築地で食べた『磯雪』に江戸っ子の粋を感じた
先日、眼鏡を調整するために銀座へ出かけた。
懇意にしている銀座並木通りの「シャルマン」に入り、フィッティングサロンでゆったりしていると、スタッフのF氏が飛び切りの笑顔で話しかけてきた。
「このお蕎麦はご存じですか?」
これは参ったなと思った。銀座で昼食を食べるつもりはなかったし、フィッティングには時間がかかるから、とマネージャーを送り出した矢先のことだったからだ。
結局、F氏が紹介するお蕎麦の写真に魅せられて、すぐさまマネージャーに連絡。急遽「石臼碾きそば つきじ 文化人」の店前で落ち合うことにした。
「つきじ 文化人」は東銀座と築地の中間に位置するオフィス街の一角にある。席に座るや否や2人分のお蕎麦を注文した。さぁ、お目当ての『磯雪』とご対面だ。
『磯雪』は、メレンゲ状にした全卵と冷たいお蕎麦を和えたあと、香りが嫌みにならない程度にあおさ海苔を散らしたもの。ときに〝江戸の粋〟と呼ばれる理由は、気が短い江戸っ子の腹を満たすべく考案された〝短時間ですすれる蕎麦〟だからという一説がある。何にせよ、江戸っ子のしゃれっ気を今に伝えるお品書きのひとつなのだけれど、一方で蕎麦好きの間では〝絶滅危惧〟が叫ばれるくらい提供するお店が減ったという話も聞く。かくいう、僕も『磯雪』を味わうのはもちろん、目にするのも初めてだった。
「つきじ 文化人」の『磯雪』は、常陸秋そばを使った細打ちの十割蕎麦。ふんわりとした口当たりのお汁を絡めていただいた瞬間「はい、旨いー!」という歓喜の叫びが脳内を駆け巡った! マネージャーと2人で目を見開いたまま無言で平らげてしまうほど、衝撃的な旨さだった。TKG(卵かけご飯)の蕎麦バージョンといったところだろうか。
普段、TKGを食べない僕はF氏の紹介がなければ、決してこのお蕎麦に巡り合うことはなかっただろう。『磯雪』を食べることができて、本当によかった。必ず近いうちに再訪したい。次は『磯雪』と温かいお蕎麦の2杯を味わいたい。そう強く思わせる逸品だった。
ご馳走さまでした!
『磯雪』990円
石臼碾きそば つきじ 文化人
[住]東京都中央区築地1-12-16 1F [電]03・6228・4293(夜のみ予約可)
[休]日曜(祝日、月曜は不定休) http://www.bizserver1.com/bunkajin/
文/池森秀一
いけもり しゅういち
DEENのヴォーカリスト。1993年に『このまま君だけを奪い去りたい』でデビュー。乾麺蕎麦商品をプロデュースするほか、2020年9月に蕎麦専門YouTubeチャンネル『信州戸隠 池森そば 赤坂店』を開設。芸能界きっての蕎麦好きとして有名。
※「池森秀一の蕎麦ログ」は、雑誌「DIME」で好評連載中。なお、本記事はDIME9・10月号に掲載されたものです。