お気に入りの器で飲むと、普段飲んでいる飲み物もなんだか特別おいしく感じる。
20代の私にそんな感覚を初めて教えてくれたのが、陶芸家の林理子さんが作る器だった。
カラフルなドット柄やお花柄。思わず「かわいい~」という声をあげてしまうほど、オリジナリティあふれるデザインと毎日気兼ねなく使える使い勝手の良さ。
中でも、カラフルでかわいい急須や湯飲みを初めて目にした時、“この茶器で絶対にお茶を飲みたい”と思い、すぐに連絡したことを覚えている。
林さんのアトリエは東京都江戸川区にある。
お父さんは、江戸川区小岩の土を使った焼き物「甲和焼」を生みだした林信弘さん。
今でこそ、親子2代で陶芸家という林さんだが、もともとは建築に携わる仕事をしており、大学職員として働いていた。
もともと手を動かして物をつくることが大好きだったが、厳しい世界だということを強く感じていたからこそ、陶芸というものを避けていた時期もあったそうだ。
衣食住に関わる仕事がしたいと考える中で、全てを囲む“住”の部分をつくりたいと進んだ建築の道だったが、最終的に形にするのは自分ではないことや生活に密着した建築になかなか携われないことが重なり、導かれるように歩み始めた陶芸家への道。
一方で、父の姿を長くみていたからこそ”生半可な気持ちでは手を出せない”という想いも強く、あえて他の場所に陶芸を習いに行ったり、つくっては壊しまたつくるをただ繰り返す日々を送っていた時期もあったという。
作品をつくる際に、大切にしていることは、どんなに手間がかかったとしても、他の人がやっていないことに挑戦する。他の人がつくっていないものをつくるということだという林さん。
学生の頃から作品をつくり、世の中に発信し始める陶芸家も多い中、決して早いスタートではなかったかもしれない。
しかし、この経験こそが、唯一無二の作風に繋がっているようにも感じる。
そんな林さんのこだわりは、器の底の部分からも垣間見ることができる。
誰かと向き合って飲み物を飲む時、お互いにカップの裏の部分を目にすることがある。
そんな時、カップの裏の部分にまで模様がついていたら、「かわいい」という会話がうまれたり、そこにいる人達が笑顔になれるのではないか…。そんな想いから、普段であれば目にすることはほとんどない器の裏の部分にもあえて模様を彫っているという。
作業としては一手間かかるけれども、こういった小さな仕掛けをほどこすことで、そこに“いつもとちょっと違う時間”がうまれる。お皿を洗う時間さえ楽しく過ごせるという声も多く届くという。
あまりに細かく彫られたデザインを見ると、「使わずに飾っておいた方がいい」と思う人もいるかもしれないが、林さんのつくる器は電子レンジや食洗器の使用が可能なものも多く、更に重ねても収納しやすいつくりになっていて、むしろ普段使いすることで良さがどんどんわかってくるそんな器なのだ。
中でも、私が一番推したいアイテムは“急須”だ。
急須と聞くと昔ながらの朱色や茶色、黒色のものを思い浮かべる人が多いと思うが、林さんのつくる急須はポップでかわいく、眺めても、使っても楽しい。かわいい急須を探しているけどなかなか見つけられなかったという方は是非一度、作品を見てみてほしい。
まとまった時間がないと着手できないうえ、作ったとしてもフタのちょっとした大きさなどがうまくいかずダメになってしまうこともしばしばだという急須づくり。
かわいいシルエットやデザインを保ちつつ、持った時のバランスが良く、かつ使いやすいものをつくるというのは容易ではない。
各パーツをつくってからそれらを組み合わせるなど、お皿などに比べると難しさもあるのだが、林さん曰く「色々な要素が集約されていて、成功した時の達成感もある。ゲームのようで楽しい」のだという。
全国各地での個展や企画展の度に新たなファンを獲得し続けている林理子さんのポップでキュートな器の世界。
長い間、林理子さんのつくる器を愛用しているファンの一人として、今後、どんな作品がうまれるのかとても楽しみで仕方がない。
おうちで過ごす時間が長い今だからこそ、普段使いの器にこだわってみるというのもいいのではないだろうか。
nicorico林理子 ⇒https://www.nicorico.com/
茂木雅世 もき まさよ
煎茶道 東阿部流師範・ラジオDJ
2010年よりギャラリーやお店にて急須で淹れるお茶をふるまう活動を開始。現在ではお茶にまつわるモノ・コトの発信、企画を中心にお茶“漬け”の毎日を過ごしている。暮らしの中に取り入れやすいサステナブルアイテムを探求することも好きで自称“アットDIMEのゆるサステナブル部部長”
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