さまざまなコロナ変異株にも有効な次世代ワクチン開発に希望の光
今後生じ得る新型コロナウイルスの変異株や、コロナウイルスによる新たな感染症に対して有効な、広域スペクトラムを持つ次世代ワクチンが、将来、開発されるかもしれない。
そんな希望を抱かせる研究結果が、SingHealth Duke-NUS Global Health Institute(シンガポール)のLin-Fa Wang氏らにより、「The New England Journal of Medicine」に8月18日発表された。
新型コロナウイルスは、ウイルス学的には、コロナウイルス科のオルトコロナウイルス亜科に分類される。
オルトコロナウイルス亜科はさらに、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタコロナウイルスの4属で構成される。新型コロナウイルスや2003年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のSARSコロナウイルスなどは、ベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属に属する。
サルベコウイルス亜属は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を介してヒトの細胞に侵入することが分かっている。この亜属には他にも、コウモリやセンザンコウ、ハクビシンなどの動物に感染するウイルスも含まれる。
明確な感染経路は明らかではないが、こうしたウイルスが動物からヒトに感染して、新たな感染症のパンデミックを引き起こす可能性は否定できない。
Wang氏らは今回、SARSの感染歴のある人では、サルベコウイルス亜属全般を中和してACE2とウイルスとの相互作用を遮断できる抗体を誘導できるのではないかとの仮説を立て、その可能性を探った。
そのために同氏らは、SARSの感染歴がある10人、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の回復者10人、SARS感染歴がありCOVID-19ワクチンを接種した8人、COVID-19回復者で同ワクチンを接種した10人、および同ワクチンを接種した健常者10人から成る血清パネルを集め、各群の免疫応答について比較した。
その結果、SARS感染歴がある群では、COVID-19ワクチンの接種前からSARSコロナウイルスに対する中和抗体が検出されたが、新型コロナウイルスに対する中和抗体は全くないか、あっても低レベルだった。
ところが、SARS感染歴のある人がCOVID-19ワクチンを2回接種した後には、SARSコロナウイルスと新型コロナウイルスの両方に対して高レベルの中和抗体が発現することが確認された。
次に、10種類のサルベコウイルス亜属に対する各群の中和能力を評価した。その結果、SARS感染歴がありCOVID-19ワクチンを2回接種した群のみが、全てのウイルスに対する防御効果を示すことが判明した。
Wang氏は、「この研究結果は、次世代ワクチン開発のための新たな戦略を示すものだ。もし開発に成功すれば、現在のCOVID-19パンデミックのコントロールに役立つだけでなく、他のコロナウイルス科のウイルスが引き起こすかもしれない、将来のパンデミックのリスクを防いだり軽減したりする可能性もある」と述べている。
一方、米メイヨー・クリニックのワクチン研究グループの創設者であるGregory Poland氏も今回の研究結果を、「興味深く、また、感銘も受けた」と高評価する。
その一方で同氏は、「今回の研究は小規模なものだった。この新しい考え方に基づくワクチンの製造に至るまでには、まだまだ多くの研究が必要だろう」との見方を示している。(HealthDay News 2021年8月23日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2108453
Press Release
https://www.duke-nus.edu.sg/allnews/media-releases/new-study-boosts-hopes-for-a-broad-vaccine
構成/DIME編集部