青年たちが資産1兆ドルを目指して起業する『トリリオンゲーム』、全人類が石化してしまった世界の復興を目指す少年の科学冒険譚『Dr.STONE』、そして累計発行部数2000万部を誇る、アメフト初心者の高校生が日本一を目指す『アイシールド21』──3つの大ヒットマンガに共通するのが、「原作者・稲垣理一郎」の存在だ。ジャンルも作風も違うマンガでヒットを生み出す稲垣先生とは、どのような人物なのか。
本人に話を聞いた。
「もともと原作者ではなく絵も描いていました。ただ、あまり絵が得意ではなかったので、上手な人に作画を任せたいとずっと思っていました。
原作に専念するようになったのは、週刊少年ジャンプが主催する『ストーリーキング』というネーム(マンガの原作)を投稿する賞で『アイシールド21』の読み切り版が大賞を取ったことがきっかけでした。そのままジャンプで連載することになったのですが、編集部に『もっとうまい方に』と伝えると、作画者を決めるコンペをやることになり、現在『ワンパンマン』などの作画を務める村田雄介先生がぶっちぎりにうまかったので任せることになりました」
なぜアメフト、科学、起業と全く異なる世界を舞台にした漫画を描くことができるのか。
「『描きたい世界』について、必ずしも詳しくなくてもいいんです。例えば、『Dr.STONE』では主人公が科学の知識を駆使して活躍しますが、私は特に科学が得意なわけではありませんし、作中に登場する分野も広すぎます。そこで毎回、監修者の先生方にサポートしていただくことで、学びながら描いています。
科学の話を描くか別の話を描くかは、いわば『どのモチーフを選ぶか』にすぎません。〝こういうことが描きたい〟というテーマに対して、もっともおもしろく描ける適切なモチーフを選ぶ。もし知識がなければ勉強すればいいだけです」
描きたいテーマに合わせて、そして「作画者」に合わせてモチーフを自由自在に変化させることが、作風にバリエーションを生んでいるようだ。
「描きたいテーマのストックがいくつかある中で、例えば『トリリオンゲーム』では作画に池上遼一先生という説得力のあるゴージャスな絵を描ける方を迎えることになったので、それなら『1兆ドル稼ぐために起業する』という一見非現実的なモチーフでもおもしろくなるな、と。どんなテーマを描くかは、一言では表わせないのでマンガにしています。ぜひお手に取って、作品から感じていただけるとうれしいですね」
『トリリオンゲーム』(作画・池上遼一、小学館)
「1兆ドルあればこの世のすべてを手に入れられる」──ワガママ男のハルと真面目なガクは、ゼロから起業し壮大な野望を実現させる、その名も「トリリオンゲーム」を開始する。
稲垣さんが原作を務めた『アイシールド21』(作画・村田雄介、全37巻、集英社)と『Dr.STONE』(作画・Boichi、既刊21巻、集英社)
取材・文/峯 亮佑