「期日までに返事がなければ欠席とみなす」のように、ビジネスシーンでも用いられる「みなす」という表現。近年はひらがなで表すことが多いが、漢字では「看做す」が本来の表記と言われている。この言葉は、日常表現としての使い道のほか、「看做し公務員」「看做し労働時間」といったように、公的な事柄や法律用語としての意味も持つ。本記事では、この「看做す」について、場面による意味の違いや関連表現などを併せて詳しく紹介する。
「看做す」とはどんな意味の言葉?「見做す」と違いはある?
まず、「看做す」が本来どのような意味を持つのか、法律用語として使う場合は何を表すかについて理解しておこう。同様の意味合いで使われることの多い「推定する」との違いもチェックしてほしい。
読み方は「みなす」、あるものを仮定する時などに使う
冒頭でも触れた通り、「看做す」は「みなす」の漢字表記。「見做す」の漢字が使われることもあるが、意味に大きな違いはない。「看」、「見」はどちらも「見る」を表し、「做」は「作」の俗字。「成す、あえてそうする」といった意味がある。この2つの漢字から成る「看做す」は、実際にはそうではないものをそうだと仮定する、そういうものとして扱うことを指す。
その他にもさまざまな意味を持つ
「看做す」は他にも、「見きわめる、見届ける」や「世話をして育て上げる」という意味がある。現在ではあまり使われないが、特に古典ではいろいろな作品で用例があり、平安時代の長編小説として有名な『源氏物語』の中にも「命長くてなほ位高くなども見なし給へ(長生きをして、私が出世するのを見届けてください)」という一文がある。
法律用語としての「看做す」とは?「推定する」との違い
法律、法令用語としての「看做す」は、本来性質が異なる事柄を法律上同一のものとして扱う場合に用いられる。例えば、民法第753条の「未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす」との規定がこれにあたる。
つまり、未成年の場合であっても、結婚していれば法律上は成人と同じ扱いになり、本来成人しか行えない賃貸契約などの法律行為を単独で行えるようになる。ただしこれは民法上のことであり、別の法律に基づく成人の権利は与えられない。
このように、本来は違うものを同一のものとして取り扱うことを「擬制(ぎせい)」と呼ぶ。「看做す」と同様に、「推定する」も事実関係や法律関係を擬制する法令用語として用いられるが、大きな違いはその効力の強さにある。「看做す」とされている場合、例外や反証は認められない。「〜の場合はAと看做す」であれば、A以外の選択の余地はないことになる。一方、「推定する」による擬制は確定的なものではなく、「〜の場合はAと推定する」なら、当事者から反証があったり別の取り決めがあった場合はAが覆ることもあり得る。
「看做す」の類語と関連表現
ここからは、「看做す」を使う際に覚えておきたい関連表現や例文を紹介する。特に、類似表現を理解しておくと表現の幅が広がり、語彙力アップにも役立つはず。
「看做す」と似た意味を持つ言葉
「注目する、目をつける」を表す「目する(もくする)」は、特に人や団体に対して、「首謀者と目される」「優勝候補と目される」のように「看做す」と近い意味で使われることがある。また、「そうではないものをそうだと仮定する、見立てる」といった意味を持つ「擬する(ぎする)」も類似表現で、「次期社長に擬せられる」といった形で用いる。加えて、「準える(なぞらえる)」も「あるものに似せる、別のものとして捉える」を表す言葉。こちらは、「人生を旅に準える」のような形で物に対して用いられることが多い。
英語ではどのように表現する?
「看做す」を英語で表現する際は、「regard」や「consider」がよく使われる。regardは「~と看做す、~と考える、注視する」などを表し、considerは「(ある決定や理解のために)熟考する、検討する、~と看做す」を指す単語。実際の文章では、「I regard my enemy as a benefactor(私は敵を恩人だと看做す)」のように「regard(consider)A as B」の形になることが多い。そのほか、「presume(仮定する、推定する)」「assume(思い込む、推測する)」なども類似表現として用いられる。
「看做す」を用いた例文
「この会議が終わるまでに反対意見が出ない場合は全員が賛成したと看做す」
「最後まで誰の力も借りずに完成させたものでなければ、本人の作品だと看做すことはできない」
「約束の時間になっても返信がないので、彼はいないものと看做して話を進めよう」
文/oki