仮想通貨取引所は安全になったのか? 取引所の案内文では安全性が高まったことをうたっているがイマイチ腹落ちしない。そこでコインチェックを傘下に持つマネックスグループで、暗号資産アナリストを務める松嶋さんを取材。実際に取引所が行なう強化ポイントや、投資家が自らの資産を守るためにできることをまとめた。
【取引所が行なっている安全性向上策】
(1)コールドウォレットへの預かり資産の保管
(2)投資家への2段階認証利用の促進
(3)日本暗号資産取引業協会による定期的な業務検査
2020年5月の仮想通貨関連の法令改正に加え、国内の仮想通貨取引所が加入する日本暗号資産取引業協会が安全性の高い業務を行なうよう各取引所に指示し、定期検査で実効性を高めている。取引所へのハッキングリスクは以前に比べて減ったといえるだろう。「取引所がコールドウォレットに仮想通貨を保管する策を講じるほか、社内でのセキュリティー教育を強化しています」と語る松嶋さん。「もちろん、最終的には投資家の自衛が必要です。2段階認証や仮想通貨の分散保管をしましょう」と対策を呼びかける。
海外の取引所に比べて補償面では出遅れている
ハッキング被害の保険がないのが日本の取引所の弱み。「海外では取引所向けのハッキング保険がありますが日本にはありません」(松嶋さん)。被害の事例が少なく算定が難しいためらしい。また仮想通貨を取引所に代わり安全に保管するサービスも未整備。「銀行の預金は預金保険で破綻時に1000万円までの補償が受けられますが、仮想通貨取引にはありません。コインチェック事件では同社はすべて返金対応しましたが……」と実情を語る。財務力がない取引所では、被害発生時になす術がないのが課題だ。
安全性は格段に向上しました!
法改正で、取引所への安全性の要求水準が高くなったのは確かです。また、安全な取引を投資家に提供したいという思いが取引所にもあります。日々、コールドウォレットの運用手順改善などで安全性向上に努めています。
マネックス証券
マネックス・ユニバーシティ
暗号資産アナリスト
松嶋真倫さん
新卒で都市銀行に入行し、退職後に同社へ。マネックスクリプトバンクで業界調査レポートを多数執筆。
個人ができるハッキング対策/取引所や保管場所の分散と2段階認証
取引所の安全性が向上したとはいえ、投資家が何も手を打たないと効果は半減してしまう。「安全性向上のために、2段階認証の設定は必須です。ログイン時のメール通知も忘れずに。また複数の取引所の口座を開設し、長期で保有する仮想通貨はウォレットアプリなど個別に保管するのもよいでしょう」これらの対策は必須で行ないたい。また、「取引が過熱すると取引所のシステムが止まってしまうことがあります。換金したくてもできない事態を避けるためにも取引所の口座を複数開設しておくと、万が一の時に役立ちます」とのことだ。
安全性向上につながる施策
・取引所を複数使う
・ウォレットアプリへの分散保管
・2段階認証で不正ログインを防ぐ
・初心者は取引をごく少額にする
4つの手段のうち最重要なのが、2段階認証。国内取引所はほぼすべてで設定可能だ。設定しないと他者への仮想通貨送金ができないことも。
松嶋さんが考える仮想通貨の保管方法
投資期間で保管方法をまず分けよう。「1~3か月ほどの短期で取引をする場合は、複数の仮想通貨取引所に。それ以上の長期で投資する場合は、スマホのモバイルウォレットやペーパーウォレットなどで個別に保管するとよいでしょう」(松嶋さん)。モバイルウォレットを使う場合、パスワードやバックアップ用パスワードの管理を厳重に。
●分散保管した場合、パスワードの管理が煩雑になり、紛失のリスクがあるので、過度な分散は避けましょう。2〜3取引所+1スマホウォレットで十分対策になります。超長期で投資するなら、ペーパーウォレットという印刷した紙のウォレットに保管し、その紙を貸金庫に預ける手段も有効です。(松嶋さん)
日本語に対応しているモバイルウォレットを使ってみよう
仮想通貨用モバイルウォレットはいくつもあるがほとんどが英語。「『MetaMask』と『Bread Wallet』といったウォレットであれば、ユーザー数も多く、日本語にも対応しているので比較的使いやすいでしょう」(松嶋さん)。絶対安全というわけではないが、日本語表記のほうがより安心して使える。『MetaMask』は、ビットコインに対応していないが、NFTの保管やDeFiへのアクセスに対応。投資する銘柄や対象資産によって使い分けたい。
MetaMask
イーサリアム関連通貨に対応。ウェブでも使える。
Bread Wallet
ビットコインを含む多くの通貨に対応している。
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取材・文/久我吉史