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SDGsの実現を目標に作られた「木のストロー」と「草のストロー」の開発秘話

2021.09.07

身近なカフェ店舗では、プラスチック製ストローが姿を消し、紙製ストローが使われるようになってきた。しかしプラストローの代替は紙だけではない。最近では、木や草のストローを導入する店舗も出てきている。果たして、木や草のストローはどんな材料で、どのように作られるのか。またそのストロー開発ストーリーとは?

今回は、SDGsを目標に据えたストローとして、鳥取県智頭町の木を使った木のストローと、ベトナムの植物を使った草のストロー、それぞれの製作工程や背景、そしてそこにある思いを紹介する。

1.鳥取県智頭町 木のストロー

鳥取県の智頭(ちづ)町は、古くから林業で栄えてきた歴史があり、杉の町と呼ばれる。智頭杉は、建築材としてだけでなく、木目が均等に詰まった木質や、桜色に染まった心材など、その美しさは、内装材としても広く利用されており、高い評価を受けている。まっすぐに育ち、加工がしやすいという特徴もある。

今回紹介するのは、その智頭杉を使って作った「木のストロー」だ。

智頭杉の木のストローを手がけるのは、木製品の開発や販売を行う東京の会社、株式会社クレコ・ラボ。同社は2020年に智頭町の廃校、旧山形小学校にサテライトオフィス兼製造所を開設し、「株式会社クレコ・ラボ 智頭研究所」として木のストロー製作を行っている。

鳥取県はSDGsの推進に力を入れており、株式会社ブランド総合研究所が2021年6月に結果を公表した「都道府県SDGs 調査2021」のSDGsの取組評価に係る都道府県ランキングにおいて、全国1位となったほど。官民連携の「とっとりSDGsネットワーク」や、SDGsに取り組む企業・団体・個人を登録する「とっとりSDGsパートナー制度」などを通じ、「オール鳥取」でSDGsへの取り組みを進めている。クレコ・ラボも、「とっとりSDGsパートナー」企業の一つだ。

●智頭町の「木のストロー」

現在、智頭町の木のストローは、クレコ・ラボの公式オンラインショップで購入できるほか、鳥取県内の「バルコスコーヒー」「古民家カフェ和佳」、智頭町観光協会で購入が可能だ。

「鳥取県の智頭杉で作った木のストロー」13.5cm(3本入)550円(税込)/16cm(8本入り)1,100円(税込)/20cm(10本入)1,650円(税込) 

長さと本数が異なる、13.5cm(3本入)、16cm(8本入)、20cm(10本入)の3種類がある。使用後は、洗って食器乾燥機で十分に乾燥させることで、4~5回程度使用することができるが、飲食店などでは使い回さずに1回のみの使用を推奨している。

●木のストローの製造工程

木のストローはどのように作られているのか。製造工程を、クレコ・ラボ智頭研究所の製造マネージャー、原田洸氏に聞いた。

クレコ・ラボ智頭研究所 製造マネージャー 原田洸氏

「木のストローは大きく分けて以下の3つの工程を経て製造しております」(原田氏)

1.国産木材を0.15mm程度の極薄にスライス

「特殊な機械を使用して木材を極薄にスライス状に加工します。スライスした木を『木のシート』と呼びます」(原田氏)

2.木のシートをストローサイズにカット

「最終的に製造するストローの大きさに合わせて、人力で裁断機を使用してカットします。智頭研究所ではこの作業を担当しています」(原田氏)

3.カットした木のシートを巻いてストローに

「ストローサイズにカットした木のシートを、手作業でストロー状に巻いていきます。接着には食用のりを利用します」(原田氏)

●智頭杉の特性

クレコ・ラボの公式オンラインショップでは、智頭杉の製品だけでなく、さまざまな地方の木のストローが販売されている。その中でも智頭杉はどのような特性があるのだろうか。原田氏は次のように答える。

「四季を通じて寒暖の差が激しい気候風土の智頭町で育った智頭杉は、木材として比較的柔らかいので、比較的加工がしやすいように感じます。また、木目がとてもきれいで、年輪が緻密で木目が均等に詰まっているので、比較的反りにくいです。

智頭町の芦津にある特別保護地区には天然林の森があります。智頭杉はその天然林が起源となっていることから、他地域から移植されてきた人工林とは異なり、その土地の土壌になじんだ杉の人工林が形成されているという歴史的な背景があり、そのことが質の高い木材を生み出す要因となっています。

なお、今年の6月に智頭町民の方々に向けて、木のストロー作りイベントを行った際は計6種類の木材(山武杉、京都杉、小松杉、愛媛ひのき、智頭杉、秋田杉)を使いました。町民の方々は、智頭杉が一番ストロー状に巻きやすいとおっしゃっていました」(原田氏)

●SDGsへの取り組み

木のストローに関して、SDGsの目標のうち、「15.陸の豊かさも守ろう」「14.海の豊かさを守ろう」の2つを掲げている。

クレコ・ラボ代表の興津世禄(おきつ・せいろく)氏によると、日本の森林の4割は人工林であり、人工林は人の手によって管理をしなければ荒廃してしまうという。そのため、適切な間伐が必要であることや、森林の生育や森に生きる生物のためにも、人の手によって管理することが地球環境保護にもつながるという。

クレコ・ラボ代表 興津世禄氏

「木のストローは、初めにホテルや大企業で採用されたことで、脱プラ文脈など環境に配慮した製品として広く認知され、問い合わせも増えました。今は、日本の森林保護に関してあまり知られていない、森林サイクルに合わせた管理や、木を使うことで森林サイクルを経済的にもまわしていくということを、木のストローなどプロダクトを通して知っていただきたいと思っています」(興津氏)

各地域で地元の森林に興味を持ってもらいたいという考えから、日本各地の間伐材、間伐材を含む国産材を使用してストローを制作しているという。

●製造所に廃校を選んだ理由

サテライトオフィス兼製造所である旧山形小学校は、昭和17年建造の木造校舎で、国の登録有形文化財にもなっており、智頭町を象徴するようなスポットだ。その教室と宿直室だった場所にオフィスを設け、製造の拠点としたクレコ・ラボ。廃校を選んだ理由とは? 原田氏は次のように答える。

「木造校舎の雰囲気が製品のイメージにマッチし、製品のブランディングに役立つと考えています。山形小学校は廃校後、既に約9年経っています。一方で、智頭町特色のまちづくり団体である地区振興協議会の事務所として活用したり、第三セクターの林業会社、智頭の山人塾、木材を加工して手芸品を製造するあすなろ手芸店など、森に関わるさまざまな団体が入居している点も非常に魅力的です。

また、築78年以上とは思えないほどきれいに保存されており、地元の人々に大切に扱われてきた特別な場所とういうのも、理由の一つです。こういうところで智頭の木材を活用して商品を作っているというストーリーが大事だと考えています」(原田氏)

●ワークショップ開催などを通した地元住民との交流も

クレコ・ラボは、中学校や高校、図書館などにおいて、地域の学生や子どもに向けてワークショップを開催している。木の加工体験とともに、適切な森林サイクルを保つ管理や消費の話を含め、正しい知識と理解を持ってもらう意図がある。

ちづ図書館における木のストロー作り体験の様子

これまで、ちづ図書館での木のストロー作り体験、智頭農林高校での木のストロー作り&森林教育授業、旧山形小学校での木のストロー作りイベント、森を知ってもらうきっかけづくりとしてのグランピングイベントなどを開催してきた。

ちづ図書館におけるワークショップの様子

地元住民や子どもたちとの交流の中で、森林や木のストローについて、どのような声が挙がっているのだろうか。

「地元住民からは『木のストローという今までにないアイデアで、智頭杉の魅力を町外に発信してくださるのは嬉しい!』『木のストローづくりを通して、地元の山の魅力に気づいた』といった声、子どもたちからは『自分だけの木のストローを作れるのは嬉しい』『普段山に囲まれているけど、森のことについて考えたことなかった。このイベントがそのきっかけになった』といった声を聞きます。また、地元で雇用したメンバーからは『木造校舎の中で、木に関した仕事ができるのは精神的にいい』といった声もいただいております」(原田氏)

今後は、製造所を公開し、作業を見られるようにするほか、校庭を使ったキャンプイベントや、鳥取自慢の星空を見る会、今人気のサウナなど、地域に即した日本の林業文化とともに環境を理解するきっかけになるイベントを計画中だという。

●鳥取県からのコメント

鳥取県のSDGs担当者から、木のストローに関してメッセージをもらった。

「鳥取県には、鳥取砂丘をはじめとした山陰海岸ジオパークや、三徳山から大山に至る国立公園など、守り継がれてきた美しく豊かな自然があり、二十世紀梨などの農林水産物が充実しています。また、活発なボランティア活動や支え愛活動など、地域で育まれてきた人と人の絆があり、そうした絆で子育て世代を支え、家庭・地域・学校・行政などが連携した全国に誇れる子育て環境が整っています。さらに、県内のどこに居住しても通勤・通学時間が短く、家族との団らんや余暇活動など、自分らしく幸せな時間を過ごせる職住近接型の環境があります。1人ひとりの顔が見えるという本県の強みを活かしながら、オール鳥取のパートナーシップで誰一人取り残さない持続可能な地域社会(=SDGs)を目指しています。

クレコ・ラボの『木のストロー』を通じて、本県のSDGsの取り組みが全国に知っていただけるのは非常に喜ばしいことです。県としても、多様なステークホルダーによるSDGsの取り組みの輪を拡げていきたいと考えています」(鳥取県新時代・SDGs推進課担当者)

2.ベトナム・ホーチミン 草のストロー

「HAYAMIの草ストロー」は、ベトナム・ホーチミン郊外の農村で栽培・製造されている、文字通り、草が原材料のストローだ。日本の企業、合同会社HAYAMIが加工・検査を行い、輸入販売している。

●HAYAMIの草ストローの特徴

HAYAMIの草ストローは、国内のネットショップで一般販売されているほか、日本全国各地のオーガニックカフェやナチュラルカフェなどで出会うことができる。

草ストローの長さは20cmと13cmの2種類で、口径サイズは4mm~7mm。植物の茎をそのままストローにしていることから、口径も原料の茎によって異なる。

「HAYAMIの草ストロー」20cm 1箱 20本入 400円(税込)/13cm 1箱20本入 280円(税込)

使い方は従来のストローと同じだが、使用前は乾燥していて、最初はパリッとするが、使用しているとだんだん耐久性が増し、割れにくくなるという。

・原材料は「レピロニア」

草ストローの原材料は、東南アジアに生息するカヤツリグサ科の「レピロニア」と呼ばれる植物で、ベトナム・ホーチミン郊外の農村地帯で栽培されているものだ。

・土に還るストロー

草ストローは、環境に優しい製品。使い終わったら生ごみと一緒に捨てることが可能だ。生分解性プラスチックと異なり、特別な装置を必要とせず、自然の力だけで土に還ることができるため、草ストローを使用することで、生活の中で循環サイクルを構築することができる。

・発展途上国の雇用創出にも貢献

栽培地の様子

草ストローの原料であるレピロニアという植物は、本来、編み物の製造に使われていた。HAYAMIは現地ホーチミンの農村支援NGO団体VIRIと協業で、欠陥品となった草ストローを再製品化するプロジェクトを立ち上げた。製造は現地で行われているため、雇用が減少する現地の農村や印刷会社、若者の新たな雇用創出にもつながっているという。

●大学生が起業、120店舗に展開中

実は、HAYAMIは、現役農大生によって立ち上がった企業だ。2020年5月、東京農業大学の学生である大久保夏斗氏が、実兄である大久保迅太氏、ベトナム人の友人MINH(ミン)HOANG氏と共に立ち上げた。

HAYAMI CEO 大久保夏斗氏

現在、CEOを務める大久保夏斗氏によれば、当初は起業する予定はなかったものの、草ストローの普及をしていくうちに、顧客にとって法人との取引のほうが安心できると感じ、法人化に至ったという。

大久保兄弟は共にバックパッカーで、スペイン、メキシコなどさまざまな国を巡っていた。2019年に兄の迅太氏がバックパック中にミン氏と出逢い、草ストローの話を聞き、帰国後にそれを夏斗氏に話したことが、草ストローを手がけるきっかけとなった。

少し前、ウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さっている動画が世界的に話題となったが、当時、中学生だった夏斗氏はそれを見て衝撃を受け、「自分に何かできることはないか」と思っていたそうだ。そんな思いを抱えている中、草ストローとの出逢いは、自身が通う大学の学科とも親和性が高いこともあって、夏斗氏を奮起させた。現在も大学に通いながらプロジェクトを進めている。

はじめは理解者が得られず苦労したが、あきらめず普及活動を続けたところ、販売から8ヶ月で導入店舗数が全国で120店舗を超えるまでとなった。

●安全性・品質へのこだわり

ホーチミンで製造されている草ストローは、日本市場用に同社が品質基準を作成し、選別を行っている。加工は、切断や洗浄、殺菌など基本的な加工処理のみという。

「ベトナムと日本では、衛生面や品質の基準が大きく異なります。日本のお客様に安心してご利用していただくために、現地での衛生基準マニュアルの作成や品質基準の作成を行いました。また、コストがかかるものの衛生検査や農薬検査を行い、公式な成績書を用意することで、安心して利用できる商品作りを心掛けました」(大久保夏斗氏)

●「さがみはらSDGsパートナー」に登録

2020年11月、HAYAMIは、拠点である神奈川県相模原市の「さがみはらSDGsパートナー」に登録された。同制度は、SDGs達成に向けて相模原市が企業や団体と一緒に取り組むことを目的としたものだ。

HAYAMIは草ストローにより、SDGsの目標のうち、「1.貧困をなくそう」「12.つくる責任 つかう責任」「14.海の豊かさを守ろう」の3つに取り組んでいる。

●CEO大久保夏斗氏へのインタビュー

その他、夏斗氏にインタビューを行った内容を紹介する。

―草のストローを製造しはじめてから、日本や現地の人々の意識の変化は感じられますか?

「販売当初は弊社から営業することが多かったのですが、今ではお客様からのお問い合わせがほとんどで、日本社会全体として意識は高まっていると思います。導入店舗さまでも、草ストローというナチュラルな見た目からダイレクトに環境保護のメッセージが伝わり、会話のきっかけやブランディングにもつながり、地域の周りのお店に紹介してくれるケースが増えています」(大久保夏斗氏)

―草のストローは何回くらい使えますか?

「個人であれば、4回程度使用できますが、衛生面から推奨はしておりません」(大久保夏斗氏)

―草のストローを使うおすすめの飲料は?

「抹茶やお茶など緑色の飲み物が草ストローとマッチしておすすめです。最近、日本茶や抹茶カフェでの導入店舗さんも増えております」(大久保夏斗氏)

導入店舗一覧

―使用しながら香りは感じられますか?

「意識をして嗅げばほのかに草の香りを感じますが、飲料の味を邪魔するほどの匂いでないです」(大久保夏斗氏)

木のストローも草のストローも、環境に優しい、循環型の社会がリアルに想像できる期待の高まる製品だ。どちらもネットショップから購入できるので、自ら利用するのも良いが、人にプレゼントしてSDGsへの意識の啓発活動をするのも良いかもしれない。

【参考】
クレコ・ラボ
「鳥取県の智頭杉で作った木のストロー」購入ページ
HAYAMI
「HAYAMIの草ストロー」購入ページ

取材・文/石原亜香利

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