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必要なら堂々と履けばいい!?大人のオムツ着用記

2021.09.01

“大人のオムツ着用記”を書くことにした。まずは何故こんなテーマなのか、説明しよう。

 僕はリタイアする61歳までの会社人生の大半を、雑誌編集畑で過ごした。そのほとんどが情報誌とコミック誌編集部だ。この手の雑誌での企画の源は主に“思いつき”と個人的な“趣味嗜好”で、いわゆる“仕事術”とはほど遠い。そのせいか、ビジネス書や新書の類はまず読まない。あの大ベストセラー新書『バカの壁』は読んだものの、ピンと来なかった。

 一方で小説は読む。とはいえ日本の現代小説ばかりで翻訳物や古典はほぼ皆無、しかも多くて月に4冊ほどと、読書家の末端にも位置しない。だが時間が有り余るリタイアの日々、人生の楽しみを5つ挙げるなら、釣り、ロック、お酒、旅行に並んで、読書はベスト5に入る。

 一番好きな作家は、奥田英朗氏だ。以下に挙げる作家も好きだが読むのは文庫になってからで、新刊が出るやすぐに買うのは奥田作品だけだ。『オリンピックの身代金』や『罪の轍』のような社会派から、直木賞作品『空中ブランコ』をはじめとするエンタメ短編・長編、さらには私的なエッセイまで、何を読んでも引き込まれる。奥田氏の出身は岐阜で僕は栃木とどちらも“田舎”、そして年齢は1つ違い、エッセイ『田舎でロックンロール』の主人公(=奥田氏)に、栃木のロック少年だった僕の青春がかぶりまくった。

 デビュー作にして江戸川乱歩賞受賞作『放課後』をリアルタイム読書、以降ずっと読み続けている東野圭吾氏、伊坂幸太郎氏、誉田哲也氏、桐野夏生氏、貫井徳郎氏、垣根涼介氏、柴田哲孝氏、最近ハマってそろそろ全作読破も近い柚木麻子氏、他にもまだまだ好きな作家がいる。“大人のオムツ着用記”のきっかけとなった林真理子氏もその一人だ。

 林作品もデビュー作『ルンルンを買っておうちへ帰ろう』はリアルタイム読書、以降も相当数のエンタメ作品を読んでいる。重い社会派作品を読んだ後は、僕の“凡脳”が“ブランド”“高級ワイン”“不倫”“大金持ち”など、“男の夢系”でストーリー展開する林作品を無性に欲するのだ。中でも一番好きな作品は『コスメティックス』だったが、先月それをズドンと超える作品に出会ってしまった。

 『我らがパラダイス』/林真理子(集英社)。電子でサクサクと読み進めたので300ページくらいと思っていたが、文庫本を手に入れたら600ページ近い長編だった。

 軽快にスイスイ読めるものの、“なぜこれが本屋大賞?”と訝り続け、途中で僕のような60代おじさん(おじいさん)は読者対象ではないと気づいた『かがみの孤城』読了後、我が“凡脳”は林作品を欲した。未読作が数あるのでどれを読もうかと電子書店を覗くと、広尾の高級介護付きマンション「セブンスター・ハウス」が舞台となる『我らがパラダイス』に惹かれた。なにせ“入居費8000万円をやすやすと支払い、ホテル並みの施設で悠々と暮らす豊かな老人たち”が登場する。僕の大好きな“男の憧れ系”林ワールドを楽しめそうだし、60代おじさん(おじいさん)は読者対象ド真ん中のはずだ。

 読み始めるや、すぐにスマホ(電子書籍)に引き込まれる。だが期待に反して(?)、“ブランド”“高級ワイン”“不倫”“大金持ち”のうち“大金持ち”は大きな柱ながら、他は小柱にもならない程度だ。

 “老い”と“介護”を軸に物語は展開する。テンポは軽快ながら、“お漏らし”と“オムツ”が僕の心にズドンズドンと重く響く。82歳ながら大卒で本好きのインテリだった認知症なりかけの庶民老人、「セブンスター・ハウス」に住むお洒落な元男性ファッション誌編集長、この2人のお漏らしシーンが描かれる。特にオムツを勧める娘に対して老人が、「ふざけるな。こんな赤ん坊みたいなもの誰がするんだよ」(文庫本P167)と抵抗するシーン、“いつかはお漏らし”予備軍の僕には衝撃的だった。

 大人のオムツといえば数年前、チェリッシュが出て来るテレビCMがよく流れていた。薄いのでスラックスの下に履いてもかさばらず、見た目の違和感もない。だから夫婦で散歩に出かける時に2人とも着用する、こんな内容だったと記憶する。明るく爽やかなこのCMを見て、やがては自分もオムツは当然と思った。それだけに老人のオムツへの抵抗は驚きだった。

 果たしてオムツのはき心地は? いや、それ以前に抵抗感は生じないのか? いざその時に家族を困らせては申し訳ない。ならば、今のうちに試してみよう、と思い至った。64歳オムツ不要の今なら、抵抗感はない。いやあるが、原稿を書くためと割り切れる。オムツをしてみる。してみて外を歩いてみる。そして思い切ってしてみる。いや、やがては外でかもしれないが、今は家でいい。

「アテント下着爽快プラス超うす型パンツ」のパッケージ。

 というわけで、大人のオムツを購入した。通販サイトを検索すると30〜40枚入り1セットが通常のようだが、そんなにたくさんは不要だ。幸い大王製紙の「アテント下着爽快プラス超うす型パンツ」2枚入×2パック440円を見つけた。サイズはL〜LLでウエスト80〜125cm対応。男女共用、一人でも外出できる方、とある。吸収回数の目安は約2回分で、1回の排尿量150mlが前提となる。医療費控除対象品という表示に、なるほどと思った。

オムツの前側。

オムツの後ろ側。

 では、オムツデビューだ。パッケージの謳い文句に“驚きのはき心地で気分すっきり”とある。はいてみると(画像は自重)ウエスト部はお臍くらいまであり、昭和30年代、小学生の頃の水泳パンツを思い出した。はき心地には全く違和感がない。オムツの上にはくアウターは、せっかくだから僕の持つ最も高級なジーンズ、ヤコブ・コーエンにする。日本で、いやイタリアでも、ヤコブの下にオムツをはくのは僕が初めてだろう。下の画像のようにオムツだろうとボクサーショーツだろうと、見た目の違いはわからない。ヤコブは少しきつ目だが、ボクサーショーツに比べてオムツではゴワゴワ嵩張るということもない。

下はボクサーショーツ。

下はオムツ。

 というわけで、ヤコブ&オムツでスーパーに出かける。絶対にオムツおじさんには見えないと確信しているし、歩きながらのはき心地に違和感がないので、道半ばにしてオムツの存在を忘れてしまった。いざとなった時、僕はオムツに抵抗感を持たないと断言できる。

 さて、いよいよこの原稿のメイン・イベントだ。はたして“し心地”は? 本来なら止むに止まれず、あるいは知らないうちにしてしまうものだが、僕はあえてする。一線を超えるのだ。するからには思い切りしようと、水分をたくさんとって可能な限り溜め込んだ。

 そろそろ限界、清水の舞台から飛び降りる時が来た。舞台は念のためにと、お風呂場にする。さあ! 睾丸からお尻にかけてじんわりと温かくなるにつれ、尿意は去って行く。オムツの底に溜まった尿は、程なく吸水材に吸われるのだろう。吸収回数は1回150mlとして約2回分とあるから、吸水後のはき心地も書こう。無事吸水となれば、日課たるストレッチくらいは可能だろうか。

吸収回数は1回150mlとして約2回分。

 パソコン前の椅子に座り現在進行形で原稿を書こうとするが、何かおかしい。既に2分くらい経ったのに、オムツ底の尿の吸われた感がない。中腰でキーボードを叩きながら訝っていると、じわじわとジーンズに染み込んで来る液体が???!!! 慌ててお風呂に戻り、ジーンズを、オムツを脱ぐ。と、オムツの底に黄色い液体がたっぷりと溜まっているではないか?????????????

 何を間違えたのだろう。このオムツは、お漏らしではなく尿漏れ対応レベルか? ネットで調べると、膀胱は通常100~150mlで最初の尿意を感じ我慢はできるが、250~300mlとなると我慢できなくなる、という医師の書き込みがあった。そう、オムツのせいではなく、僕が我慢し過ぎて溜め込み過ぎたのだ。なんたる不覚。こうなったら、もはや後に引けない。通常の尿意で再トライだ。

 2度目にして、オムツにも排尿にも抵抗はない。ただし今度は尿意を催すやお風呂に行き、オムツだけになって排尿した。やはり睾丸が温かくなるが、お尻までには至らない。念のためにとしばらくお風呂で様子を見るも、オムツから溢れてくる気配はない。温かさも去り、気になることは何もない。いや少々股間が重いが、これは当然か……。ステレッチくらいはできそうだ。

 パソコンを前に椅子に座るが、問題はない。睾丸の下に、もう一段の重みを感じるだけだ。原稿を書きつつ夜の8時、ビールを飲んでいるので、尿意が生じるのも早い。再びお風呂に赴き排尿。股間に大きな負荷がかかってくる。悪夢再来かと恐る恐るオムツを下ろすと、液体はないし匂いもしない。股間を触ると、サラサラだった。とはいえシャワーでその部分を洗い流したが。結論。無駄な我慢さえしなければ、オムツの効果は絶大なり。

 こんな原稿を書いてと眉をひそめられているかもしれないが、この経験で僕の老後は明るくなった、と思うことにする。必要となれば、堂々と(?)すればいいのだ。とはいえこんな文章で、オムツ予備軍の共鳴を得られるとは思っていない。だから『我らがパラダイス』を読んで欲しい。少なくとも、僕がこんなトライをした気持ちはわかっていただけると思う。

文/斎藤好一(元DIME編集長)

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