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東京五輪で顕在化したボランティアは無料の労働力という誤解

2021.09.25

総合人材情報サービス企業のアイデムでは、個人の働き方や企業の人事労務、行政の労働施策といった労働に関するニュースを取り上げ、課題の解説や考察、所感などを含む同社スタッフ独自の視点を交えて伝えている。

今回は、アイデムのデータリサーチチームに所属する関夏海氏による「五輪ボランティア問題と足元をみるサービスの請求」と題したコラムを紹介する。詳細は以下の通り。

関夏海(せきなつみ)氏

2014年、株式会社アイデム⼊社。データリサーチチーム所属。賃⾦に関するデータ整備、統計分析、レポート作成などを担当。アンケート調査の企画・作成や、雇⽤関連の問い合わせ対応なども⾏う。

五輪ボランティア問題と足元をみるサービスの請求

■ボランティア浸透は阪神淡路大震災

皆さんは、「ボランティア」についてどんなイメージを持っているだろうか。

学生の頃、私は春と夏の長期休暇に、所属していたサークルでご縁のあった場所でボランティア活動をさせてもらっていた。今振り返っても、なかなかできない経験をさせてもらい、それは人生の思い出として、今後も忘れない有意義な時間を過ごすことができた。周りの環境のすばらしさに加え、ともに活動をした友人やお世話になった方々とは今でも交流があり、私の狭い世界を大きく広げてくれた。チャンスがあれば、是非皆さんにも味わっていただきたいほどだ。

このボランティアには、自ら志願して参加した。うろ覚えだが、何らかの名目(指導料だったか)で1日500円くらい払っていた。ボランティア保険にも加入し、旅費はバイトで工面した(これが一番高かった)。先方のご厚意で宿泊場所とごはん代(文字通り)は無償で提供してもらっていた。なので、私の中ではボランティアという言葉から連想される内容は上記のものだった。

日本でボランティアが一気に浸透したのは、1995年に起こった阪神淡路大震災と言われている。当時全国から数多くのボランティアが被災地へと駆け付け、述べ180万人にのぼったという記録がある。

ここまで大人数のボランティアが集まったことはそれまで日本で経験がなく、以降、当時直面した問題を教訓に、ボランティアセンターの設置やノウハウの蓄積が行われた。そのおかげで東日本大震災や、最近では西日本集中豪雨など、自然災害時に駆けつけてくれる仕組みができた。

自発的に自主的に行う活動

災害発生時に被災場所へ赴き、様々な支援活動を現地で行うボランティアを、災害ボランティアという。私が経験したものと同じ、ボランティアと名前がついているが、毛色が違う。直近では、ボランティアといえば2020オリンピック・パラリンピック東京大会のイメージを抱く方もいるのではないだろうか。

何年か前の公募段階では、大会ボランティア8万人、都市ボランティア3万人、計11万人の募集だったかと思うが、紆余曲折あり、実際には都市ボランティアは8000人に縮小したというニュースがあった。それでも、多くの人が支援・協力してくれているおかげで、現在の大会が運営されている。

ボランティアという言葉の語源は「志願兵」という説と、「自由意志」(voluntās)という説がある。どちらも「自らの意志」が関わっていることは分かる。明確な定義を行うことは難しいのだが、現在の日本では一般的に「自発的な意思に基づき他人や社会に貢献する行為」のことをボランティア活動と表現することが多い。

要素を分解すると、

公益性:特定の人たちの私益につながるものではなく、社会や公共の福祉に役立つ
自発性:他社から強制されるのではなく、自分の意思に基づいて行う
先駆性:画一的に取り組まれる活動ではなく、社会の発展や取り組みの先頭に立つ
無償性:活動の見返りを金銭報酬で求めない、物的利益を期待しない

以上の4つが主に挙げられ、ボランティア活動の4原則として紹介される。4原則は災害ボランティアで考えるととても分かりやすくて、当てはめるとこんなところだろうか。

公益性:被害を受けた方々、関係各所のために
自発性:全国から志願して現地に赴き
先駆性:率先して復興へ尽力し
無償性:報酬を期待しない、請求しない

日本では、善意をもって誰かのためにする奉仕活動をボランティアと表現しがちだが、正確には「自発的に自主的に行う活動」となる。

ボランティアと同じ仕事内容でアルバイトを募集

ところで、公益性、自発性、先駆性の3つが揃っていると、とても崇高な、意識の高い、やる気に満ちた人をイメージがしないだろうか。もし会社員なら、活躍目覚ましい姿を容易に想像できてしまう。

例え話をする。Aさんが部屋で掃除機をかけていた。ある日、掃除のお礼としてBさんが500円をくれた。その後、掃除をするたびに500円をもらった。ところが、突然お礼が50円になった。するとAさんの掃除は最初の頃より雑になり、ついには興味を失ってしまった。

元々自分の意志で始めて、好奇心や達成感を求めていたこと(内的報酬)であっても、途中で報酬目的(外的報酬)に代わってしまった段階で、それが与えられなくなるとやる気がなくなる。これをアンダーマイニング効果という。

同じ働きをしていても、先月よりお給料が下がったら、がっかりするものだ。ボランティアの場合、報酬が目的ではないのに高いモチベーションのもとに行動を起こす。だが、会社員の場合、お金がもらえるのにモチベーションが下がることもある。おもしろいと思わないだろうか?

この現象と近しいことが、2020東京大会の開催にあたってもみられた。大会ボランティアとは別に、アルバイトの募集があったのだが、内容が大会ボランティアとほとんど同じだったためだ。かたや時間分の賃金が発生して、かたや大会の成功に貢献したい高い志を無償で提供する構図は、批判の対象となった。

納得できず大会ボランティアを辞退した方もいたかと思う。開催にあたり、確実な人員補充が必要となったためと考えられるが、ならば「全員報酬ありにしてもいいのに」と私は思っていた。

タダより高いものはない?

ボランティアでよく勘違いされることに、無償性がある。例えば、青年海外協力隊には給与がある。金銭対価ではない場合もあり、私が関わったボランティアでは宿泊場所・宿泊代を提供してもらっていた。無償性の勘違いが「ボランティアは無料の労働力」という誤った認識で広まっている。言葉のイメージ先行は根が深そうだ。

ボランティアでなくとも、公益性と自発性を拡大解釈したやりとりは日常にあふれている。「もっと安くしろよ」「なんでこのサービス無料じゃないの」というように、日本ではサービス精神のようなものを過剰に求めるケースが多く見受けられる。

それらは企業努力で成り立っているもの。レストランの冷たい水とか、スマイルゼロ円とか、最近では商品の送料だろうか。無料のサービスがたくさん生まれたおかげで生活が充実した反面、自分も「無償提供が当たり前に要求されることが多くなってきたのでは」と感じている。特に会社員としてその面を垣間見る機会は増えた。

極端な例だが、お客さまに「この商品を買いたいのですが、気に入るかわからないので無料でください。気に入ったら定期的に購入するので、5割引価格にしてください」と言われたら、どう感じるだろうか?

目に見えない商品や効果の確証ができない商品を販売する場合、モノがない、費やす時間も見えにくい、労力も見えにくいことも相まって、可視化される値段を最小限にしようとする交渉は起こりやすいようだ。

お客さまに利用していただくために「安く」て「よい」商品やサービスを開発することは大切だが、採算がとれなければ本末転倒。そこを誤ると、行きつく先は勘違いのボランティアと同じになるのでは、と思う。「あの会社は無料でやってくれた」「予算がない」を受け入れ続けた結果、気づいたときには自分の仕事が無償提供されるものになっていたなんて怖い。報酬を受け取る代わりに責任もって最善を尽くすことがプロの仕事ではないだろうか。

今回の内容は、2020東京大会でのボランティアの問題を知ったことがきっかけだ。ボランティアの本質は、自主的な活動。その思いにつけこむようなことがあってはいけない。企業に過剰なサービスを求めるのも、企業につけこむような行為だ。それは自分自身の首を絞めることにもつながるのではないだろうか。

出典元:株式会社アイデム

構成/こじへい

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