一年のうち、雨がもっとも降る季節として多くの人が思い浮かべるのが梅雨ではないだろうか。しかし実は、東日本では梅雨よりも降水量の増える時期がある。それが、毎年9月頃の「秋雨(あきさめ)」の季節だ。
「秋の長雨」という言葉もあるように、この時期の雨は長期間に渡って降り続くことがあり、大きな被害をもたらしやすい。一方で、季節の変わり目を表すものとして季語や時候の挨拶にも用いられることもある。本記事では、そんな秋雨の定義や梅雨との違い、関連表現などについて解説したい。
「秋雨」の定義とは?
はじめに、「秋雨」の定義や特徴、梅雨とはどういった点が異なるのかを理解しておこう。また、天気予報でよく使われる「前線」とは何かについても併せてチェックしてほしい。
天気予報で耳にする「秋雨前線」とは?
梅雨や秋雨など、特定の時期に雨がよく降るのは「前線(ぜんせん)」が影響している。前線とは、温度や湿度の異なる2つの空気のかたまり(気団)の間にできた面が地上と交わる線のこと。通常、前線は移動しているが、2つの気団の勢力に差がない場合などはあまり動かず、「停滞前線」となる。梅雨前線や秋雨前線はこの停滞前線の一種で、前線が同じ場所に留まるため雨が長く続きやすい。
秋雨前線は、夏の終わり頃に北からやってきた冷たい空気が南の温かい空気とぶつかることによってできる。秋雨前線は次第に南下していくが、初期の方が強い雨になりやすく、北日本・東日本の雨量が増える傾向にある。ちょうど台風のシーズンとも重なるため、台風によって前線が活発化し、長期間に渡って雨が降り続くことも少なくない。
「梅雨前線」とはどう違う?
もう一つ、雨を降らせる前線として有名な「梅雨前線」は、秋雨前線とは逆に南からやってきた夏の空気が春の冷たい空気とぶつかってできる。南から北に向かって少しずつ移動するため、梅雨入りも沖縄・九州地方から始まり、徐々に北上していく。近年、梅雨末期の雨量が増加していると言われており、特に西日本の日本海側でその傾向が強い。先述の通り、梅雨前線も秋雨前線と同様に停滞前線。天気図上で大きな違いはあまり見られず、台風の有無や何月か(梅雨前線:5~7月頃、秋雨前線:8月~10月頃)で判断するのが主な見分け方だ。
日本以外にも秋雨はある?
梅雨前線は東アジア諸国の広範囲に影響を与え、中国や台湾など日本以外の国でも梅雨とよく似た気象現象が見られる。一方、秋雨前線は短く、影響を及ぼす範囲が日本周辺に限定されているため、他の地域ではあまり同様の気候変化がなく、秋雨は日本特有の気象現象となっている。
「秋雨」に関連するさまざまな表現
気象現象の「秋雨」について理解を深めたところで、ここからは言葉としての「秋雨」に注目したい。四字熟語や時候の挨拶など、関連する表現をぜひチェックしてほしい。
「秋雨」を用いた時候の挨拶
秋雨は、手紙やビジネス文書の冒頭につける時候の挨拶としても使われる。例えば、「秋雨の候、貴社におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます」などがそれにあたる。この場合、一般的な読み方は「秋雨の候(しゅううのこう)」となるが「あきさめのこう」と読んでも間違いではない。
文字通り秋の季節の挨拶となり、具体的には9月中旬~10月中旬頃にかけて使うのがふさわしいとされる。「しとしとと雨が長く続く季節ですね」といった意味合いを含んでいるので、あまり雨が降らない年には使用を控えた方が無難だろう。
四字熟語「春風秋雨」とは
秋雨を使った四字熟語「春風秋雨(しゅんぷうしゅうう)」。言葉の持つ風流なイメージや響きの良さから人気のある四字熟語の一つで、小説などのタイトルにも使われている。春に風が吹いて、秋に雨が降るまでの長い月日や年月を表し、「小学生の頃から春風秋雨、真面目に勉強してきた努力がついに実った」のように使う。
ちなみに、この熟語に似た「秋雨秋風(あきさめあきかぜ)」という名前のゲーム実況者が若者を中心に人気を集めていたが、残念ながら2019年に事故死している。
「秋雨」を表す他の言葉
秋雨は、「秋霖(しゅうりん)」とも言い換えられる。「霖」という漢字は「長く降り続く雨」の意味があり、「秋に長く降り続く雨」で秋雨を指す。時期が少しずれるが、秋の終わりから冬の初め頃にかけて降る雨の場合は「時雨(しぐれ)」と呼ぶ。
文/oki