尋ねるときの「どこ」で、より格式張った読み方である「いずこ」を知っている人も多いだろう。

実はその二つ以外にも「何処」には多くの読み方がある。それぞれの読み方や「何処」を「どこ」と読むようになった由来など、言葉の歴史を紐解いてみると、普段何気なく使っている日本語への知識がより深まるだろう。

本記事では「何処」の様々な読み方と言葉の由来、また「何処」と「何所」とはどう違うのか、といった言葉の使い分けについても解説する。

「何処」を「どこ」「いずこ」と読むのはなぜ?由来は?

場所を示すマーク

何処には「どこ」「いず(づ)こ」をはじめ、「いず(づ)く」「いどこ」「いず(づ)ち」「どこか」「どちら」「どっち」と沢山の読み方がある。言葉の歴史を辿っていくと、もっとも古い読み方は「いず(づ)く」だ。

「く」は場所を表す言葉で、疑問詞の「いず」と合わさり、場所を問う言葉となっている。旧仮名遣いで表記する場合は「いづく」、現代仮名遣いでは「いずく」と表記するのが一般的だ。

場所を尋ねる言葉「いずく」が「何処」の読み方の由来

「いずく」は万葉集や古今和歌集にも登場する「何処」の古い読み方。言葉の意味は現在と同じで、場所を尋ねる際に使われる。また、「いずくはあれど」(多くの場所の中でも特に)といった慣用句的用法や「いずくんか」(どこに~か)という副詞的用法でも使われる。

平安時代以降は、この「いずく」の音が変化して「いずち」「いずこ」となり、さらに変化を続けて「いどこ」となった。「どこ」の読みは、この「いどこ」の「い」が取れたもの。つまり、「何処」と書いて「どこ」と読むのは、時代とともに音が変化する一方で漢字の表記には大きな変化がなかったためと言える。

なお、「どこか」「どちら」「どっち」は、いずれも「どこ」から派生した読み方で、文学作品などで「何処」の字が当てられて使われるケースがあるものの、一般的な用法からは外れる。

漢文の読みは「いづれのところ」

歴史の古い言葉の多くは中国の漢字文化の影響を受けている。漢字表記の面から「何処」を見てみると「何」は疑問詞、「処」は場所を表しており、やはり場所を尋ねる言葉であることがわかる。

中学・高校の漢文では「何処」の部分を書き下し文に直す際、「いづれのところ」という読み方で習った人も多いだろう。

【例】

白文:人面祇今何処去
書き下し文:人面は祇だ今何れの処にか去る(じんめんはただいまいずれのところにかさる)
現代語訳:美しい人は今どこへ行ってしまったのか
(『人面桃花』より)

「いずこ」と「いづこ」どちらが正しい?

何処の読み方である「いづこ」と「いずこ」。どちらも「漠然とある一定の場所を示す」という意味は同じだが、「いづこ」は古くから使われている表記で、「いずこ」はより現代的な表記だ。どちらも、「どこ」という読み方と比較して、文学的な文脈や詩的な表現で使われることが多い。

シンプルに見えて奥が深い「何処」の意味と使い方とは

「何処」は場所を尋ねる言葉だが、日常ではそれ以外の意味で使われるケースも多い。同じ「何処」でも、場所や部位などの物理的な物について尋ねる場合と、程度や段階などの観念的・精神的・概念的なものを表す場合とがあるためだ。簡単そうに見えて奥が深い「何処」の意味と使い方を見てみよう。

場所・部位・部分を尋ねる「何処」と、程度・段階を尋ねる「何処」の例文

「Aさんの故郷は何処ですか?」というように不特定の具体的な場所を尋ねる「何処」は、どちらかと言えば物理的な場所や部分などを問う意味で使われる。

【例文】

「何処か具合の悪いところはありませんか?」
「保険証が何処にあるかわからない」

対して「何処」のもう一つの意味として、程度や段階を問う「何処」がある。どちらかと言えば概念的・精神的なものを表す場合に使われることが多い。

【例文】

「今月提出する課題は何処までできていますか?」
「何処か懐かしい雰囲気のするレストランを見つけた」

「何処」と「何所」に違いはある?類語の使い分けは?

「何処」に似た言葉として「何所」を見たことのある人も多いだろう。「何処」と「何所」はいずれも同じ意味の言葉で、読み方も「どこ」もしくは「いずこ」が一般的だ。漢字表記をする場合は「何処」のほうが知名度は高い。

小説や楽曲のタイトルとしても人気が高い「何処」という言葉

場所や行き先、概念的な不特定の地点などを問いかける「何処」は、小説や楽曲、その他芸術作品のタイトルに象徴的な意味で使われることも多い。例えば、小説では正宗白鳥、石坂洋次郎、渡辺淳一がそれぞれ『何処へ』という作品を執筆している。読み方は、正宗作が「どこへ」、石坂と渡辺の作品はどちらも「いずこへ」。

楽曲では、村下孝蔵の『何処へ』(読みは「いずこへ」)、筋肉少女帯の『何処へでも行ける切手』(読みは「どこへ」)などがある。

なお、一般的な意味で「いずこ」と読ませたい場合は、「何処」「何所」といった漢字ではなく、ひらがな表記が望ましいとされている(共同通信社『記者ハンドブック 新聞用字用語集』参照)。

芸術作品についてはその限りではないものの、読みやすさを重視する一般的な文章で使用する場合は意識しておくと良いだろう。

文/oki

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