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ビジネスシーンにおいて、議論がいつまで経ってもまとまらず、イライラした経験はないだろうか。そのような、なかなか埒が明かず腹が立つことを表した慣用句が「業を煮やす」だ。本記事では、そんな「業を煮やす」の意味と語源を解説する。併せて例文や関連表現など、より深く理解するための知識を紹介していく。
「業を煮やす」とはどんな意味?
はじめに、業を煮やすの正しい意味と語源、使い方を解説する。「業を煮やす」状況をイメージしながら、確認してみてほしい。なお、業を煮やすの読み方は「ごうをにやす」。「業」を「ぎょう」と読まないように注意しよう。
思うように物事が進まず腹を立てることを表す
業を煮やすとは、「物事が思うように進まず腹を立てる」ことを意味する。「業(ごう)」は、「理性では抑えられない心の働き」を指し、「煮やす」は鍋を火にかけ、ぐつぐつと熱して煮えた状態にすることから転じて、怒りが激しくなることを表す。落ち着いていた心が、熱せられるように怒りで激しくなることからこの言葉が生まれたという。
語源は、仏教用語の「業」の意味からきている
「業(ごう)」は仏教用語「カルマ」の訳語で、「人間の体・言葉・心による善悪の行為」のこと。そこから「前世の善悪の行為による現世で受ける報い」「理性では制御できない心の働き」の意味も持つようになった。また、同じ業を使った表現に、「業を積む」という言葉があるが、この場合の業は善い行いだけを指し、「善行を重ねる」という意味になる。
業を煮やすの例文
業を煮やすを使った例文を紹介する。単に腹が立つことを指すのではなく、埒が明かなかったり、相手が煮え切らなかったりと、期待通りにいかず腹を立てる点がポイントだ。
【例文】
「彼の横柄な態度には、誰もが業を煮やしている」
「毎回同じミスをする部下に、業を煮やした上司がさすがに指摘した」
「いつもなら30分で通れる道で3時間経っても抜け出せず、業を煮やした」
「煮え切らない彼の態度に、業を煮やした彼女から別れを切り出した」
「時間も忘れて買い物に夢中になり、待っていた彼は業を煮やして帰ってしまった」
業を煮やすの関連表現
最後に、「業を煮やす」の類語、英語表現について解説する。怒りを表す類語それぞれのニュアンスを理解することで、知識の幅をグッと広げることができるはず。
業を沸かす(ごうをわかす)、業が沸く(ごうがわく)
業を煮やすの「煮やす」を「沸かす、沸く」に言い換えた「業を沸かす/業が沸く」。煮やすと同様に、ぐつぐつと熱せられる様を表現した、怒りの感情を表す言葉だ。どちらも、「業を煮やす」の言い換えの表現として用いられ、「業を煮やす」との使い分けのルールもなく、意味も同様。また、「業が沸く」は、三重県や兵庫県、中部地方では、腹が立ったりイライラしたりする時に、「ほんまに、ごうわくわー」などと、「が」を省力した「ごうわく」という言葉が怒りの表現として、日常生活でもよく用いられている。
堪忍袋の緒が切れる(かんにんぶくろのおがきれる)
怒りの表現として耳にすることも多い、「堪忍袋の緒が切れる」ということわざ。「こらえきれずに、我慢していた怒りを爆発させること」を表す。堪忍とは、人の過ちに対して怒りを抑えて許すこと。堪忍する心の広さをたとえた「堪忍袋」の中で、我慢していた怒りが膨らんでいき、ついには結んでいた紐(緒)が切れてしまうことから、怒りの感情が爆発することを表現している。「業を煮やす」と比較すると、怒りを抑制しようと限界まで耐え忍んだ意味合いを持つ。
腹に据えかねる(はらにすえかねる)
古代では、心や感情は腹の中にあると考えられており、感情を表現する「腹」を用いた慣用句は数多く存在する。「腹に据えかねる」もその中の一つ。据えるとは、「心をしっかりとどめる、居定まらせる」という意味で、腹に据えかねるは「怒りを心の中にとどめておけないこと」を表す。「腹」と同様、感情を表す表現に「肝」があり、「肝に据えかねる」と使われることがあるが、これは誤りなので注意しよう。
英語ではどのように表現する?
怒りを表す英語表現は数多くあるが、「業を煮やす」を英語で表現する場合は、「lose one’s temper」がよく用いられる。この場合、「temper」は「我慢/冷静さ」の意味を表し、「冷静さを失う」ことから、「かっとなって腹を立てる」様子を表現するときに使われる。
文/oki