スマホやスマートウォッチがペースメーカーに干渉する可能性
体内植込み型除細動器(ICD)やペースメーカーを使用している人は、スマートフォン(スマホ)やスマートウォッチを用いる際、それらを6インチ(約15cm)以上離して使った方が良いかもしれない。
米食品医薬品局(FDA)の専門部門である医療機器・放射線保健センター(CDRH)のSeth Seidman氏らによる、一部のスマホやスマートウォッチが植込み型心臓デバイスに干渉する場合があるとする論文が、「Heart Rhythm」に8月25日掲載された。
Seidman氏らの研究グループはこの研究結果を基に、スマホなどの使用には植込み型心臓デバイスへの干渉リスクの可能性があることを認識しておくよう注意を促している。
Seidman氏によると、干渉リスクが生じる原因は、双方の機器に用いられている磁石にあるという。
ICDやペースメーカーには電磁干渉が生じる可能性が予測される手術時や、治療目的でデバイスの機能を停止する必要がある時のための「マグネットモード」と呼ばれる設定がある。
強い磁場にさらされると、意図せずこのマグネットモードに切り替わってしまい、患者に重大な害をもたらす可能性があるとのことだ。
Seidman氏らは今回の研究で、iPhone12とApple Watch6から生じる磁場が、さまざまな距離の条件の下で、植込み型心臓デバイスに与える影響について調べた。
その結果、それらの電子機器と心臓デバイスが近接していると、心臓デバイスがマグネットモードに切り替わる可能性のあることが分かった。しかし、電子機器が心臓デバイスから6インチ以上離れていれば、マグネットモードへの切り替えは起こらなかった。
このような意図せぬ作動を防ぐためSeidman氏は、この種の医療機器が植込まれている患者に対し、「スマートウォッチなどの電子機器を使用する場合、植込み型医療機器から6インチ以上遠ざける、また、植込まれている医療機器の付近にある衣服のポケットにその種の電子機器を入れないといった対策を取るべき」と述べている。
ただしSeidman氏は、このような注意喚起とともに、心臓デバイスが植込まれている患者に対して「パニックになる必要はない」と、アドバイスしている。
「FDAが把握している限りでは、現時点でこの問題に関連する有害事象は1件も報告されていない。われわれは、患者への絶対的なリスクは低いと考えている。ただし今後、強力な磁場を発する一般消費者向け電子機器は増加すると見込まれる。よって、医療用デバイスが植込まれている患者には、リスクの可能性と安全に使用するための適切な方法について確実に理解しておくため、医療従事者に相談することを勧める」と同氏は語る。
今回の論文発表について、心臓病専門医である米ロング・アイランド・ジューイッシュ・フォレスト・ヒルズのMichael Goyfman氏は、「この研究結果から、ペースメーカーを植込んでいる患者はスマホを使用すべきでないと早合点してはいけない。スマホの位置に注意すれば良いだけだ」と話し、「例えば、スーツを着る習慣のある人はスマホを胸ポケットに入れておくべきではないかもしれない」と述べている。
また、米ノースウェル・ヘルス、サンドラ・アトラス・バス心臓病院のLaurence Epstein氏は、6インチ以上離せば問題はないという結果を重視し、「患者が恐怖心を抱いたり、過度な不安を感じないようにすることが重要」と指摘している。(HealthDay News 2021年8月26日)
Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.heartrhythmjournal.com/article/S1547-5271(21)01859-2/fulltext
構成/DIME編集部