夫婦関係はとっくの昔に破たんしてるけれど、娘のために協力して親の役目を務める男女。
2021年8月20日よりNetflixで独占配信中のオリジナルシリーズ『全然まったく大丈夫』は、メキシコで製作されたブラック・コメディ。
監督・プロデューサーは『ナルコス: メキシコ編』などに出演している俳優ディエゴ・ルナ。
あらすじ
メキシコシティ。ラジオ局に勤務し番組にもゲスト出演するルイ(フラビオ・メディナ)とクリエイターのフリア(ルシア・ウリベ)は、夫婦関係が破たんした後も娘アンドレアのために同居を続けている。
すでに愛情は冷めているが、夫婦としての役割を分担して淡々とこなす日々。
いずれは離婚するつもりだが、娘のことが最優先なので手続きを焦ってはいない。
お互いの欠点にイライラしたり、愛が冷めたはずなのに嫉妬したりしながらも、新しい家族のあり方を模索していく。
見どころ
ルイの「修復は無理だと認めてからのほうが、むしろうまくいってるんだ」というセリフは、言い得て妙。
夫婦に限らずどんな人間関係においても、相手に期待しなくなってからの方が、円満になったりするもの。
“愛しているなら○○してくれて当然”だと思うと、お互いに感謝しなくなり不満が募っていく。
おそらく誰もが頭では理解しているつもりだろうけれど、関係がまだ壊れていない段階で、“期待しない”を実践するのはとても難しい……。
そして「愛情は完全に冷めた」と言いながらも、フリアが他の男性と過ごしていると知ると、激しい苛立ちを剥き出しにして悔しがるルイ。
焼け木杭に火がついたのか、単なる執着心や独占欲に基づくものなのか、自分だけ新しい恋に踏み出して一歩先にリードする妻への対抗意識なのかは、よくわからない。
視聴者だけでなく、きっと本人にもわかっていないのではないだろうか。
人の気持ちは常にまだら模様で、明確に言語化することがとても難しい。
本作が一貫して主張しているのは、結婚式でだいたいのカップルが誓っているであろう“永遠の愛”など、本当は最初からどこにも存在しない、ということ。
とてもドライで冷たく聞こえるかもしれないが、「どんな自己犠牲を払っても円満な家庭を維持しなければならない」「離婚=恥ずべき失敗」という“呪い”から視聴者を解き放ってくれるという意味では、前向きな作品だと言える。
Netflixオリジナルシリーズ『全然まったく大丈夫』
独占配信中
文/吉野潤子