テレワークや外出自粛で「コロナ太り」を訴える人が増えているという。ダイエットに関心がある人も多いだろう。そんなダイエット中、挫折しがちなのが、空腹との闘いだ。
空腹感を感じたとき、ふと、疑問に思うことはないだろうか? 「なぜお腹が鳴るの?」「空腹の状態を作ると痩せやすくなるのは本当?」「空腹をまぎらわす方法は?」。そんな空腹にまつわる素朴な疑問について、ダイエット外来の専門医に回答してもらった。
お腹が鳴るのはなぜ?
お腹がすくと、「ぐ~っ」とお腹が鳴ることがある。これにはどんな意味があるのか。そもそも空腹の仕組みとは? ダイエット・肥満外来の渋谷DSクリニック院長で、医学博士の林博之氏は、次のように話す。
【取材協力】
林 博之(はやし ひろゆき)氏
医学博士。1987年東京慈恵会医科大学卒業、1994年医学博士の学位受領。東京厚生年金病院 形成外科医長などを経て、2005年に医療痩身専門院「渋谷DSクリニック」開設・院長就任。医学的根拠のないダイエットに危機感を感じ、健康を損なわないダイエットを提唱。管理栄養士・漢方薬剤師などの各分野の専門家たちとともに、多角的な視点でダイエットをサポートしている。
渋谷DSクリニック https://dsclinic.jp
1.空腹の仕組み
「満腹と空腹は、血液中のブドウ糖と体内の脂肪が分解されてできる『遊離脂肪酸』の濃度によって決定されます。満腹を感じる満腹中枢と、空腹を感じる摂食中枢は、間脳(かんのう)の視床下部にあります。様々な活動によって体内のエネルギーが消費されると、血糖値が低下し、体に蓄えられた脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとします。この脂肪を分解するときにできるのが、遊離脂肪酸です。遊離脂肪酸が血液中に増えてくると、この情報が摂食中枢に送られ、空腹感となって、エネルギーの補給を促します」
2.お腹が鳴る仕組み
「お腹が鳴る音は、胃が空になってくると分泌されるホルモンの働きにより、胃から大腸が収縮する(空腹時収縮)ことで発生します。この収縮は、次の食事に備え、腸内を掃除するための動きです。15~20分ほど持続するとされています。
空腹感は生命を維持するためのエネルギー補充のサインですが、『お腹の音が鳴ること』が空腹を知らせるサインの機能を果たしているというわけではありません。ただし、空腹時収縮は、腸活動が健康な証拠とも言えます」
空腹が過ぎるとやわらぐのはなぜ?
ところで、お腹が鳴るなどして空腹を実感した後、しばらくするとその状態がやわらぐ。このとき、体の中では何が起こっているのだろうか。
「空腹が継続するとアドレナリンが分泌され、肝臓に蓄積されたグリコーゲンをグルコースに戻す指令を出します。これにより血糖値が上昇し、空腹感が抑えられます。
アドレナリンは、興奮時や体にストレスがかかった際に分泌されるため、筋トレなどを行うことによっても一時的に空腹を抑えることができます。しかしアドレナリンが分泌されると、精神的に、ややイライラしやすくなります。これが空腹時に不機嫌になる原因です。ただしアドレナリンの作用はいずれにしても一時的なので、再び空腹は繰り返します」
空腹とダイエットの関係
よくダイエットにおいて、「空腹を感じてから食べることが大事」「お腹がぐーっとなる状態を過ぎるとよい」などと耳にすることがある。これらは、正しいことなのだろうか。
「『小腹が空いた』状態で20分ほど我慢をすると、脂肪酸がエネルギーとして使われ、空腹感も消えていくという観点では、脂肪を減らすことに役立つとも言えますが、それよりも食事の間隔が空くことによる急激な血糖値の上昇によって脂肪が蓄積されやすくなることと、エネルギーの吸収率上昇のほうが懸念されます。
朝食の欠食もダイエットにはマイナスです。昼食時のドカ食い・血糖値の急上昇による脂肪蓄積、満腹感の低下を招きます。朝食を食べたほうが、日中のエネルギー消費率も高まるというデータもあります。単にカロリーカットになるとは考えず、1日3回食事をとることによるメリットが大きいことを把握しておきたいものです」
空腹とうまく付き合うポイント~飴をなめる・コップ1杯の水を飲む
では、ダイエット中に、空腹とうまく付き合うためには、どうすればいいか。林氏は次のように話す。
「空腹感をコントロールするには、“何かを食べる”ということになります。ダイエット中の方で空腹感が困るという方は、先にご説明した『血中の糖質』と『胃袋』の2点についてそれぞれ対処することを提案します。
まず、血中の糖質を補充するために、飴をなめること。さらに、胃に対してはコップ1杯の水を飲むと、急激な空腹感から免れられます。単純なようにも思えますが、むやみに間食したり、何も口にできないことの精神的ストレスを貯めるよりは、ダイエットにおいてずっと効率的と言えます。言わずもがな、飴をいくつも食べてしまっては元も子もありませんが、トータルで数十キロカロリー程度の間食であれば、問題ないと考えます」
ダイエット中に空腹を感じたら、「飴をなめる」「コップ1杯の水を飲む」を実践してみよう。
そして、林氏はダイエッターに向け、次のようにアドバイスする。
「ダイエットをされている方にとっては、この空腹感のコントロールこそが大敵かと思いますが、過度な糖質制限は血糖値コントロールの観点でも、栄養バランスにおいてもNGです。1日3食、バランスの良い食事をとることを心がけるのはもちろん、なるべく精神的にも負担のない形でダイエットを進めていくことが大切と思います」
ダイエッターにとって、空腹感とうまく付き合うことはとても重要だ。今回の空腹に関する素朴な疑問や対処法をヒントに、ダイエットを成功に近付けよう。
取材・文/石原亜香利