
日替わり定食には「毎日食べられる食事を」という作り手の心遣いがある。
一方、いつも出している定食でも、ふらりと訪れる側としては「今日すれ違う、今日だけの定食」だったりする。
そんな定食との一期一会。
これは、食・街・人・との出会いを求め、空腹で街をさまよう男の記録です。
第五回:夢飯Mu-Hung(西荻窪) 海南チキンライス
20代のほとんど全てを、私は西荻窪で過ごした。
今は住んではいないが何かにつけて西荻窪を訪れることは多く、その時にお邪魔する店はいくつかあって、いつも第一候補はここ、夢飯である。
そして、注文するメニューは、ほとんど毎回「海南チキンライス・ゆで蒸し鶏の中サイズ」である。いろいろ試してみても結局これに戻ってくる。
西荻窪に住んでいる人はみんな西荻窪が大好きだし、住んでいない人でもちょっとご存知の場合はたいてい西荻窪を好きなことが多い(本田調べ)。
西荻窪にはいろいろなお店がある。
友人に私が昔この街に住んでいたという話をすると、後日お店を案内することになるのだが、そんなときにもまず夢飯である。友人はみんな満足して帰って行き、その後リピーターになる。
女性を誘えば、品の良い店構えと味を満喫し、大変に喜ばれる。
次に会った時に「あのあと、すぐにまた行っちゃったよ!」などと言われることが何度もあり、これまたリピーターになるようだ。これはうれしい。
ただし、うれしさ98%の反面「どうして…」という気持ちが2%ほど、ないでもない。
店をリピートするのに、私に声がかからないからである。
中には、食事中に「美味しい!今度わたし別でも来ていい?」という大変うれしいコメントを発する方もいて、これもすごくうれしい。うれしさ99.5%である。0.5%はもちろん「どうして…」だ。
状況は変わって、長いスパンの仕事の納品を終え、徹夜明けなどでやっとひと休み、という日のランチにも私は夢飯を選ぶことが多かった。
チキンライスは鶏ダシが効いて確かな満足感を与えてくれるが決して重すぎることはない。
そして、私が大好きなのは一緒に出てくる鶏ダシのスープである。疲れている時にはこれがものすごく体に染み入る。過去にはすごく疲れでいる時に追加注文してスープを二杯飲んだこともある。これは、つまり西荻窪というオアシスに湧き出る癒しの液体なのである。ぜひ一度ご賞味いただきたい。
リピーターになった知人に、誘ってもらえなくて疲れた心にももちろんこの液体が効きます。
ちなみにチキンライスに付いてくる3種のソースの使い方は人によってかなり違う。
小さなカップに入れたまま、チキンをそれぞれのソースにちょこんと着けて色々な味を味わう人。すべてのソースを順番にチキンとライスにどばっとかけてそのまま食べる人。かけたあとで、軽く和えてから食べる人。私はチリソースのカップにしょうがを全部
入れ、そこにしょうゆを8割入れてから軽く混ぜて全体にかける。
ああまた、来週あたり夢飯に行きたくなってきた。
(完)
ここでご近所の寄り道スポットをすこしだけご紹介。
パティスリー レリアン
西荻3時
ピンクのぞう
コーヒーロッジ ダンテ
南海チキンライス 夢飯 Mu-Hung
東京都杉並区
通常営業時間
11:00〜20:00(L.O.19:30)
定休日:火曜日
8月10日(火)〜17日(火)まで夏季休暇。
※新型コロナの影響で営業時間が変更になる場合があります。
イラストレーション・文/本田しずまる
編集/inox.