
稲作に被害を及ぼす『稲熱病』は、飢饉の原因にもなったともいわれるほど、強い感染力を持つ病気です。お米に深刻なダメージを与えてしまう稲熱病の基礎知識とともに、原因や予防法・かかったときの対策についても詳しく紹介します。
お米の大敵「稲熱病」とは?
日本の代表的な農業である稲作にとって『稲熱(いもち)病』は大敵です。どのような病気なのか・何によって引き起こされるのかを見てみましょう。
凶作を引き起こす稲の病気
稲熱病は『いもち病菌』という糸状菌が稲に寄生することで発病する、稲の病気です。苗の時期から収穫期まで、生育期間のほぼ全ての期間で発生する可能性があります。
感染する可能性があるのは、葉・穂・節・苗などほぼ全ての部位です。場所によって『葉いもち』『穂いもち』『節いもち』『苗いもち』と呼び分けられ、それぞれに特徴があります。
稲熱病は感染力が強い病気です。一度感染して被害が拡大すると、収穫量が激減して凶作を招きかねません。稲作を行う上では、常に目を光らせておく必要があります。
要因や発生しやすい条件
稲熱病が発生する一つ目の原因としては、『気候』が挙げられます。
気温が低く湿度が高い年に発生しやすいのが特徴です。中でも雨が多く日照不足によって夏の気温が多いと、稲熱病の危険性が高まります。
二つ目に挙げられるのが、窒素肥量の使いすぎです。良かれと思って規定量を超えて施肥してしまうと、稲の抵抗力を低める原因になります。
過剰な窒素肥料で育った稲が水田内が密になり、いもち病菌が繁殖しやすい多湿な環境になるのも肥料を与えすぎることのデメリットです。
また、いもち病菌の胞子が風によって空気を舞い、他の稲に落ちるのも感染の原因となります。落下先に水分があれば菌はどんどん繁殖し、感染を広げていくでしょう。
稲熱病にかかった苗や切り取った稲穂を放置すると、健康だった稲にも発病のリスクが生じてしまうのです。
稲熱病にかかるとどうなる?

(出典) photo-ac.com
稲熱病にかかった稲には、どのような症状が現れるのでしょうか?田んぼを持っている人は紹介する症状の有無をチェックして、稲熱病に感染していないか確かめましょう。
感染しているときの症状
『葉いもち』が発生すると、葉に灰白色や茶褐色で雲形の病斑が現れます。症状が進行すると葉がどんどん枯れてしまう点が特徴です。
『穂いもち』の場合、やもみに病斑が出ます。栄養不足が進むと、穂が徐々に白くなっていくのを確認できるでしょう。
『節いもち』では節の表面に小さな斑点が焦げたように現れ、やがて節全体が黒く変色していきます。力強く立っているはずの稲が力を失い、変色した部分が力なく折れるのは分かりやすい症状です。
『苗いもち』は主に、種子消毒が十分でなかった場合に発生します。発生初期は症状が目立ちにくいものの、進行とともに全体が灰色に変色する・しぼむ・立ち枯れるなどの問題が目に見えてくるでしょう。
お米への影響
稲熱病は時期や感染した部位にかかわらず、稲の生育に大きな影響を及ぼす病気です。
苗いもちや葉いもちにかかった場合の影響は、成長しきる前に枯れて新しい葉の成長が阻害されるという問題です。葉がうまく育たなければ、稲は収穫できるまでに育てません。
苗いもちや葉いもちにかかると穂いもちへと進行しやすくなるため、感染初期から注意が必要です。
また、収穫部分である穂に稲熱病が発生すれば、その先の穂は成長できなくなってしまいます。お米の品質が低下するばかりか、ほとんど実らなくなってしまう場合もあるのです。
稲熱病にかかった稲からは良質なお米を収穫できなくなります。収穫量や質を維持したいなら、稲熱病への対策は欠かせません。
稲熱病に効果的な予防と対策

(出典) photo-ac.com
お米の収穫量や品質をキープするには、稲熱病の被害を防ぐ取り組みが大切です。田んぼの稲を稲熱病から守るためにも、早期発見に効果的な方法と感染したときの対処法を知っておきましょう。
日常的に観察をする
湿度の高い日本の水田は、いもち菌が繁殖しやすい条件が整っています。気付いたら田んぼの大部分が稲熱病に冒されているという事態も珍しくありません。
早めに異常を発見して稲熱病を防ぐには、特に苗の時期を注意深く観察しましょう。種子消毒の不足で苗いもちや苗の葉いもちが発生すると、収穫に大きなダメージを与える穂いもちに発展する可能性が高まります。
苗の時期をすぎた後も発育の段階に合わせて、葉の様子はもちろん稲全体に細かく注意を向けるのがポイントです。枯れている部分はないか、病斑と思われる部分はないかなどを丁寧に調べます。
穂を付けたら穂の様子も小まめにチェックしましょう。近隣で稲熱病が発生した場合には、特に気を付けて観察する必要があります。
肥料や苗の間隔を適切にする
個人で稲作を始めたばかりの人は、「大きく育てたい」との気持ちから肥料を多めに使ってしまうケースも少なくありません。
しかし、窒素肥料のやりすぎは稲熱病が発生しやすくなる原因です。
規定の量を守って与えるように心掛けましょう。使う量やタイミングは肥料の種類によって異なるため、説明書きをしっかりと読んで施肥することが大切です。
また、田んぼの密度を上げすぎないためにも、苗を植えるときは十分な間隔を保ちましょう。あまりにも密集すると通気が悪くなり、いもち菌に限らず菌が発生しやすい状況を作ってしまいます。
かかってしまったら被害の拡大を防ぐ
稲熱病にかかってしまったら、感染の拡大を防ぐためにも早めの対処が必要です。
まずは、稲熱病に感染した稲を取り除きましょう。取り除いた稲は早めに焼却するか埋没するなどして、処分を徹底します。そのまま放置していると周囲の稲に伝染してしまうためです。
殺菌剤を散布するのも、感染後の被害拡大を抑える方法の一つです。ただ、人の口に入るお米に使うことを考えると、殺菌剤のラベルやメーカーの技術資料を読んで適切な用法・用量を守る必要があります。
紹介した対処法はいずれも、被害の拡大には効果があるものの根本的な治療ではありません。稲熱病の被害を受けないために重視したいのは『予防と早期の発見』です。
種子消毒を徹底した上で苗の時期から丁寧に見守り、本格的な感染につながらないように育てましょう。
構成/編集部