まだコロナ禍の収束は見えない。しかし世界はすでに変わり、新しいアイデアとビジネスチャンスにあふれている。コロナ時代に生まれたニューノーマルの先進事例を、15か国69例集めた『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者、原田曜平氏と小祝誉士夫氏によるオンラインセミナーの模様をお届けする。
「変われない日本」で変わるヒント
筆者の原田曜平氏は若者研究で知られるマーケティングアナリスト。「マイルドヤンキー」「伊達マスク」などの名付け親であり、Z世代の生態にも詳しい。小祝誉士夫氏は国内外のマーケティング及び商品開発などを行う株式会社TNCの代表取締役。その海外70か国100地域の在住日本人女性600人のリサーチャーのネットワークを活かし、世界各国にあふれるコロナ時代のビジネス、生活スタイル、アイデアを集めたのが『アフターコロナのニュービジネス大全』だ。
本書の冒頭、ニューノーマルに適応し、コロナの先を見ている世界に対し、「日本は根本的には何も変わっていない」と指摘する。変われない日本で変わるヒントを、各国の先進事例から導き出そうというのが本書の目的だという。
8月26日に開かれたオンラインセミナーでは、本書で扱うコンテンツの中から「Beyond DISTANCE」(距離を超える)、「Beyond LUXURY」 (贅沢の概念が変わる)、「Beyond LOCAL」(地域はネクストステージへ)の3本が取り上げられ、その最新事例も紹介された。コンテンツにすべてBeyondを冠しているが、これには変われない日本を越えていけ「Beyond JAPANESE」という著者たちの思いが込められている。
「Beyond DISTANCE」(距離を超える) 家の中で何ができるか
当セミナーがZoomで開かれていることが象徴するように、コロナ時代にオンライン化は一気に進んだ。
小祝 もっとも身近な事例ですよね。会議、セミナーがオンライン化し、今まさにVRを活用したヴァーチャルオフィス(1)の黎明期を迎えています。
(1)VRヘッドセットを使い、自身のデジタルアバターが仮想オフィスに出社する。他のアバター社員と打ち合わせができ、3Dペンを用いてプレゼンテーションもできる。
通信速度が5G、6Gになればいろんなものが格段にスムーズになるでしょう。自宅と世界がつながっていく。たとえば自宅にある鏡を使ってジムでエクスサイズするようにワークアウトするスマートミラージム(2)が人気を呼んでいます。オンラインによる診断、教育と家庭生活がどんどん変わっていく可能性があります。
(2)通信機能、測定機能をもったスマートミラーを使った自宅エクササイズサービス。「Mirror」「Tonal」「Tempo」など。健康志向の高いアメリカで先行している。
Meet MIRROR from getthemirror on Vimeo.
原田 コロナが収まったとしても、Zoomで味わった感覚は消えないと思います。日本は通勤時間が短くても30分はかかる国ですし、営業先への移動にも時間を取られていた。コロナが収束してもオンラインによる会議やジムは残るでしょう。
小祝 仕事や趣味の分野だけでなく、冠婚葬祭もヴァーチャル化(3)されてきました。毎週ルーティンのように行う礼拝もオンライン化できますよね。日本にとってこれはどういうことになるでしょう?
(3)冠婚葬祭用のプラットフォームが登場。たとえばスペインの無料アプリ「ETERNITY」は家族や友人が特設ページを開き、SNSを利用して知人にリンクを送信、故人へのメッセージや思い出の写真を投稿したり、知人同士でメッセージを送ったりすることができる。
原田 礼拝は密になる行為ですから、ここへの意識も高まっていくでしょうね。日本は3600万人の高齢者が住む高齢者大国です。コロナ前からなかなかお墓参りに行けないという人も多いでしょうから、ヴァーチャル礼拝は日本でも広まっていくでしょう。
司会 最新情報をいくつかご紹介します。
まず、イスラエルのスタートアップVidi Plusが開発した「3Dビジュアルに対応したビデオ会議プラットフォーム」。プレゼンしたい物を3Dで見せることができます。
VidiPlus Quick Guide from Arcreative Media on Vimeo.
原田 これはすごくいいですね。ヴァーチャルサービスのポイントは“リアル越え”だと思います。3Dビジュアルは明らかにリアル越えですよ。
司会 タイではLINEを利用した「お祈り代行サービス」が始まっています。
原田 日本のお参り需要にも合います。団塊世代がみな後期高齢者になる2025年問題がもう目の前に迫っています。私は高齢者の調査もしているのですが、コロナになって高齢者のYouTube利用が増えてきました。高齢者のデジタル化が進んできたので、それをビジネスチャンスにつなげていくのが令和の時代です。
小祝 高齢者のボリュームが大きい国ですから、自社のアセットを使って何ができるか、何を訴求していくかを考えるときですね。
司会 もうひとつ、イスラエルのスタートアップNONAGONが開発した「スマホと連携できる家庭用医療デバイス」でオンライン、さらにはオフラインでも診療が可能になっています。このデバイスは、コロナの診察に欠かせない酸素レベルの計測、心音、肺音、内耳の観察、体温測定ができます。
原田 オンライン診療はすでに日本でも始まっていて、私も利用しているのですが、今のところは結局、スマホで先生とお話するだけなんですよね。こうしたデバイスが普及すれば、オンライン診療中に検査ができて、その結果に基づいて診療できるようになりますね。
後編では変わる贅沢の概念、地域社会の変化を取り上げる。
『アフターコロナのニュービジネス大全』新しい生活様式×世界15か国の先進事例
著者:原田曜平、小祝誉士夫 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊
1870円
→その2につづく
取材・文/佐藤恵菜