【テレビプロデューサー】×【近未来マンガ】年を重ねるたびに共感するキャラが変わる生涯読本
30年以上前に出会ったひとつの作品。何度も見ているのに、観るたびに新たな発見があるという名作の魅力とは?
人生とマンガ、そして人生とアニメ。この2つのキーワードから真っ先に頭の中に思い浮かぶ作品は『機動警察パトレイバー』ですね。
初めて観たのは中学生の時。OVAのアニメだったと思います。組織で働くということ、組織だから揉み消されていく出来事、そんな中で自分の正義を貫くこと。これまで観てきたアニメとは違う少しアダルトな世界観に惹かれました。主人公の泉野明に感情移入しながら、「篠原重工のサスペンダーは……」なんてメカニカルな台詞のやり取りをカッコいいと感じて、ワクワクしながらビデオを再生していましたね。
この作品のすごいところは、観るたびに感動するポイントが増えること。中でも感心するのが「ウイルスにコンピューターが乗っ取られて、ロボットが暴走する」というもの。これって、今でも通用するプロットですよね。さらに作品はテレビ、映画、コミックなど、様々なメディアで展開。現在では当たり前のメディアミックスを30年以上前にやっている。今の仕事を始めてからは、観るたびにこの時代を先取りするセンスに驚きます。
30代に入ってからは、主人公の上司の後藤喜一の言動にグッときますね。昼行灯的なキャラクターで、初めて観た時は「上に立つ人なのに、ちょっと変わってるな」なんて思いながら観ていたのですが、会社員として組織の中で働いてキャリアを重ねれば重ねるほど「組織の中でうまく立ち回るには、ああするしかないよな」と。そして自分が部下を持つようになると、後藤の「助言はしてやれ。手助けはするな!」というセリフが響くようになってきましたね。今では、仕事の時、常に意識している言葉のひとつです。
最近見た作品で良かったのは『映画大好きポンポさん』。今、深夜ラジオのパーソナリティーをやっているのですが、リスナーから「『ポンポさん』、やばいっすよ」みたいな声があったので観に行きました。
映像の仕事には、撮影後に映像素材を編集したり効果音を加えたりするポストプロダクションという作業があります。素材をおもしろくしたり、観やすくしたりするために必要な作業なんですが、とにかく地味な作業。だから、普通は作品のネタになることはないんですけど『ポンポさん』では、この部分がしびれるぐらい、おもしろく描かれているんです。大げさなところもありましたけど、編集作業の根底にある〝魂〟の部分をしっかりと表現している。テレビ業界の裏方を担っている者のひとりとして、心に刺さる作品でしたね。
テレビプロデューサー 佐久間宣行さん
『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『考えすぎちゃん』などを担当。2021年3月末にテレビ東京を退社しフリーに。
佐久間Pのイチオシはこの作品!
『機動警察パトレイバー』
(ゆうきまさみ、全16巻(愛蔵版)、小学館)
1988年より『週刊少年サンデー』で漫画版が、OVAにてアニメ版がスタートした作品。人型作業用ロボット「レイバー」による犯罪に対抗するために組織された特車二課パトロールレイバー中隊の活躍を描く。
イチオシ作品をこんな人に薦めたい!「リーダーの立ち居振る舞いを学びたい人」
後藤喜一の言葉や行動は、理想の上司そのもの。若い人の成長を見守りつつ、裏側でしっかり支える。そんなタイプのリーダーを目指す方は、ぜひ後藤に注目しながら作品を観てください。
©2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
『映画大好きポンポさん』(2021年)
名映画プロデューサーである祖父の才能を引き継いだポンポさん。彼女の付き人で映画好きだけど死んだ目をしている青年ジーンは、制作した新作映画の15秒CMで評価を受け、大作の監督を任される。
取材・文/渡辺雅史