2019年、コンパクトなセダンボディとFF(前輪駆動)を採用して登場したBMWの2シリーズグランクーペ。古くからのBMWファンにとっては「FFは流儀にあらず」といったところかもしれないが、一方でこのニューカマー、日本導入後は新たなユーザーを獲得しながら着実にファンを増やしてきている。FFであってもBMWとして認められてきた、その理由を求めグランクーペのステアリングを握った。
路面を前輪で掻きながら走るから、FFのことを「前かき」と呼ぶことがある。ある世代より上、あるいはクルマ好きを自称する人などがよく使う表現だが、そこには少しばかり「上から目線」の意味が含まれている。
「クルマの基本はFR(後輪駆動)であり、上質な走行フィーリングやスポーティな走りを求めるならFRが理想的」という人に取ってFFは、少々物足りない、という事のようだ。
長い間「FR(後輪駆動)こそ、ドライバーズカーであるBMWの本流」と言ってはばからなかった人たちが、FFに対してアレルギー反応を見せることは当然のことかもしれない。事実、2014年にブランド初のFFモデル「2シリーズ アクティブツアラー」が登場したときには、かなりの論争が起きた。それでもアクティブツアラーが、スペースユーティリティ優先のSUVとミニバンの中間的なポジションであった事が幸いし、自然と論争は沈静化した。そのお陰もあってか、スポーティハッチの1シリーズがFF化されたときには、意外なほどすんなりと受け入れられたはずだ。
このようにMINIブランドと共通するプラットフォームを使ったコンパクトクラスの、FFへの移行プランは、順調に進んでいたはずである。ところが、この2シリーズグランクーペで、また一部から声が上がった。BMWにとって、3ボックスという伝統的な4ドアサルーンとして初のFFだったからだ。
外野席から見れば、今時、FRかFFの論争など、多くの人にとってあまり関心のないことのようにも思えるのだ。第一、最新のFFの走りは、言われるほどにBMWが持つドライバーズカーとしての魅力をスポイルのだろうか? そんな疑問を持ちながら走り出した。そのファーストインプレッションであるが「なんと心地いいのだ!」のひとこと。
218dのエンジンルームに収まるのは2Lの直列4気筒ディーゼルターボエンジン。最高出力150馬力、最大トルク350N・mである。そこに8速ATが組み合わされた走りは、実にトルクフルであり、市街地走行でも高速走行でも、さらにはワインディングでも走りは快適にして楽しいのである。切れ味鋭い、という表現はさすがに使えないのだが、セダンでありながらスポーツハッチバックのような軽快な走りが楽しめることが、なんとも魅力的なのである。市街地から高速道路、そしてワインディングへとシームレスの続いていく軽やかな立ち振る舞いは、乗る人をとてもスマートでクレバーに見せてくれるのである。
バランス感覚抜群の程よいサルーン
どうしてこれほど快適にして軽やかなのだろうか。トルクフルなエンジンだけでなく、コンパクトなボディも大きな役割を果たしてくれていると、すぐに理解できた。スペックを確認すれば全長4535mm、全幅1800mm、全高1430mmで、ホイールベースは2670mmとある。BMWの主役級サルーンである3シリーズより、当然だがひとまわりコンパクトなボディだが、そこには1990年代に人気だったE36(旧型3シリーズ)のような扱いやすさがあったのだ。最近、立派になった3シリーズよりもボディのサイズ感を把握しやすく、扱いやすいことがすぐに実感できた。これが独特の運転の軽快さ、ストレスの少なさにつながっていたわけだ。同じFF用プラットフォームを使うMINIとも違った味つけは、スポーティに走ることも強要してこないし、なんともバランス感覚に優れた大きさである。
さらに、FFであることで向上したスペース効率によって、コンパクトな割には程よい室内の快適さの理由も発見できる。全幅が少し広いこともあってか、大人4人乗車であっても快適に過ごせるのである。日本で日常的に気兼ねなく使うサルーンなら、これでいい、とさえ感じるようになってくる。
少し走り込んでいくと確かにFFならではのネガも少しだけ見えてくる。アクセルを踏み込んだときのステアリングに伝わる雑味というか、かすかな抵抗感のようなものである。さすがに全幅の上質感と評価するまでではないのだが、それとて「気にしなければ見過ごせるレベル」の仕上がりである。むしろ最新FFの出来のよさと、BMWならではのストローク感たっぷりのサスペンションとの組み合わせが、いかに良く出来ているか、を実感することになった。
走れば走るほど「コイツは裏切らないなぁ」という気持ちになってくる。日常生活を快適に送るため、いかに適正で程よい距離感、パーソナルエリアを保ちながらクルマのある生活を送るか? そんな思いに対して、古くからのファンを裏切ることなく、新しいユーザー層にも訴えかけながらBMW流儀がしっかりと伝えてくる、巧みさが見えてくる。すっと燃費計に目をやるとコンピュータ計測での表示だが18.2km/lを達成している。カタログの燃料消費率WLTCモードは17.1km/lであるから、実燃費というか環境性能においてもまだ内燃機関の可能性を感じさせて暮れつつ、SDG’Sとしての基準をクリアしていることに気が付いた。そして「コイツを生活の中心に置いてもいいかもしれない」とさえ思っている自分を発見したのである。
コンパクトなボディの中に華やかな上質さをしっかりと感じさせてくれる佇まい。
4ドアのクーペスタイルはコンパクトで固まり感のあるデザイン。
10.25インチのデジタルメーターやナビゲーションを備えたBMW流儀に則ったコクピット。
パーフォレーテッドダコタレザーのシートは質感とホールド性を高いレベルで両立。
FFによってスペース効率はよく、リアシートの足元は広く確保されている。
ガソリンモデルより約10カ月遅れ、2020年の夏に追加されたディーゼルモデル
グラスエリアの周辺などのモール類も質感は高く、BMWのスタンダードを維持している。
430リッターのトランクルームは奥行きもあり、実用背は高い。リアシートは分割可倒式でトランクスルーになる。
市街地とワインディングで40%、60%が高速走行というルートで実燃費は18.2km/lを達成していた。
(価格)
¥4,420,000(プレイエディション+)
SPECIFICATIONS
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,535×1,800×1,430mm
車重:1,510kg
駆動方式:FF
トランスミッション:8速AT
エンジン:直列4気筒ディーゼルターボ 1,995cc
最高出力:110kw(150PS)/4,000rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,750~2,500rpm
問い合わせ先:BMWカスタマー・インタラクション・センター 0120-269-437
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。