【連載】もしもAIがいてくれたら
第12回:「挽肉のお値段4万円事件」AIなら防げた?
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第11回:AIにCOVID-19対策と経済回復のバランスはとれるのか?
挽肉ワンパック「4万円」事件
先日スーパーマーケットに行って400円の挽肉を買ったところ、なんと4万円が請求金額に表示されました。カードでピッとすれば一瞬で決済される時代。レジで、店員さんが商品のバーコードをピッ、ピッ、……としているのをぼーっと見ていました。
終わって、かごを渡され、「5番でお願いします」と言われ、決済専用マシンのところに移動しました。金額が大きく映し出されて、
「ん!?」
何やら桁が普通じゃないことに気づき、慌ててレジに戻りました。「これ、4万円にはならないはずですが……」とかごを見せると、店員さんが一瞬固まった後、はっ!とした表情になり、訂正してくれました。もう少しで気づかずに決済してしまうところでした。自動化されている部分が増えると、ヒューマンエラーに気づきにくいものですね。
どうしてレジは挽肉の値段を間違えたのか?
このようなことが起きた原因は2つ考えられます。
ひとつは、レジの係の方が、400円の挽肉を100個買ったような入力をしたということです。(400円の挽肉)×(100個)としたのかもしれません。合計金額が出た段階で気づいてしまったので、どうだったかはわかりません。しかし、バーコードをピっとした後に、店員さんがわざわざ何かを入力していたようには見えませんでした。ひたすら、ピッ、ピッ、ピッ・・・・と商品を通していっていたように思います。もちろん、同じ商品を100回通したということも考えられません。
とすると、もうひとつ考えられる原因は、POS(Point of Sale)システムに商品の金額情報を入力した人が間違えたということです。挽肉の場合、1グラムあたりの金額情報を間違えたのでしょうか。
POSとは「Point of Sale」の略称で、日本語では「販売時点情報管理」と訳されます。小売店の商品が販売された時点の情報を管理するものです。POSシステムは、どの店舗で、いつ、どのような商品が、どのような価格で、いくつ販売されたか、といった情報を収集管理できます。
今やPOSに不可欠なパーツとなっているバーコードは、世界に100種類以上あると言われていますが、値段の情報が入っているわけではなく、商品を識別するためのコードなどが入っているだけで、その商品のバーコードを読むことで、コンピュータから値段の情報を引き出しています。
ということで、値段情報を入力したのが人間だとすると、その人間が間違えた可能性があります。
バーコード、POSシステムの導入で、いわゆる「レジ打ち」で生じやすかった人的ミスは起きにくくなりましたが、やはり、人手が入るところでは、ミスはつきものということでしょう。
いっそAIに値段を決めさせればいい?
そこでいよいよAIなら何ができるか、ですが、レジにAI搭載ロボットが立つ、という必要はないでしょう。すでに、店員さんがいなくても、客が自分でバーコードを通して清算するのは普通になってきています。さらには、AIの画像認識能力の進化によって無人店舗の可能性が進んでいます。
Amazon Goの登場で話題になりましたが、高輪ゲートウェイ駅構内の「TOUCH TO GO」など、来店客の行動を各種センサーで分析し、それこそ商品のバーコードスキャンが不要な無人決済可能な店舗が増えてきました。天井に設置された各種カメラで来店客の行動を追跡します。さらに、商品棚の重量センサーで、来店客がどの棚のどの商品をいくつ取ったかも把握します。顔認証決済の導入が進めば、入店時に来店客の顔認証を行えば、入店後にどの商品をいくつ取ったかを把握することで、そのまま店舗を出ても、自動的に決済できます。
ということで、400円の挽肉が4万円なるということはなさそうに思えますが、値段を決めて入力するのが人間だと、やはりコンピュータへの入力時にミスが起きる可能性はあります。そこで、いっそのこと、金額もAIに決めさせてしまえばよいのかもしれません。
実際に、AIがその時々の需要を予測して価格を決定する「ダイナミックプライシング」の導入の可能性も話題になっていますが、2021年3月31日に発表された公正取引委員会の報告書によると、AIによる価格決定は、独占禁止法に抵触する問題を生む恐れがあることが指摘されています。ネット通販の事業者が商品の販売価格を他の事業者と横並びの水準につり上げる行為は、カルテルを結ぶのと同じように独占禁止法上問題となる恐れがあるのだとか。
少なくとも、400円の挽肉が4万円になってしまうようなミスは防げるといいですね。バーコードには入力ミス自体は防ぐコードはありますが、あとひと頑張りして、入力された金額が相場を外れているとAIが判定できるようにして、アラートを出してくれたりすればいいのかな。それまでは、決済は慎重にして、あまりぼーっとし過ぎないようにします(汗)。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。