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『酉の市』は、関東をメインとして全国で『酉の日』に開かれているお祭りです。始まりや慣習・代表的な縁起物である熊手について知り、酉の市がどのような行事なのかを理解しましょう。熊手以外に酉の市で扱われる縁起物についても紹介します。
酉の市とは?
『酉の市(とりのいち)』は、鳥を信仰する神社やお寺で行われる年中行事の一つです。年の瀬が近い11月に行われ、毎年多くの人が訪れにぎわうことで有名です。
酉の市がいつ行われるお祭りなのか・由来・開催されている代表的な神社について見ていきましょう。
11月の「酉の日」に行われる行事
酉の市は、11月の『酉の日』に開催されます。『酉の日』とは、十二支を日付に当てはめたとき、10番目の干支(えと)『酉』に当たる日です。
酉の日に限らず、どの干支の日も12日ごとに巡ってきます。しかし、1年は365日と12で割り切れないため、酉の日の日付は年によって異なります。
毎月1回目の酉の日を『一の酉』・2回目を『二の酉』・3回目を『三の酉』と呼びます。例えば、11月2日が一の酉だった場合、二の酉は14日・三の酉は26日です。
ただし、1回目の酉の日が7日以降だった場合、11月には酉の日が2回しかありません。
酉の市は11月の酉の日に合わせて開催されるため、酉の日が2回しかない年は、酉の市も2回だけ行われます。
始まりは農民の収穫祭
酉の市は、現在の東京都足立区にある『大鷲(おおとり)神社』で、農民たちが秋の収穫を祝うため鳥を奉納したのが起源といわれています。
江戸時代には酉の市が盛んだったという記録が残されており、古くから日本の庶民に親しまれていたと分かるでしょう。
ただ、酉の市の始まりは神道や仏教という説もあります。
神道説では、日本武尊(やまとたけるのみこと)が亡くなった11月の酉の日に、お祭りが開かれるようになったとされます。
また、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東夷(とうい)征伐の際、戦勝のお礼参りをした日が11月の酉の日だったのが由来という説も有名です。
仏教説では、開運招福に御利益のある『鷲妙見大菩薩(わしみょうけんだいぼさつ)』の開帳日が由来とされます。一目見たいと集まった人のために立った門前市が、酉の市の始まりといわれているのです。
酉の市が有名な寺社
現在は関西や九州でも行われている酉の市も、もともとは関東のみで開かれていたお祭りです。東京都にある以下の神社は、『関東三大酉の市』として古くから知られています。
- 浅草『鷲(おおとり)神社』
- 新宿『花園神社』
- 府中市『大國魂(おおくにたま)神社』
中でも、浅草の鷲神社は酉の市発祥の神社といわれ、酉の市の当日0時に『一番太鼓』が鳴らされて盛大に始まります。開催時間は24時間です。
同じタイミングで鷲神社の隣にある『長國寺(ちょうこくじ)』の鷲妙見大菩薩が開帳されるため、鷲神社と合わせて参拝する人も多く見られます。
東京以外でも、愛知県名古屋市の『素盞男(すさのお)神社』や『長福寺(ちょうふくじ)』・静岡県浜松市にある『大安寺(だいさんじ)』などで行われる酉の市が有名です。
また、大阪府堺市の『大鳥大社(おおとりたいしゃ)』も大鳥信仰の総本社とされており、酉の市が盛大に行われます。
酉の市の代表的な縁起物は「熊手」
酉の市では豪華な熊手が売られています。縁起物である熊手には、どのような御利益があるのでしょうか?
お守りとして授与される熊手の意味や、粋に買う方法・飾り方も紹介します。
縁起物として売られているのはなぜ?
もともと農具として使用されていた熊手は、落ち葉や枯れ木などをかき集めるために使われていました。長い竹の棒に曲がった爪が付いた形状や用途から、『福や金銀をかき集める』という意味を持つ縁起物です。
『商売繁盛』に御利益があるとされてきた熊手は、やがて『おたふく』や『七福神』『松竹梅』や『大判小判』など、縁起の良いモチーフがプラスされるようになりました。
購入する熊手以外にも、参拝した神社では『熊手守り』が授与されます。
稲穂やお札で飾られた竹の熊手は通称『かっこめ』と呼ばれ、神棚や仏壇などに飾ることで『福をかき込むご利益がある』といわれています。
熊手の購入方法や飾り方
通常、縁起物を購入する際には値切るのは縁起が悪いとされます。ただし、酉の市で熊手を購入する場合に限っては、値切って買うことを『粋』と考える風習があるのです。
商売人らしい威勢の良さを楽しむために、店主から聞いた値段では買わずに値切りましょう。3段階に分けて値切り頃合いを見計らったら、一本締めで商談成立とします。
一連の流れを楽しんだ後は、値切った額を『祝儀』として渡すことで実質的に最初の値段で買うのがマナーです。
酉の市で初めて熊手を買うときは、小さなものを選びましょう。毎年少しずつ大きな熊手に買い換えていくことで、商売の運気が上がっていくといわれています。
購入した熊手は高く掲げながら持ち帰り、玄関やリビングの高い場所や神棚に飾って新しい1年を迎えます。
熊手以外の縁起物も紹介
酉の市で扱われる縁起物には、熊手以外の商品もあります。代表的な二つの縁起物を知っていると、酉の市への理解がより深まるはずです。
余さず使える山椒を使った「切山椒」
もともと酉の市では、餅米とアワを半分ずつ混ぜて作った『黄金餅(こがねもち)』が売られていました。黄色く小判に似た姿をしていることから、金運・財運に御利益があるとされていたためです。
しかし、現在は黄金餅の代わりに『切山椒(きりざんしょ)』という餅が売られています。上新粉に砂糖と山椒を加え、短冊形に整えたお菓子です。
山椒は花や実だけでなく、幹や樹皮まで余すことなく使える植物です。『捨てる部分がない』という特徴が有益さの象徴と考えられ、商売繁盛につながる縁起物として扱われています。
出世の意味がある「頭の芋」
酉の市では直径10cmを超える大きな芋が売られています。里芋の一種である『八頭(やつがしら)』という芋で、『頭の芋(とうのいも)』とも呼ばれています。
名前に『頭』の字が付くことから出世を象徴するとされる縁起物で、一つの実から多くの芽が出る様を、子宝に恵まれるという意味でも扱われてきました。
ただ、近年では頭の芋を販売する屋台は減少しているのが現状です。酉の市で頭の芋を見かける機会があれば、積極的に買ってみるとよいでしょう。
構成/編集部