エンタメ市場の消費傾向はどう変わった?
爽やかで未来志向の強い作品が共感を呼びました(数土さん)
アニメ産業 ジャーナリスト
数土直志さん
2002年にアニメ関連のニュースサイト『アニメ!アニメ!』を設立。2016年に独立し、アニメを中心にエンタメ業界の執筆を行なう。
『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が社会現象となった昨年に続き、今年もアニメ業界は活況だ。数土さんは、上半期を代表するヒットアニメとして選出した3作品からトレンドを読み解く。「名馬を美少女化した『ウマ娘 プリティーダービー』、ビジュアルのかわいらしさとナンセンスギャグの落としどころがマッチした1話あたり2分40秒のストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』、そして劇場4部作の最終章を飾った『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』。特に『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は、庵野秀明監督の作りたいものが時流にハマった感じを受けましたね。テレビ放送開始当初の世代だけでなく、Z世代にとっても現役のコンテンツであることもヒットの要因ですが、爽やかなエンディングがマッチしました。暗い世相を吹き飛ばすような明るい作風や、強い未来志向は、ヒット作品の前提条件となるかもしれません」
老舗アニメ制作会社の巻き返しも見逃せない。
「『化物語』はシャフト、『鬼滅の刃』はユーフォーテーブルなど新進気鋭の制作会社がヒットを生む流れがあった中で『ドラえもん』シリーズなどで有名な老舗のシンエイ動画が手がけた『PUI PUI モルカー』がヒットしました。
これまで業界で囁かれていた、老舗が若者に媚びを売ると失敗するという定説を見事に覆したことが話題になりましたし、これを機に老舗の巻き返し現象はトレンド化していくような気がします」
『ウマ娘 プリティーダービー』は〝アイドル〟〝オヤジ趣味〟という2つの人気カテゴリーを掛け合わせたことで、アニメファンだけでなく、競馬に親しんできたオールドファンも取り込んだ。
「もうひとつ注目したいのがメディアミックスの手法の変化です。『ウマ娘 プリティーダービー』は、マンガ化、アニメ化に続き、今年リリースしたスマホゲームアプリが爆発的にヒットしたことで大きな注目を集めましたが、今後は動画配信サービスを加えた新たなメディアミックスの形が定着するのではないかと考えています。
何といっても『鬼滅の刃』の成功事例はありますし、Netflixが相次いで新作アニメを発表したように、動画配信サービス発のオリジナル作品が増えることで、ヒット作品から新たなヒットを生む現象は加速しそうです」
数土さんが納得!上半期を象徴するヒットコンテンツ
キーワードは【老舗の巻き返し】
『PUI PUI モルカー』
見里朝希氏のTVシリーズ初監督作品。パペットキャラアニメならではのアクションや展開でファンをつかんだ。
©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ
キーワードは【アイドル+オヤジ趣味】
『ウマ娘 プリティーダービー』
有名競走馬を美少女へと擬人化。スマホゲームは配信から5日間で100万ダウンロードを突破した。
©2018 アニメ「ウマ娘 プリティーダービー」製作委員会
食品・流通市場の消費傾向はどう変わった?
〝ちょっと贅沢〟〝機能性+α〟が新しい体験がヒットの鍵に(渡辺さん)
マーケティングアナリスト
渡辺広明さん
バイヤーとしてローソンに22年間勤務し、730品の商品を開発。豊富な経験を活かし、執筆やコメンテーターとして活躍する。
コロナ禍での年越しとなった2021年。巣ごもりで鬱積した退屈さやストレスを解消する〝Withコロナ〟のマインドが定着したことがヒットの原動力になった、と渡辺さんは説く。トレンドのキーワードを導くうえで注目したのは、ジョッキで飲む樽生ビールのような味わいが楽しめる『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』やキャップを開けた時に「ブシュッ!」という爽快な音が響く『THE STRONG 天然水スパークリング』のヒット。
「この2商品に共通するのは、五感を楽しませる仕組みを備えていること。これまでにはなかった〝気分をアゲる体験〟という新しい価値を付与できるかが、ヒットの分かれ目になりました」
自宅でクラフトビールを楽しめる『キリンホーム タップ』、セブン-イレブンのPB商品『とみ田監修 濃厚豚骨魚介 味玉冷しつけ麺』もヒットした。これらを象徴するキーワードが〝プチ贅沢〟。
「癒しのためにペットを飼い始める新規ブリーダーが増加。あえて高級なペットフードを購入する人も増えています。この流れも"プチ贅沢"に当てはまる消費行動のひとつです。その一方で外出自粛生活が尾を引いたことで、嗜好品の代表格である美容関連市場全体の規模は落ち込みましたが、マスク荒れ対策商品、美顔器や電気シェーバーなどの高級美容家電は売れましたし、男性用コスメは美容に関心の薄い中高年層のシェアが伸びたと聞いています」
男性用コスメが売れている理由は何か? 渡辺さんは、オンライン会議の定着したことを挙げる。
「マジマジと自分の顔を見る機会が増えたのです。老いを実感したことで男性の美意識は向上した。この価値観の変化はコロナ禍2年目ならではの傾向といえます」
現在の消費傾向は発展途上。渡辺さんは現状を、リベンジ消費に移り変わる前のリハビリ消費の段階にある、と話す。
「ワクチンを摂取したとしても、長期休暇を取って海外旅行へ出かけよう! というコロナ禍以前のマインドには戻らないでしょう。みんなでランチをするとか、日帰りで温泉に行くとか、〝プチ贅沢〟でストレスを発散するフェーズは、しばらく続くと思います」
渡辺さんが納得!上半期を象徴するヒット商品
キーワードは【アゲる消費】
アサヒビール『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』
居酒屋で味わう生ジョッキのおいしさを自宅で体験できることがウケた。販売を休止するほどの大ヒット。
キーワードは【プチ贅沢】
Mt Flat『金の旨味』
国内産の厳選した原料を使った総合栄養食のドッグフード。合成酸化防止無添加など安全性も愛犬家を魅了。
取材・文/安藤政弘
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