クールジャパンの先鋒として、日本のアニメはグローバルで熱狂的ファンを生んでいる。しかし、最近では中国をはじめとする各国で活発にアニメが制作され、世界のアワードでも存在感を見せている。この先、日本アニメは安泰なのか。その最前線に迫った。
市場規模では日本超え!?中国アニメの量産が加速
日本が世界に誇るサブカルチャーの中で、毎年右肩上がりの快進撃を続けているのが「ジャパンアニメ」だ。一般社団法人日本動画協会の調査でも、日本アニメの世界市場は約2兆5000億円と、2009年に比べ、10年間でその規模は倍増している。2020年も、動画配信サービスの活況があり、最高記録更新に期待がかかる。
しかし、グローバルなアニメ市場では、ここ数年、中国発のアニメが急成長を遂げている。中国の調査会社によると、2018年時点の市場は、日本を超える約2兆6000億円規模に達し、日本でも目にする機会が増えた。
「中国のアニメが日本に上陸した2015年当時はさほど話題になりませんでした。潮目が変わるきっかけとなった作品が、中国で約49億円の興収を記録し、2019年に日本公開された『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』です。それまでのファミリー・キッズアニメーションとは一線を画し、日本の大人向けアニメのスタイルを取り入れたことで、日本のアニメファンからも注目を集め、これを突破口に続々と新旧の作品が海を渡りました」
増田さんによれば、アニメーションの巨人、アメリカの「ディズニー/ピクサー」でさえ、主流は依然としてファミリー・キッズアニメだが、日本では深夜アニメのヒットをトリガーに2015年以降、大人向けアニメが主役の座についた。グローバルなアニメ市場の中では、この〝オトナアニメ〟こそが日本のお家芸であり、そのスタイルを踏襲することで、中国アニメの人気に火がついたと推測する。
「中国では、文化大革命以降の1980〜90年代にかけて、大量の日本アニメが国営放送で放映されるようになり、同時代に生まれた約4億人が、日本のアニメを見て育ったといわれています。2010年代に入り、日本のアニメに親しんだこの年代が、監督や制作スタッフとしてイニシアチブをとったことも、中国で日本風の〝オトナアニメ〟が増えた要因のひとつだと思いますね」
現在では単に上映や配信にとどまらず、日本に進出する中国のアニメ制作会社も後を絶たない。
「海外では制作手法や工程の効率化、予算を優先した結果、CGアニメが増えています。一人前のアニメーターを育てるには、10年はかかるといわれますが、CGはソフトウェアの使い方さえマスターすれば1年もかからずに戦力になります。一方、日本では職人気質のアニメーターが多く、手間のかかる手描きの作画、今も大半を占めています。制作会社の進出は、日本でアニメをつくる付加価値だけではなく、スキルの習得もメリットといえます」
「日本の〝オトナアニメ〟は世界を席巻しつつあります」
ビデオマーケット 顧問
増田弘道さん
アニメビジネスを総合的にとらえるクリエイター集団「C+」の代表。日本動画協会人材育成委員会副委員長や『アニメ産業レポート』の編集長を兼務。多数の著作を上梓する傍ら、法政大学などで教鞭を執っている。
日本の大人向けアニメがグローバルで拡大中
中国以外の国でもアニメ制作の動きは活発化している。
「注目のアニメーションスタジオが、アイルランドのカートゥーン・サルーンです。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』や『ウルフウォーカー』など、これまで4作を発表し、いずれもアカデミー賞にノミネートされています。作品はすべて手描きで、クオリティーが高く、エンターテインメントでありながら芸術的なセンスにも卓越しています。スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんが『ジブリはマンガだ』とおっしゃられていますが、この作品を見るとその違いもわかりますし、オマージュも感じます。ジブリの後継者がアイルランドにも現われたという印象を持ちました」
アジア圏ではアニメが人気の台湾も良質なアニメを生んでいる。
「東京アニメアワードフェスティバル2018でグランプリを受賞した、ソン・シンイン監督の『幸福路のチー』は日本人好みで、非常によくできています。ハートウオームなストーリーですが、背景には台湾の近代政治史がしっかり描かれ、作品のクオリティーを裏づけています」
意外性では、サウジアラビアのマンガプロダクションズと東映アニメーションが共同制作した『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』が挙げられる。サウジアラビア初の長編アニメ映画であり、中東アニメの今後も興味深い。
このようにアニメの新勢力が続々と名乗りを上げているが、当面は一日の長のある日本アニメの優位性が続くと増田さんは予測する。
「大人になってもアニメを見る習慣があるのは日本ぐらいで、海外ではオタクといわれる熱狂的なファンを除けば、日本の中学生の年齢になると皆、卒業していきます。けれども、〝オトナアニメ〟が世界的に定着すれば、さらなる躍進もあります」
その一方で、やや悲観的ながら、ソニー・ピクチャーズの『スパイダーマン:スパイダーバース』を観て一抹の不安も覚えたという。
「この作品を見た『機動戦士ガンダムシリーズ』の富野由悠季監督が『これはアメリカ初の商業的な大人向けアニメだね』と述べられていましたが、この作品はアメリカでも大人向けアニメが待望されていることを示唆しました。もし米国でも手がけるようになれば、日本もうかうかしていられなくなります。日本のアニメ産業はしっかりとした戦略をとる必要が出てきたと思いますね」