はじめまして、動物園写真家の阪田真一です。動物園・水族館・植物園を専門に撮影している写真家です。
今回は、コロナ禍で新たな組織としてスタートを切った大阪のド真ん中にある動物園をご紹介しましょう。
大正生まれの日本で3番目に古い動物園の近年
大正4(1915)年に開園した日本では3番目に長い歴史のある動物園だ。
令和3(2021)年4月1日には、『地方独立行政法人 天王寺動物園』となり新たな組織としてスタートを切った。
地方独立行政法人となるまでの道のり
天王寺動物園が、地方独立行政法人としての運営が望ましいとされ、その議論については、平成24(2012)年6月の「大阪府市統合本部会議」において、「地方独立行政法人もしくは財団法人による自主的運営」が適しているとの議論がなされていた。だが、独法化には政令改正が必要、財団法人の新設は市の方向性に抵触してしまうという八方塞がりの状態でありながらも運営を続けていたところ、平成25(2013)年10月に行われた「地方独立行政法人法施行令が改正」により、地方独立行政法人の対象業務に「博物館、美術館、植物園、動物園又は水族館」が追加されたのである。
これを機に平成28(2016)年9月~平成31(2019)年3月にわたり、度重なる天王寺動物園経営形態検討懇談会の結果を踏まえて市会議論によって「地方独立行政法人」への道が開けることとなる。
同園では、平成27(2015)年に100周年を迎え、翌年平成28(2016)年10月に「新たなこの先100年を魅力あふれる動物園であり続けられるように」との願いが込められ策定した「天王寺動物園101計画」を軸に現在も運営されている。
[参考]
大阪市HPより:天王寺動物園の地方独立行政法人化について(令和2年1月29日) (LINK)
大阪市HPより:『天王寺動物園101計画』について (LINK)
天王寺動物園で日常を過ごす仲間たち
ここからは動物園写真家が撮影した、天王寺動物園の動物さん達を紹介しよう。中には、日本では天王寺動物園でしか見られない貴重な動物もいるので必見。
[ホッキョクグマの親子]
令和2年11月に生まれた、ホウちゃん(メス)とお母さんのイッちゃん。
遊び盛りのホウちゃんは、何度も何度もプールにダイブする姿は元気に育っているなと来園者を安心させてくれる。
[マレーグマ]
某企業CMに出演し、多くの人に知られることとなったマレーグマのマーサさん(メス)。
長年連れ添った、マーズくん(オス)が2021年1月に沖縄こどもの国に移動した。
一頭で過ごす彼女は取材をした日も、おやつ探しに夢中。元気そうで良かった。
[ニホンジカ]
取材の日は、飼育員さんが体重測定の準備をしていた。
体重測定をするにも、体重計の台に慣れてもらうトレーニングに時間をかける必要があり、ようやくこの日測定ができるのだということだった。そう教えてくれた飼育員さんの準備風景を見ながら「動物達と接するには時間をかけてゆっくり距離を縮める」ということをとても大事にしているのだと感じた。
[キーウィ]
国内でキーウィさんが見られるのは天王寺動物園だけ!しかも、夜行性動物舎内の暗いライトで照らされた展示場で見ることができるが、どうしても見づらい。この日は、午後に旧コアラ舎の運動場でお散歩をするということで、明るい屋外での撮影が可能となった。
[クロサイ]
都会にある動物園でも、クロサイさんが2頭のんびり過ごす広いスペースが設けられた展示場にはこの日もおやつの木の葉がついた枝をモシャモシャと咀嚼する彼らの姿が見られた。
[ブチハイエナ]
ブチハイエナさんの展示場には大きなガラス越しで見ることのできるエリアと、上からのぞき込むエリアが用意されている。今回はのぞき込むエリアからこっそりのぞいてみた。へそ天でくつろぐ姿が確認された。
[メガネフクロウ]
黒いお顔に、白いバッテン。名前の通りメガネをかけているように見えるメガネフクロウのムサシくん(オス)。
まん丸の目が愛らしいのに、なんとも強そうな極太の足と大きな爪だ。
[ジャガー]
ただいまカップリング中。定期的に繁殖に取り組んでいるがまだ妊娠の兆候は見られないという。
ジャガーには黒い個体も他園で見かけるが、黄色の個体同士でも黒い子は生まれることがあるそうだ。
同園では、今回紹介した動物さん以外にも約180種類、1000点もの動物さんに会うことができる。
歴史が古い動物園であるからこそ、長年来園者に愛され続けている個体もいる。
動物たちの福祉を考える同園の下、彼らにはできるだけ長生きしてもらいたいと願うばかりだ。
天王寺動物園に「生き物を学習する場」と「憩いのスペース」が誕生
天王寺動物園の二つあるゲートのうち、「新世界ゲート」を潜ってすぐのところに令和3(2021)年3月9日、「TENNOJI ZOO MUSEUM」(てんのうじズーミュージアム)「FooZoo」(フーズー)「GooZoo」(グーズー)の3施設がオープンした。
「TENNOJI ZOO MUSEUM」(てんのうじズーミュージアム)
今回は、天王寺動物園 副園長の今西さん(右)と、動物園専門員の廣谷さん(左)にお話しをお聞きした。
ミュージアムの入り口を入ってすぐに目に入るのはやはり、アジアゾウ「ユリ子」の全身骨格標本である。
標本は当時のユリ子さんの精密な半身レプリカを合わせて再現しており、ゾウの鼻が筋肉でできていることなどアジアゾウの体の仕組みなどが分かりやすく展示されている。
ユリ子さんのいるエントランスから、奥へ進むと右側に天井まであるガラス張りの展示スペースが現れる。
そこには今にも動き出しそうな「剥製」や「骨格標本」が展示されている。その迫力に圧倒されるだろう。
動物専門員の廣谷さんにお聞きしたところ、このミュージアムができるまではレクチャールームにある保管室に約260点もの標本が保管されていたという。一昨年(2019年)11月に動物専門員として働き始めた廣谷さんは、初めて保管室に案内されたとき、「剥製」の数の多さと迫力に恐怖を覚えるほどだったが、恐怖だけではない何か強いものを感じ圧倒されたとも語った。(因みに保管室に行くのは今でも怖いのだそうだ)
現在保有している「猛獣の剝製」の多くは、戦時中に苦渋の思いで命を奪ってしまった動物たちである。
副園長の今西さんに新たな「剥製」の作製についてお聞きしたところ、現在同園が大型動物の剥製作製をお願いできる「剝製業者」は東京に一社だという。その剥製業者にお願いしようとすると、動物が亡くなった直後に採寸をしなければならないという。遠方であること、動物たちの死は突然やってくることや、作製するための費用などもかかることから、新たに「剥製」を作ることはしていないとのことであった。
だからこそ、受け継がれてきた多くの「剝製」をこのミュージアムで多くの人に見てもらうということに意味はあるのだろう。
また、「剥製」や「骨格標本」となり、動かなくなった彼らの生前に思いを馳せることで「生き物の命」というものを改めて意識し、彼らの死の経緯を知ることで「戦争」というものを考えるきっかけになるのではないだろうか。
「FooZoo」(フーズー)と「GooZoo」(グーズー)
園内で動物たちを観察して、ミュージアムで動物について知識を深めたら、「FooZoo」(フーズー)で一休み。
新たにフードコートとしてオープンしたこの施設では、天王寺動物園オリジナルの、トレイの端から端まで超ロングソーセージを挟んだ「きりんドック」である。
これはパッケージも可愛いのでインスタ映えすると、注文されるお客様が多い人気の一品だ。
また、動物園では珍しい、熱々の鉄板で出される「牛ロースステーキセット」が、休日に家族で訪れるお父さんお母さんに、ちょっとした贅沢気分を味わえる昼食として人気があるのだそうだ。
「GooZoo」(グーズー)では、天王寺動物園オリジナルのグッツが定期的に加わっている。
特にぬいぐるみ等は動物園で出会った動物達との思い出として買い求める人も少なくない。
また来園したときには新たなグッツとの出会いにもワクワクすることだろう。
今後の天王寺動物園
現在コロナ禍において企画していたイベントが軒並み白紙となる中、今後この「TENNOJI ZOO MUSEUM」(てんのうじズーミュージアム)を活用した学習やイベントを5名の動物専門員の方々を筆頭に色々考えている。
今回、新たな組織になったことでSNSなどを通じて天王寺動物園の魅力発信にも力を入れているので興味があればいずれかのSNSに登録して同園の日常をチェックしてみると良いだろう。
[天王寺動物園 公式SNS]
Twitter(LINK)/ YouTube(LINK)/ Instagram(LINK)/ Facebook(LINK)
今も園で過ごす動物たちもいつもと変わらない賑やかな日常を過ごし、少なくなった来場者を迎えている。早く多くの家族連れや来場者が集い、笑顔があふれるイベントが開催できるようになることを切に祈るばかりである。
[取材協力]
地方独立行政法人天王寺動物園 (HP)
〒543-0063 大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1−108
TEL: 06-6771-8401
[写真/記事]
動物園写真家 阪田 真一 (HP) / Twitter (LINK)
編集/inox.