よかれと思って、自分の子どもによく使う言葉。例えば、「勉強しなさい」「早くしなさい」といった注意や「あなたのためを思って言っているの」のような忠告。
親視点では何気ない一言だが、それが子どもの可能性の芽をつんでいると知ったら、どうだろうか?
ありふれた言葉が子どもへの「呪い」に
「ごくありふれた言葉が、大事な人の未来を奪っているかもしれないです」と指摘するのは、「子別指導」で定評ある学習塾「坪田塾」塾長の坪田信貴さんだ。坪田さんが言う「ごくありふれた言葉」には、冒頭で挙げた「勉強しなさい」のような常套句も含まれる。ほかには、「将来なりたいものはないの?」「何回言ったらわかるの」など数多い。
坪田さんは著書『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』(SBクリエイティブ)で、そうした言葉を「呪い」と呼び、かえって子どもの自信ややる気を失わせるものだとしている。
では、わが子に対してどんな言葉をかけてあげればよいのか? 坪田さんの唱えるポイントをふまえて幾つか紹介しよう。
「勉強しなさい」ではやる気を失う
「勉強しなさい」―この声がけがダメな理由として坪田さんは、子育て中の妻のもとへ単身赴任の夫が帰ってきたシチュエーションをたとえに説明する。久しぶりに帰宅した夫へ、妻が子育ての大変さを訴えたとき、夫が「とりあえず頑張れ」と答えたら相手はどう感じるか? 反発は必至だろう。
「勉強しなさい」も同じで、問題の根っこにあるのは、相手の本当の課題を把握していないことだと坪田さん。だから、「大切なのは本当の課題を見つけること」だと説く。坪田さんは、以下のように続ける。
「僕の塾に来る方の中で多いのは、『数学が苦手です』と言っているようなケースです。親御さんも『この子は本当に数学が苦手なんです。だからなんとかしたいと思って……』とおっしゃいます。そこで、どのくらい苦手で、どこまで戻ってやる必要があるのか調べるために学力テストのようなものをやります。すると、9割の人は『数学が苦手なのではなく、計算が苦手』ということがわかるのです」
つまり、本当の課題は「計算」となり、親が伝えるべきは「この計算、練習してみない?」といった言い方になる。
坪田さんは、子どもの成長には「本人が課題に気づいていること」が不可欠と説く。そのために親がなすべきは、そのための質問を投げかけることが第一となるわけだ。
多忙なことは子どもにはこう伝える
仕事・家事が本当に忙しくて、子どもの相手ができないとき、思わず言ってしまう「今忙しいからあとで」。
親からすれば、さらっと事実を伝えただけ。しばらくしたら相手になるという含みもあるので、問題ないようだが…しかし、子どもの立場で見るとどうか。
「でも、単に『忙しいからあとで』では、子どもは寂しい気持ちになります。積み重ねていくうちに『どうせ聞いてもらえない』と、悩みを1人で抱えがちになってしまいます」
では、どうすべきか? 坪田さんの答えは明快だ。
「説明しましょう。忙しいのはなぜなのか、いつまでなのか、なるべく具体的に伝えることです。
『今、幼稚園の幹事のママたちとやりとりしていてちょっと忙しいから、30分待ってくれる? 30分後なら、じっくり話を聞けるからね』
『何か作ったの? 今書いているメールを送り終わったら見せて! あと5分くらいだから』
こうやって伝えれば、受け取り方は全然違うはずです」
ちなみに、大人同士の世界の「私と仕事、どっちが大切なの」という難題も、これに通じるとか。こちらについて坪田さんは、「今この瞬間は仕事だけど、いつも大事なのはあなたです」が、ベストアンサーだとアドバイス。もちろん、日ごろからのコミュニケーションのケアが大切なのは言うまでもないが。
親が完璧を目指さないことも大事
本書で坪田さんは、個々の言葉についてだけでなく、原則論的な話も展開している。キーワードは「拮抗禁止令」と「13の禁止令」という心理学用語だ。
拮抗禁止令には、社会を生きていくのに重要なルールを教えることも含まれるが、それは問題ない。ただし「厄介なもの」もある。その一つが「完全、完璧であれ」。「ちゃんとしていないと認めない」という親の態度は、子どもにそんなメッセージを与えているのと同じになる。
そして、拮抗禁止令と13の禁止令が結びつけば、子どもの思考・行動をかなり縛ることになるとも。
坪田さんはその一例を出しているが、拮抗禁止令の「他人を喜ばせ、満足させよ」と13の禁止令の(「お前さえいなければ」といった言葉に代表される)「存在するな」が結びつくと、「本当は辛くても、自分の感情は無視して、他人を喜ばせようと必死になってしまう」行動に駆り立てることになる…
正直な話、今日の今からこうした禁止令のNGワードをすべて把握し子育てに生かす、というのは無理な話かもしれない。坪田さんは、「そんなに完璧を目指さなくていいですよ」と諭す。大人でも完璧な人なんていないからだ。
だから、むしろ目指すべきは「子どもと一緒に考えよう。一緒に学んで成長しよう」のスタンス。そして、ついついNGワードを言ってしまったら、「さっきは、こんなこと言ってごめんね」と素直に謝る。それは難しいことではないはず。試行錯誤はあるだろうが、よりよい子育てのために、坪田さんの著書は役立つ手引きになるだろう。
坪田信貴さん プロフィール
坪田塾塾長。心理学を駆使した学習法により、これまでに1300人以上の子どもたちを「子別指導」、多くの生徒の偏差値を爆上げする。一方で、起業家としての顔も持つ。また、企業のマネージャー研修、新人研修を行うほか、吉本興業ホールディングスの社外取締役も勤める。テレビ、ラジオ、講演会でも活躍中。著書に、映画化もされて大ベストセラーとなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』、『人間は9タイプ 仕事と対人関係がはかどる人間説明書』『バクノビ 子どもの底力を圧倒的に引き出す339の言葉』『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』『吉本興業の約束』など多数。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)