車を個人で所有する代わりに一定時間の利用で一台を複数の人で共同所有(シェア)する「カーシェアリングサービス」は元々ヨーロッパではじまったサービスだ。
カーシェアリングサービスには、「企業から車を借りるカーシェア」と「一般の個人から借りるカーシェア」の2種類があるが、日本国内では、2002年からカーシェアリング事業者が車を貸し出す「企業提供型カーシェアリングサービス」が開始された。
2010年ごろから市場が本格化し、現在、大手3社のタイムズカー、オリックスカーシェア、carecoを筆頭に、カリテコ、アースカーなどがサービスを展開。また、近年では自動車メーカーの参入も見られる。
カーシェアの認知率は7割超、自宅周辺のカーシェアステーションを知っているのは約3割
J.D. パワーがカーシェアリングサービスについて知っているかを尋ねたところ、「名前を見聞きしたことがある」が40%、「サービス内容を知っている%」が33%(何となくは知っている:25%、詳しく知っている:8%の合計)という結果に。全体の7割以上(73%)がカーシェアの存在を少なからず認識していることになる。
自宅周辺のカーシェアステーションを知っているのは全国平均では3割弱、地域により差
カーシェアリング主要3社のステーション数は、東京都が最も多く約6,700箇所、次いで大阪が約2,700箇所、神奈川県が約1,900箇所とのことだ。この他の都道府県のステーション数はいずれもは1,000箇所未満で、うちステーション数が100箇所にも満たない県が30箇所以上という状況に。
「あなたの自宅の周辺で、カーシェアリングサービスが利用できる場所をご存じですか」と尋ねたところ、「知っている」は3割弱(29%)。 カーシェアリングサービスの存在自体を知っている割合に比べて、実際住んでいる近くで利用できるステーションを知っている人はまだ少ないという実態が確認できた。
利用検討意向でも地域での差、利用検討意向者の6割以上がレンタカーと併用を検討
次に、車の保有や利用の仕方について今後検討するものを尋ねたところ、カーシェアリングサービスの利用を「検討する」と回答したのは全体の6%。一方、レンタカーの利用を「検討する」と回答したのは全体の15%となり、カーシェアがレンタカーに比べまだ十分に浸透していない状況がうかがえる。また、カーシェアリングサービスとレンタカーの両方を検討する人の割合を見ると、カーシェアリングサービスの利用を検討する人のうち、6割以上(63%)がレンタカーの利用も検討していることが分かった。
カーシェアの利用検討意向を地域別に見ると、東京都で13%、神奈川で10%、大阪府で9%、その他の地域は平均して3%という結果になりました。自宅周辺のステーションを「知っている」と回答した傾向と同様に、利用検討においても地域差が見られる。
短時間での日常使いが旅行に次ぐ利用目的の主流、利用者の半数はマイカー保有者
ここでは、実際にカーシェアを利用している人に焦点を当て、半年以内に日本国内でカーシェアリングサービスを利用した人を対象にした「J.D. パワー 2021年カーシェアリングサービス満足度調査℠」(2021年3月発表)から、利用方法や利用者の特徴を見てみよう。
カーシェアリングサービスの利用理由トップ3は、「自宅近くにステーションがあったから」、「24時間いつでも借りたり返したりできるから、「すぐに出発・返却できるから」という結果に。
また、利用目的は「旅行」が最も多いものの、「近隣での日常的な買い物」、「郊外や遠方での買い物」、「家族などの送迎」といった、ちょっとした日常使いでの利用目的に挙げる人も多いことが特徴だ。
利用時間は「1時間以上3時間未満」(46%)が最も多く、6時間未満の利用が約8割を占めている。レンタカーでは6時間未満の割合はわずか12%なので(2021年3月発表「レンタカーサービス顧客満足度調査℠」より)、その違いは歴然だ。
また、カーシェア利用者の半数は自家用車(マイカー)を保有しているが、マイカー保有者がカーシェアを利用する理由として「自家用車は家族などで共有していて、車を使いたいときに使えないときがあるため」が最も多く挙がっており、カーシェアが日常生活でのサブカーという役割も果たしていることがわかる。
このように、カーシェアは短時間での日常使いが気軽にできるのが魅力の一つだが、実際には利用者の6割以上が、「空車がみつからず、利用をあきらめた」、「利用したいステーションに空車がなく、違うステーションで探さなければいけなかった」というようなストレスを経験している。また、今後の期待としても「ステーションの増加・エリアの拡充」を挙げる傾向も高いことが分かった。
まずは居住エリアにカーシェアステーションがあるということが、カーシェア利用への大きな動機付けになると考えられる。需要の高いエリア(車を保有しない層が多い、または各世帯一台しか車を保有しない層が多いエリア)を中心に、今後のカーステーションや車両の更なる増加に期待したいところだ。
個人間カーシェアは?
駐車場や車庫に駐車したままの時間が多い自家用車を有効活用したいオーナーと自動車を必要とするドライバーをつなぐ「個人間カーシェアリングサービス」について知っているかを尋ねた。
「名前を見聞きしたことがある」が28%、「サービス内容を何となくは知っている」が14%、「サービス内容を詳しく知っている」が4%という結果に。
「知らない」が54%と過半数を占め、企業が提供するカーシェアリングサービスを知らないと回答した割合(27%)と比べても、サービスがまだ一般に浸透していないことがうかがえる。また、今後の個人間カーシェアの利用検討意向は、「検討すると思う」がわずか2%だった。
個人間のカーシェアリングサービスは、企業ではあまり提供していないような珍しい車種や高級車、輸入車なども多く、日常の移動手段としてのカーシェアリングサービスとは異なり、車好きの層を中心に人気が出てきている。しかし、盗難や詐欺といった悪質なトラブルも発生しており、フォロー体制が気になるところだ。
今後の個人間カーシェアの利用検討については、「検討すると思う」がわずか2%。今後の普及に向けて、サービスやシステムの整備や不安の解消も重要なカギとなりそうだ。
まとめ
2010年頃からカーシェアリング事業者が車を貸し出す「企業提供型カーシェアリングサービス」が本格的に始まり、それから10年程が経過した。今回の調査では既に7割以上の人がこのようなカーシェアリングサービスを認知しているという結果となった。
カーシェアという新しいクルマの利用形態への認識は着実に広まってきていることがうかがえる。また、自宅周辺のカーシェアステーションを知っている人は全体では3割未満であるものの、東京や大阪のような都市部においては4割前後と、多くの人にとって、「カーシェア」というものが”使ったことはないが身近にあるもの“となっている。
ただし、カーシェアリングサービスがマイカー保有に代わる存在となり得るか、という目線で見ると、今回の調査ではその意向者は1割未満という低い水準に留まっており、まだマイカーに取って代わるサービスとして確固たる立ち位置を築けているとは言えない。
また「J.D. パワー 2021年カーシェアリングサービス顧客満足度調査℠」の結果では、カーシェアユーザーの半数はマイカー保有者が占めており、家族が使っていて使えない時、メンテンナンス入庫時の代車として、といった2台目需要も多いことがわかる。
しかしその半面、マイカーを保有していないカーシェア利用者においては、その半数以上が今後の車の所有や利用について、引き続き(この先もクルマを持たず)「カーシェア」を使いたいとしている。
また、9割近くが友人等にも「薦めたい」と回答しており、(必要な時だけ)近場からいつでも使いたい時間だけ借りられてすぐに使える、こういったカーシェアの特徴を評価しているユーザーは多い。このようなユーザーにとっては、カーシェアは既に生活になくてはならない交通インフラの1つとなっていることだろう。
“存在は知っているけれど、実際に使ったことがない”ー という人がまだ多いカーシェアリングサービスだが、現状ではテレビコマーシャルのような大々的な広告は行われておらず、その魅力や利点が十分に消費者に伝わっていないようだ。ユーザーの体験や口コミなども通じて、カーシェアならではの利便性や特徴を今後更に多くの人に伝えていくことが重要だろう。
加えて、今後の普及や利便性向上に向け、需要の高いエリアを中心としたステーションの更なる拡充が期待される。
調査概要
「コロナ禍でのカーライフやクルマの意向」に関するアンケート
調査方法:インターネット調査
調査期間:2021年6月
対象者:20~69歳の計2,800名
引用:J.D. パワー 2021年カーシェアリングサービス顧客満足度調査℠
調査方法:インターネット調査
調査期間:2021年1月
対象者:18~64歳の計1,742名
構成/ino.