あまりにも辛く苦しいとき、人は何かに頼りたくなるもの。
そんな時に優しい微笑みを浮かべながら手を差しのべてくれるのは、残念ながら善人ばかりではない。
スピリチュアル・ビジネスやエセ医学の恐ろしさを掘り下げるNetflixのドキュメンタリーシリーズ『ジョン・オブ・ゴッド:罪深き神の霊媒医』が、2021年8月25日より独占配信中。
ブラジルで製作されたドキュメンタリーであり、全4話で構成される。
あらすじ
1970年代後半からブラジルの小さな田舎町アバジアニアで心霊治療を始めた“ジョン・オブ・ゴッド”ことジョアン・デシェーラ・ジ・ファリア。
無菌室も麻酔も使わず、包丁やハサミで患者の体に傷をつけたり抱きしめたりする“治療”で、どんな不治の病もすぐに治せると豪語。
世界中から患者が殺到し、ブラジルでは聖人と崇められていた。
2012年にはアメリカの有名司会者オプラ・ウィンフリーの番組にも取り上げられ、一躍脚光を浴びた。
しかし2018年12月には200名以上の女性から性的虐待を告発され、逮捕された。
“ジョン・オブ・ゴッド”が犯した罪の概要、そして被害女性たちの戦いの記録を詳細に伝える。
見どころ
人助けをするフリをしながら、自分の欲望を満たすために他人をモノのように扱う。
金銭だけでなく性的にも搾取する様子は、骨の髄どころか魂まで貪り尽くそうとする怪物のようだ。
あからさまに金銭欲と性欲をむき出しにしている“聖人”なのに周りがその暴走を止められなかったのは、この怪しいビジネスから恩恵を受けている人間が多かったからだ。
野放しにしてきた“社会”も、共犯者と言っていいだろう。
心が弱っている時は、正常な判断力が機能しなくなっていたり抵抗する力すら残っていないことも少なくないため、客観的に見ると“合意している”ようにも見えるところが非常に厄介だ。
後から「しまった」と後悔しても、「本人が納得して選んだこと」「自業自得」などと被害者側も非難されやすいのが、この手の事件の難しいところ。
今まさに窮地に立たされ救いを求めている真っ最中の人に、過剰な自己責任を問うのは酷である。
公的な機関が規制を強化して、この手のビジネスの危険性を周知徹底させ続けるしかないのかもしれない。
しかし“人の悩みが金のなる木である”ということは、残念ながら不変の真理。
どれだけ上記のような対策をしても、人目や規制を巧みにすり抜けて、雨後の筍のように次々と“ジョン・オブ・ゴッド”のような存在は出てくるだろう。
自分自身が被害にあわないためには、「絶対に騙されないぞ」と意気込むよりも、自分の中にも依存的な弱さが眠っているかもしれないことを自覚する方が、より大切だと思った。
Netflixオリジナルシリーズ『ジョン・オブ・ゴッド:罪深き神の霊媒医』
独占配信中
参考:https://jp.reuters.com/article/cnews-us-brazil-healer-abuse-idJPKBN1OC0CS
文/吉野潤子