フジツボをヒントに新たな組織接着剤を開発
船底に付着するため船にとってはやっかいな存在であるフジツボをヒントに開発した組織接着剤が、重度の出血を素早く止める新たな方法として有用である可能性が報告された。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のHyunwoo Yuk氏らによるこの研究結果は、「Nature Biomedical Engineering」に8月9日発表された。
失血は、兵士の間では外傷後の主要な死因であり、一般集団の間でも外傷後の死因として2番目に多い。止血方法の開発は長年の課題であり、いまだに十分に解決されていない。開いた傷口を塞ぐ方法としては、一般的に縫合が用いられる。
しかし、縫合は時間がかかる作業であるため、緊急時にファーストレスポンダーが行うことは不可能な場合が多い。現在、使われている止血剤の多くは、血液凝固を助ける凝固因子を含む。
ところが血液が固まるまでに時間がかかる上に、ひどい出血に対しては効果的でない場合もある。
フジツボは小型の甲殻類で、岩や船体、クジラなどの他の動物に固着する。今回、Yuk氏らは、濡れたり汚れたりしていて付着が困難な物質表面にもしっかりと固着するフジツボの能力に着目。
フジツボでは、接着性のタンパク質分子が油の中に分散して存在することにより、水や表面の汚染物質をはじいて岩などの表面にも強力に固着できる。この原理を、止血方法に活用しようと試みた。
今回、開発された接着剤は、このフジツボの粘着物質の構造を模したもので、接着力の源となるNHSエステルを含んだポリマーの一種であるポリアクリル酸と、強化材として多糖類のキトサンで構成されている。
研究グループは、この接着剤をいったん凍結した上で粉砕し、その粒子をシリコンオイルに混ぜてペースト状にした。このペーストを出血している表面に塗布すると、油分が血液などをはじき、接着剤の微粒子が互いに結合して傷口を塞ぐという仕組みだ。
研究グループは、ラットとブタでこの接着剤の止血効果を試してみた。その結果、出血している組織表面に接着剤を塗布して軽く押さえると、15〜30秒で出血が止まることが確認された。
研究論文の責任著者の一人である、同大学のXuanhe Zhao氏は、「湿っている上に動的なヒト組織では、接着が長らく課題とされてきたが、われわれが開発した接着剤によりその問題が解決しつつある。また、われわれが試みているのは、フジツボの固着力に関して得た基本的な知識を実際の製品に活かすことで、救える命を救うことだ」と述べている。
もう一人の責任著者である、米メイヨー・クリニックの心臓麻酔医のChristoph Nabzdyk氏は、「この新しい接着剤は、手術中の外科医が出血コントロールに割く時間を短縮するために用いることも考えられる。
というのも、外科医は、技術的な面から言えば、多くの複雑な手術を行えるが、特に重度の出血を迅速にコントロールする能力については、手術技術ほどのスピードで進歩していないからだ」と話している。(HealthDay News 2021年8月11日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.nature.com/articles/s41551-021-00769-y
Press Release
https://news.mit.edu/2021/barnacle-glue-wound-seal-0809
構成/DIME編集部