
勝負事でもビジネスでも、むやみに相手と争わずに”戦略”で勝つのは理想的な戦法と言える。「無手勝流」はそんなやり方を表す四字熟語だ。普段、見聞きする機会は少ない言葉かもしれないが、ゲームや漫画の中で使われたり、芋焼酎の商品名としても採用されたりするなど、意外と使われている場面は多い。
そこで、本記事では無手勝流の意味や使い方を詳しく解説していく。意味を理解しておけばビジネスシーンでも活用できる言葉なので、この機会にぜひ覚えておこう。
「無手勝流」の意味と由来
はじめに、「無手勝流」の意味と言葉の由来を解説する。無手勝流には主に2つの意味があるため、どちらもしっかり覚えておきたい。
意味は「戦わずに策略で相手に勝つこと」「自己流のやり方」
無手勝流の読み方は「むてかつりゅう」。戦わずに策略で相手に勝つことと、その方法を指す四字熟語だ。「無手」には武器や道具を持たないという意味があり、「無手で勝つ流儀」の意からこの言葉が生まれた。
また、無手勝流には誰かに教えてもらうわけではなく自分勝手にやること、自己流という意味もある。
語源は戦国時代の剣豪、塚原卜伝の言葉
無手勝流は、戦国時代の剣豪である塚原卜伝(つかはらぼくでん)の言葉が語源と言われる。ある日、渡し舟に乗っていた塚原卜伝は、武者修行者から真剣勝負を挑まれる。卜伝は先に相手を州に上がらせると、竿で船を州から突き離した。そして、戦いを挑んできた相手に向かって「戦わずして勝つ、これが無手勝流だ」と言葉を残しそのまま去って行った。という故事が残っている。
剣術に長けながらも無益な争いを避け、武器を使わずに策略で相手に勝つという卜伝の教えは、その後現在に至るまで語り継がれている。
「無手勝流」の使い方と例文
次に、無手勝流の使用シーンと例文を見ていこう。言葉の持つニュアンスが正しく理解できれば、さまざまな場面で応用できるはず。ぜひ使い方をマスターしよう。
使用シーン
先に紹介した通り、無手勝流は元々戦いの場面から生まれた言葉。しかし、現代では勝負事に限らず、ビジネスシーンでも使われることがある。仕事で成功を収めるために入念に計画を立てた時や、試行錯誤しながらも自分なりの進め方でプロジェクトを成し遂げた時などは、「無手勝流」の使用シーンとして当てはまるだろう。
「無手勝流」を使った例文
より具体的に使い方をイメージできるよう、無手勝流を使った例文をいくつか紹介する。「戦略で勝つこと」「自己流のやり方」の2通りの意味について意識しながら見てほしい。
「闇雲に戦って体力を消耗してはいけない。ここは無手勝流で、相手の集中力が落ちた隙を狙っていこう」
「穏やかそうに見える彼だが、無手勝流でここまでのし上がってきた。ある意味一番恐ろしい人物だ」
「無手勝流で始めた趣味の写真だが、色彩と構図が斬新と評価されてコンクールで入賞できた」
「無手勝流もいいが、一度しっかり基礎から習うのがいいんじゃないか?」
類語や英語表現は?
最後に、無手勝流の類語や英語表現を紹介する。ニュアンスの違いや使用シーンについてもチェックしながら、使い分けできるようにしておきたい。
類語
まず、無手勝流の類語を紹介する。似た意味を持つ言葉はいくつかあるが、ここではそのうち3つを取り上げたい。
・徒手空拳(としゅくうけん)
「徒手」と「空拳」はともに素手を表し、この2つの言葉が合わさった四字熟語の徒手空拳は「手に何も持たないこと」、また「何の後ろ盾もなく、身一つで立ち向かうこと」を表す。ただし、無手勝流と異なり、策略で相手に勝つという意味はない。自分自身の力だけで何かに挑もうとする、勇ましさを表現したい時にはぴったりの言葉だ。
・我流(がりゅう)
「我流」は正統なやり方や誰かに習った方法ではない、自分勝手なやり方を意味する言葉。我流には、本来の型や基本を無視しているというニュアンスが含まれる。
第三者の立場から「あの人のやり方は我流だ」と言う場合、ややネガティブな印象を与えるため使い方には少し注意が必要だ。反対に、例えば誰かに特技を誉められた時、その特技が独学で身に着けたものであれば「我流です」と返すことで謙遜の感情を伝えることができる。
・型破り(かたやぶり)
「型破り」は一般的、常識的な型にはまらないこと、やり方を表す言葉。普通の人には到底思いつかないような風変わりなアイデアを持つ人や、常識外れな行動に出る人のことは「型破りな人」と表現する。使う場面や前後の文脈によって誉め言葉になることもあれば、呆れた様子を表すこともある。
英語表現
英語には、無手勝流と同様の意味を持つことわざや慣用句が存在しない。そのため、戦わずに勝つことを英語で表現する場合は「winning without fighting」や「victory without a battle」などとするのが良いだろう。また、自己流を英語で表す時には「one’s own style」「one’s own way」という表現がよく使われる。
文/oki