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未体験の食べ物をいとわず食べる人は魅力的でモテる!?

2021.08.06

 パッションフルーツの小さな粒がまだ口の中に残っていたようだ。やっぱり普通のアイスコーヒーにすべきだったか――。しかし新しい体験を求めた気持ちは評価すべきだろう。たかだかコンビニのドリンクの話なのだが……。

新しいコンビニ商品を試す“新しい体験”

 齢を重ねるほどに新しい体験や試みには億劫になってくるともいえるが、できればそうはなりたくない気持ちもある。だが具体的にどんなことを新しくはじめてみるのかを考えるとあまり案は浮かばない。せいぜいジム通いをしてみるとか、まだ読んでいない名作と呼ばれる著作に取り組んでみるというようなことが考えられるのだが、今はとにかく時間がない。

 某所からの帰路、高田馬場で電車を降りて夜7時過ぎの街を歩いていた。あとは帰るだけだ。ひと頃よりも陽が短くなってきていて、この時間でも薄っすらと暗くなってきている。しかし暑さはむしろこれからだろう。日差しはなくとも熱気に包まれた街中を歩けばたちまち汗ばんでくる。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 某コンビニ店の前を通り過ぎる。今は特に買うものはなかった。暑い時期の外出時には見かけたコンビニでアイスコーヒーを買ってその場で飲むことがたまにある。缶コーヒーやスタバのコーヒーではなく、店内のコーヒーマシンで淹れるほうのコーヒーである。コーヒーは基本的にホットで飲むほうだが、夏の一時期だけはやっぱりアイスコーヒーだ。

 実は今日の昼も出先のコンビニにアイスコーヒーを求めて入ったのだが、期間限定らしき新商品の台湾のアイスティーがあることを知り、少し迷ったが飲んでみることにした。

 ひと口飲んでみたが、当たり前だがアイスコーヒーとはまったく違う飲み物だ。風味はさわやかだが、やはり自分には甘すぎた。パッションフルーツのつぶつぶした食感も面白いが口の中に残るのが気になる。いや、もちろんこの種のドリンクが好きな人も多いことはじゅうぶん理解できるのだが。

 少し前にタピオカのミルクティーが流行ったことがあったが基本的に若い女の子の間でのブームであって、自分の属性からすれはある意味で当然だが無縁のままに流行は過ぎ去った。しかしそうはいってもブームが終わる前に一度くらいは飲んでみてもよかったのではないかと思わなくもない。ブームというの軽薄な感じもするのだが、それまで縁のなかった新しい物事を試す好機でもある。

 その意味では新商品の台湾アイスティーを飲んでみたことは悪いことでもなんでもなく、むしろその気になった自分を評価すべきなのだろう。些末なことではあるものの、それもまた“新しい体験”である。

未体験の食べ物をいとわない人物は魅力的?

 早稲田通りを小滝橋に向けて歩く。部屋に戻ればまだ若干の作業があるのでどこかの店で食べてもいいのだが、この先にあるケバブ屋で何か買って帰ってもよかった。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 食べたり飲んだりしたことのない飲食物を試してみるのは新鮮な体験になるとは思うが、もちろんそこには後悔するリスクもある。未経験の飲食物を試してみようと思うかどうかは人それぞれだが、初めてのメニューを試すことにやぶさかではない人物は総じて魅力的であることが最新の研究で報告されていて興味深い。


 新しい食べ物を試す意欲は、性的欲求と配偶戦略の手がかりを提供します。

 新しい食べ物を受け入れる対象者は、より望ましい、より性的に制限されていないものとして評価されます。

 調査結果は、新しいものに対する一般的な開放性ではなく、新しい食品に対する開放性に固有のものです。

 新しい食べ物を受け入れるターゲットは、性的嫌悪感が少ないと評価されます。

 ターゲットの性的嫌悪感の推論は、彼らの配偶戦略の評価を予測します。

※「ScienceDirect」より引用


 テキサス・クリスチャン大学の研究チームが2021年7月に「Personality and Individual Differences」で発表した研究では、実験を通じて新たな食べ物に心が開かれている人物はより性的に好ましく感じられ、性的により自由であるとみなされていることが報告されている。つまり食の好みがうるさくない人は“モテる”のだ。

 193人の異性愛者の大学生が参加した実験では、新しい食べ物を試すことをいとわない異性の人物か、あるいは逆位新たな食べ物を嫌がる異性の人物についてのストーリーがランダムに割り当てられ、その人物を評価することが求められた。

 評価データを分析した結果、総じて新しい食べ物を試すことを躊躇した人物は、新しい食べ物を試すことをいとわないと人物よりも、性的およびロマンチックなパートナーとして望ましくないと評価されることが浮き彫りとなったのだ。食の選り好みが激しい人物は“モテない”のである。

 また323人の異性愛者が参加した実験では、出会い系アプリ(OKCupid)のプロフィールで異性の人物を評価することが求められた。

 参加者には知らせていないが、プロフィールは実験のために作成された架空のものであり、いずれも食の選り好みの度合いがわかる記述が挿入されていた。たとえば「私はいつも何か新しくて違う食べ物を試みている」や、あるいは逆に「私は食べ物の好き嫌いが激しい」などである。

 各人のプロフィールを見ながら参加者は、対象の人物の経験への開放性と社会的セクシュアリティ、つまり献身的な関係の外での性的活動に従事する意欲を評価した。要するに浮気や不倫のしやすさをジャッジしたのだ。

 回答を分析した結果、新しい食べ物を試すことをいとわない人物は、過去の性体験人数が多いと思われる傾向があることが判明した。さらにパートナー関係外の性的関係に対してよりオープンであり、より浮気や不倫をしやすい人物であるとみなされていることもわかったのだ。

初めてのベトナム料理を堪能する

 早稲田通りをさらに進む。進行方向左側の歩道に面したケバブ屋が見える。近くの信号を渡ることにしよう。

 信号待ちの間、ケバブ屋の右奥の路地にはベトナム料理店があることに気づく。店舗の側面の大きなガラス窓から店内の様子が見え、数人のお客の姿を認める。

 最初はケバブを買って帰るつもりではあったが、ここで食べてみても面白いと思った。夜7時半になろうという時間がこのご時世では微妙だったが、まぁもしダメならケバブを買って帰ればよい。

 信号が青になり、ひとまず店のほうへ進む。目立つ看板には店名の下に「本場ベトナムの味」と記されていて、店の入り口近くの立て看板には写真入りのメニューが表示されている。ベトナムのサンドイッチとフォーを出している店だ。

 サンドイッチよりも断然麺類のほうが食べたい気分なのだが、メニューをよく見るとフォーのほかに「ブンボーフェ」という麺料理があって気になった。ベトナムのサンドイッチもフォーも食べたことはあるが、ブンボーフェというのは食べたことはない。

 店に入るとすぐに券売機がある。1000円札を入れてから少し迷ったが、初めてのメニューとなるブンボーフェのボタンを押した。これも何かの縁ということかもしれないが、台湾アイスティーに続き本日2度目の“新しい体験”である。

 店内は思っていたよりもこじんまりしていて、壁沿いのカウンターと小さな2人掛けのテーブルが4卓ほどのレイアウトだ。先客は2人だけだったのでテーブルに着かせてもらい店員さんに食券を渡すと半券をちぎって戻される。

 タイには行ったことはあるがベトナムはない。身近な人間でベトナム旅行に熱をあげていた者がいて旅の話やベトナムコーヒーのお土産をよく貰ったりしたことが一時期あった。しかしもちろんこの感染症禍で昨年からはそういうこともなくなっている。

“新しい体験”の代表的なものが旅なのだろうが、このご時世ではなかなか難しくなってしまった。ならばせめてこうして自分にとって珍しいものを食べて“新しい体験”をしてみたいものだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ブンボーフェがやってきた。肉がたっぷり乗っていてかなりのボリュームだ。辛そうに見えるスープだが、レンゲですくってひと口飲むとそれほど辛くない。麺は日本の手延べそうめんのような円い麺で、平麺のフォーと同じ米粉の麺だろう。小皿に乗せられて提供されたレモンを搾ってみる。

 具にはチャーシューのような牛肉や、ハムっぽい肉に加えて軟骨がついた牛肉も入っている。この肉を口に入れると当然軟骨も口に入ってくるのだが、そのまま噛み砕けば骨も食べることができる。しかし軟骨を噛み砕くにはそれなりに時間がかかるので、すべての軟骨は食べられないかもしれない。まぁこうしたイレギュラーな体験も初めてのメニューならではのことだ。

 今回の研究で新しいメニューに挑戦する気持ちがある者は“モテる”と同時に浮気性に見られる傾向があることが示唆されているのだが、そんなつもりはなくともモテないよりはモテたほうがよさそうだ。ただ興味深いのはこうしたことが当てはまるのはあくまでも食に関することだけであり、趣味や旅や音楽、映画や読書などの一般的な分野の“新しい体験”を好むこととはあまり関係がないということだ。食はそれだけ“エロチック”なものであるということだろうか。

 そして食べたことがないものを食べる気になれるということは、それだけ食欲旺盛で健康であり、高い免疫力も示唆されることになる。この点でも“モテる”要素が加算されているということになりそうだ。

 初めて食べるボリュームたっぷりのブンボーフェも残りわずかだ。結果的にこうして外食の機会が得られたこともよかった。行動が制約されている昨今、機会があればいろんなものを食べたいものである。そしてそこに決して下心があるわけではないが、やはりモテないよりはモテたほういいのだろう。

文/仲田しんじ

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