男子ストリート日本代表・堀米雄斗選手 (Photo by Koji Aoki/AFLO SPORT)
7月25日に有明アーバンスポーツパーク(東京都江東区)で開催された東京五輪スケートボード・男子ストリートにて堀米雄斗が金メダルを獲得した。
長年カリフォルニア発端のカルチャーとして発展してきたスケートボードが本大会より競技として採用され、スケートボード界にとって記念すべき最初のオリンピックで、江東区出身の堀米雄斗が開催地である地元で優勝するという後世にも語り継がれるようなドラマチックな結果となった。
スケートボードは「ストリート」と「パーク」の2種目で開催
まず、競技の種目について解説しよう。今回、堀米雄斗が優勝したのは男子「ストリート」だ。「ストリート」を簡単に解説すると、階段や手すり、縁石など、現実の路上≒ストリートを模したコースで、そのトリック(技)やスピード、高さなどを競う。
対して「パーク」では、皿やお椀型のくぼ地のようなコースで、行なわれる。くぼ地を滑走するので「ストリート」よりもスピードが出やすく、くぼ地から飛び出した際に空中でメイクするトリック(エア・トリック)が評価の中心となり、その完成度や高さなどを競うシステム。
「パーク」はベニスなどで想像されるスケートパークに近い構造だ。
「ストリート」の中での「ラン」と「ベストトリック」とは?
今回の「ストリート」種目は、中でも2つに分類される。
1つ目が「ラン」だ。
45秒間自由にコース内を滑走し、トリックを決めていく「ラン」では、トリックの難易度や高さ、スピードが重視される。
もう1つが「ベストトリック」。ここでは、1発の技の完成度を競う。スケートボードには型がないので、自由なトリックの組み合わせが生まれやすい。スタンスと呼ばれるボードの乗り方や、ジャンプする際に踏み切るデッキが、前側(ノーズ)が後ろ側(テール)なのかでも大きく得点は変わる(基本的に前側で踏み切る技のほうが難易度が高い)。
上記の「ラン」を2本、「ベストトリック」を5本挑戦し、計7本の中で得点の高い4本を合計して点数が決まっていくのだ。
堀米雄斗の決勝「ベストトリック」徹底解説
堀米雄斗のベストトリックは、圧巻だった。彼が持つトリックの引き出しの多さと共に、ここぞという精神力の強さを発揮し5本中3本が9点台という凄まじい結果だった。しかも、ベストトリックでは、ほとんどが「ノーリー・バックサイド270」の応用技で、自身の得意なトリックで優勝を決めてしまったのだ。
1本目[ギャップtoレール]セクション
ノーリーバックサイド270スイッチボードスライド 8.76点
まずこの技名だが、初めて見る方にはややこしいと感じてしまうだろう。しかし、難易度が高い技というのは基本的に、いくつかの技を組み合わせて生まれるので、分割していけばわかりやすい。まずは以下のように技を分けることができる。
ノーリー|バックサイド|270|スイッチ|ボードスライド
〝ノーリー〟とは、ノーズ(スケートデッキの前側)で踏み切り宙に浮く技だ。基本的な技として有名な『オーリー』は、デッキのテール(後ろ側)を踏切にして宙に浮く。その反対だと考えれば理解しやすいと思う。
次に〝バックサイド〟は、進行方向に対して背を向けている状態で技に入ることを意味する。それはつまり、堀米雄斗がノーリーをした段階でセクションの階段が、見えていないということ。常識的に考えて階段を飛び越える際に後ろ向きで踏み込むことはないだろうが、スケートボードではそれが可能なのだ(見えない階段に飛び込むという恐怖を想像してほしい)。
〝270〟は270度の意味。デッキを3/4回転させて、レールに乗せている。それを、階段が見えない状況でだ。このあたりで、堀米の技がいかに高難易度なのかがわかると思う。
次の〝スイッチ〟とは何か。これはスタンスと呼ばれる足の位置(右足が前か、左足が前か)が、普段のスタンスと違うことをいう。わかりやすくいえば、きき腕とその反対だ。右利きの人が、左手で箸を使うのと同じように、このスイッチスタンスは想像以上にスケートボードの操作が難しい。
そして最後だ。1技にここまでの解説が必要とされる堀米の技が恐ろしい。〝ボードスライド〟とは、レールをノーズ側(前方)のエントリーでまたぎ、レールの上をスライドするトリックだ。堀米がこの決勝でのベストトリック3本目に見せた、〝リップスライド〟と一見似ているのだが。エントリー(レールに入る)する向きと、ボードの操り方が違う。これは3本目の解説を見てほしい。
以上をまとめると、1本目は普段と違うスタンスでノーズ側を踏切ってジャンプし、レールに背を向けた状態でエントリー。ジャンプ中に板を3/4回転させ、ボードの上を滑走し、着地したということになる。しかもそれを1秒も満たない時間の間にやってのけるのだ。
2本目[ハンドレール]
ミス
ミスと書くと、少し残念な印象があるかもしれないが、スケートボードは基本的に失敗するもの。街やパークでやっているのを見たことがある人はわかるかもしれないが、5本中4本メイクさせるというのは、もはや常人のそれを超えているということを理解してほしい。
3本目[ハンドレール]
ノーリーバックサイド270スイッチリップスライド 9.35点
ここで出てくる〝リップスライド〟だが、一見1本目のトリックと同じに見える。しかし、セクションへのエントリーの仕方が逆位置からアプローチしている。さきほどのボードスライドという技とよく間違われるが、こちらはテール側(後方)でレールをまたぐ。
3本目のリップスライドのほうが体をひねって、レールにはめる必要があるので難易度が格段に上がるので点数も上昇しているのだ。
4本目[ギャップtoレール]セクション
ノーリーバックサイド270ノーズスライド 9.50点
今大会の最高得点がこの技だ。
1本目「ノーリーバックサイド270スイッチボードスライド」
4本目「ノーリーバックサイド270ノーズスライド」
解説した1本目と何が違うかというと、スイッチではなくなり、ノーズでレール上をスライドしている。スイッチではなくなるということは普段から乗りなれているきき足のスタンスで踏み切っているということになるので、難易度が下がる。しかし、なぜ最高得点になったのか?
それはスライドをした部分がボードの中心ではなく、ノーズ部分だ。てこの原理で体を支えているのだが、かなり狭小なスペースであることがわかると思う。
堀米雄斗の繊細なデッキコントロールが魅せる「ゴン攻め」の技だ。
5本目[ハンドレール]
ノーリーフロントサイド180スイッチ5-0グラインド リバート(180アウト) 9.30点
ここにきて、5-0グラインドという初見の単語が。再度分割してみると、以下のようになる。
ノーリー|フロントサイド|180|スイッチ|5-0グラインド|リバート
「ノーリーフロントサイド180スイッチ」は前述した要素で理解できる。
問題は〝5-0グラインド〟と〝リバート〟だ。
まず、〝5-0グラインド〟は、縁石やレールなどにトラック(ウィールとデッキをつなぐ金属部分)を当てて滑走するトリック『グラインド』が基になっている。
『グラインド』系のトリックの基本として、〝50-50グラインド〟という技があるが、この技の「50-50」は、推進方向に対して、直進する(回転などしない)ことを意味している。前と後ろにフィフティーフィフティーのバランスと考えてもらうといいだろう。
この技を応用したのが〝5-0グラインド〟だ。50-50グラインドの状態で、ノーズ側のデッキを上げて、片側のトラックだけで滑走。『マニュアル』と呼ばれる技(バイクでいうところのウィリー)と同じ状態でトリックを決めている。
そして〝リバート〟とは、アウト(レールからトリックを決めるための着地をすること)の際に、180度回転する技だ。空中で大技を決めてもなお、追加点を取りに行く堀米の「ゴン攻め」の姿勢がここでも見えている。
オリンピックでスケボーブームなるか
始めてオリンピック種目として採用されたスケートボード。ストリートでは男女ともに、日本人が初代チャンピオンとして名を刻んだ。スケボーをやっている少年・少女たちには改めて、夢のある大会になったに違いない。
スケートボードパークも全国各地で拡大しており、よりスケーターたちが伸び伸びとプレーできる環境が整いつつある。この波をスケーターの1人としてとても嬉しく感じるとともに、カルチャー/スポーツの両側面で成長していってほしいと願うばかりだ。
文/ゴン(DIME編集部)、写真/青木紘二(アフロスポーツ)、© Atiba jefferson